死ぬまで殺す 生きる意味とは何だろう。暗い部屋の中で自問する。 俺は全て失った。家族も、仕事も何もかも。もう四十代半ばで、この先何の希望も見いだせない。それならいっそ……と考えているうちに、指が無意識にパソコンのキーボードを叩いていた。 自殺者募集という文字がパソコンのディスプレイに映し出された。これでいくつ目だろうか。これまで巡ったどのウエブサイトもダミーか悪戯の類いだった。 ロードされたページは黒背景に赤文字という見づらいデザインで、使われ
子供社会 茜射す部屋の中で、三人の男の陰が浮かび上がっている。三人とも個性的な体型で、どの陰が誰のものか、重なっていてもはっきりわかる。 「どうぞ、部長」 「どうぞ」 太った男の両脇から、二人が何かを差しだした。 「今日は何かな?」 男は巨体を椅子にねじ込むように座り直して、二人を見た。片方が顔を上げる。おかっぱ頭が特徴的で、ずる賢そうな顔をしている。躰が小さい割に、自信のみなぎった顔で巨漢を見た。「ベーゴマ屋の新作でございます」 その言葉に、脂肪で垂れ下が
涙雪 一 もうじき年が明ける。 この時期になると特別淋しさを感じるのは、寒さの所為だけではないことを僕は知っている。 村へ向かうバスの中で僕は思い出していた。小さい頃に見た幽霊のことを。 微弱な振動が、一番後ろの座席に座っている僕の尻を揺らしている。窓の上には、古くなって変色した広告が貼り付いている。退屈を紛らわせるために、その広告に目をやるが、乗物酔いの所為で、三分と経たないうちに、読むのを止めてしまった。 バスの中は暖房が効いていて、頬がぽ
血だまりの中で君を想う 究極の愛とは何だろうか。 僕が彼女に本当に愛を感じたのは、彼女が死んだ瞬間だった。美しいなどいう言葉では言い表せない彼女を、いつまでも手元に置いておきたくて、僕のすべてを捧げた。 この世界は暗い地下室のようなものだ。蛾の群がる電灯。よどんだ空気。冷たい壁。そういった空間の中から、死ぬまで抜け出せない。しかし、愛というものはそんな暗くて冷たい世界を、あっという間に暖かくて美しい世界に変えてしまう。 日常の中で、心を保つために愛は必要になる。ただ