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幸せと儚さと美しさ

真夜中12時。静寂に包まれ、夜が世界をすっぽり包み込む時間。
時計の秒針が足踏みをしながら闇を刻む。心地いいリズム。
よし、夜と一緒に踊ってしまおうか。自由で静寂を愛する夜とはもう親友だ。


仕事をしていたときのことが思い出せなくなってしまった。
3年間毎日朝6時30分におき、日が暮れる6時30分に帰宅していた日々。
1日24時間のうちおおよそ半分を仕事に費やす日々。毎日全身泥まみれになりながらようやく見つけて学んで得たこと。傷も多く背負い、ようやく握りしめたものの大きさは今はまだわからない。


退職して2ヶ月の今、自由な時間が多くあることが最高に嬉しい。
そして小さな幸せを見つけられることが多くなった。
ストレスがない。好きなことをやりたい時にやれる。眠たい時は昼寝をし、散歩に行きたかったら外へ出て、勉強や読書の時間も気にする必要がない。食べたいものがあればじっくりレシピと向き合いながら料理を作れる。



……


1日の中で一番に嬉しくなるのは朝、太陽が昇る時間だ。ほわっと漂う新鮮な朝の空気を目一杯吸い込んで起きる。これまで鬱陶しかった朝の光が嬉しいだなんて不思議な感覚だ。余裕があるとはなんていいことなんだろう…

晴れの日は洗濯日和。
洗い立てのタオルがパリッと乾き、ドヤ顔をしてキマってくれる。そして、お散歩日和でもある。すれ違う柴犬が飼い主の手を引いて、我先にこの晴れた世界を堪能してやるのだ、と言わんばかりに尻尾を振りご機嫌そうに歩いている。お花屋さんの前では可憐で美しい花々が咲き乱れ、道ゆく人々を誘惑する。誘惑に負けた私は、花々に瞳と心を盗まれる。そこでお気に入りの花瓶に入って嬉しそうな花の想像をしながら、じっくりと花束を選ぶ。君に決めた!と思った瞬間にはもう部屋にお花を飾り、心が癒されほわっとした優しい気持ちになっている。

昼下がりのダイニングテーブル、柔らかく差し込む光が注ぎたてのコーヒーの上で無邪気にキラキラと乱反射して輝く。きっと心優しい光がコーヒーに美味しくなるおまじないをかけてくれたに違いない。
窓からそっと忍び込んできたそよ風はそっと私の頬を撫でて通り過ぎていく。また誰かの頬っぺにそっとキスをしてどこかへすうっと消えてしまうんだろうな。



雨の日は屋根の上で雨粒たちが愉快にダンスをする。
雨を待ち望んでいたいきものもたくさんいるだろう。
しとしとと大地に命を与える雨と、歓喜のパーティをする草木や苔玉と、もっそり葉っぱの上でスケートをするかたつむり。
水溜りをいくつも踏み歩くと靴が雨水を歓迎して吸収する。家へ帰って苦笑いをされ、玄関先に干される靴はどこか嬉しそうだ。

………

世界を小さく切り取ると美しく儚い。

そんな儚い世界だからこそ、明日この世界にいなくなってしまってもいい、と思えるくらい今を大切にしたいと強く思うようになった。行きたいところにはいける時に行って、会いたい人には会えるうちに会いに行く。この言葉は心に刻み込んでいる。

何気ない生活風景の中に美しさを見つけ、丁寧に毎日を、感情を、時を優しく抱きしめていきたい。常にこの一瞬を好きでありたい。

この世界に後悔、悩みは尽きないけれど、ずっと心の底に残る悲しくて溶けた気持ちは、心の海にそっと流そう。思い出すと泣いてしまうような感情も、そっと心の中の深い森に隠してしまおう。癒えなくてもいい。マイペースに自分と向き合おう。そんな優しい気持ちで世界をみていると、全てが素敵だ。

言葉がうまく紡げなくても、汚い感情に支配されても、誰かに嫌われても、
私は私の道を歩いて生きていきていけたらいいな。

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