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拝啓(春)

 冬の縮みこむような寒さの頃を少しずつ体が忘れていき、まだ肌寒い気温の中にも太陽の陽気を含んだ風のやわらかさに触れると、季節の変わったことをそっと告げるようです。 

 殺風景だった木々の枝からは幼い若葉が飛び起きるように顔を出しはじめ、松などの針葉樹はその葉の色がより一層つややかになっていき、冬には見向きもしなかったその鮮やかさに驚かされる毎日です。 

 近所の小川沿いを夜に歩いていると、雲一つない夜空から差す月光が、水面をなぞるように走り抜けていく様を眺めて、春の穏やかさに思わず身をあずけたくなります。 

 そんな陽春の候いかがお過ごしでしょうか。それで要件を忘れました、また今度送ります。    敬具

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