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MIRANDA YOKOTA インタビュー:「知らぬが仏」も振り向かす 生と死が交わるサイケデリック現代絵巻


目黒区青葉台のMDP GALLERYでMIRANDA YOKOTAの個展「IGNORANCE IS BLISS」が開催された。そこに並ぶのは極めて猥雑で無秩序、無宗教で無国籍な曼陀羅。圧倒的な質量の情報量、色彩、視覚に訴えかけるそれは、有象無象を丁寧に具象化し、一つ一つに色と名前を付けて行くような、途方もない所業のように思える。

浮世絵や海外の伝統的な文様などを高いクオリティで再現したかと思えば、現代的なモチーフやブランドロゴをシニカルにマッシュアップして見せる。変幻自在の画風で混沌の現代社会を描き出すそれは、まるでサイケデリックな浮世絵と形容しても差し支え無いだろう。描くのはアーティストMIRANDA YOKOTAである。その生い立ちや背景は「OTAQUEST」にて掲載された、英訳記事の日本語版のインタビュー(+DA.YO.NE.)を参考にしていただくとして今回はその最新の動向を紹介したい。

インタビュー取材が予定されていたものの、会期中MIRANDA YOKOTAは体調を崩してしまい会って話を聞くことは叶わなかった。作品作りに取り憑かれたように没頭した結果、魑魅魍魎が跋扈する世の中の業を背負いすぎてしまったのかもしれない。などと書くのは大袈裟かもしれないが、メールでインタビューに応えてくれることになった。

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自分のことを“アーティスト”と言ってもいいんじゃないか、という許しが生まれた

ーコロナパンデミックが続いていますが創作活動や生活で影響している部分はありますか?

MIRANDA YOKOTA(以下:MIRANDA):感情を原動力にして作品にぶつける題材が増えた為に描きやすいし、作りやすくなりました。コロナ禍によって浮き彫りになったことがたくさんあるので。例えば国の動きに対する怒りとかそういう感情がさらに高まったので。

ー前回の「OR」での展示以降、生活を始め、意識や創作において変化したことはありますか?

MIRANDA:「OR」で展示した際、私が作ってきた中でいちばん大きな作品が、2作品売れたんです。それまで絵を売った事がない上に、“売れる”という経験をした最初の作品が最大サイズの作品だった。

しかも購入してくれたのは中国の現代美術家のYUE MINJUN(=中国・北京出身のアーティストYue Minjun/岳敏君、ユエ・ミンジュン。コム デ ギャルソン・シャツ/COMME des GARÇONS SHIRTの2021年春夏コレクションにアートワークを提供し、コラボレーションするなどファッションシーンでも注目される世界的美術家)というサプライズ。

「OR」での展示が「HYPEBEAST」に掲載された事で、購入してくれたのですが、今でも夢なのか本当なのか疑ってます。不安になる時は「自分の作品はYUE MINJUNに買ってもらえたんだから」と自信がみなぎるし、糧になっています。

そして「私もアーティストとして活躍したい、するんだ!」という意識がはっきりと芽生えた瞬間でもありました。

私がアーティストや画家を名乗るには認知されてない上に、評価もなかった。「私、アーティストですけど何か?」みたいな言葉を使って自分を表す事に恥ずかしさと「こんな自分がアーティストなんて言っちゃいかんだろ」という葛藤がありました。村上隆や松山智一といった世界で活躍する人、ギャラリー開いたら即完とか、そういう人だけだと自分の中の感覚で決めつけていた部分があります。

でも今は“アーティスト”という言葉と並行して画家、美術家と堂々と名乗れるレベルになりたいと思うようになりましたね。

それを踏まえて自分のことを“アーティスト”とは言ってもいいんじゃないか、という許しが生まれました。きっとこの出来事は今後の自分においての大きな武器であり、不安を払拭してくれる安定剤です。

ー「OR」から今回の展示までの経緯を教えてください

2020年の12月にORでの展示終わった後、ヨネ(米原康正)さんと葉子(米原葉子)さんにご飯に連れていって頂きました。そこで急に「個展やろう」と言ってくださって、
今回個展の機会を設けてくれたんです。

その話の後、2月にヨネさんが「Weiboアワード」(=中国最大のソーシャルメディア、Weibo(微博)で活躍するアカウントを表彰するアワード。2021年は他にもSnowmanや齋藤飛鳥(乃木坂46)、May.Jなど日本の音楽アーティスト・タレントから、宮野真守といった声優まで、各部門ごと活躍した人物に賞が贈られた)受賞した時にヨネさんのピックアップアーティストとして友沢こたおちゃん、雪下まゆちゃんとともにWeiboアワードに出させて頂きました。夢か。

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ー今回の展示タイトルを「IGNORANCE IS BLISS」に決めた理由と展示のコンセプトを教えてください。

MIRANDA:日本語にすると「知らぬが仏」という意味。そこに自分達の人生は、皆、錯綜されるように設計されているのではないか、と、自分なりの考えを込めました。コロナ化という昨今の情勢に生と死を身近に感じるようになり、その中でも悪事を働く者、目を瞑る者、知らずに幸せだと思って生活する者など、その人の在り方が露呈してしまう世を、鮮やかな色彩と古今東西の装飾柄や視覚の技法を用いて表現しました。

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ー「OR」で展示していた作品もあり、今回の新作との絵の対比も見どころでした。比較するとより緻密になっていると感じましたがこれは意識して変化したものでしょうか?

MIRANDA:今回の個展からヨネさんの発案でキャンバスに描いたことも大きな違いです。実は今回の個展まで一度もキャンバスに描いた事がありませんでした。それまで紙にアクリルだったのですが、一度キャンバスに描き起こすとその扱いやすさからもう紙には戻れなくなりましたね。

紙だと失敗すると紙なので水分量の問題で元に戻れないですが、キャンバスは上から何度も塗り重ねる事ができるので、直しが効きやすい。あとは基本的なことですが、筆を新調していいものに変えました。これまでよりも毛先が細いものを使っているのでさらに緻密な作品制作が可能になりました。

藝大卒業ではないので技術や “絵の上手さ”という点では確実に劣ります。そこをリカバリーする為にどうしたらいいかを考えたときに、自分の売りである細かさと拘りの強さ、描き込みを武器にして前面に押し出したのが今回の作品です。

変な話、芸術(授業スタイルという形学校)を学んでない人が描く絵は、見方によってはバスキアのようにもなるし、逆に中学生の美術作品みたいにもなり得る。それがキャンバスだと余計際立つ気がしていて。だからこそ、ただこれまで通り自分の頭の中のものを描くスタイルだけだと“絵が上手い”人には勝てないと思って工夫しました。

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MIRANDA YOKOTAを形成する服、本、映像、空間

ー米さんから宿題として自身の作品解説を書いていましたが非常に魅力的でした。今後の展示でキャ プションを添えたらよりミランダさんの作品が魅力的になるかと思ったのですが文章を書くことは 好きですか?またこれからも書いてみたいと思いますか?

MIRANDA:文章を書くことは得意ではありませんが、今回、作品説明を書いてみて、好きなんだなと思いました。バッと質問されたとき、答えが整理されてない状態のことが多かった。間をあけるのが怖いので、焦りから急いで答えてしまって、本当に思っていることと少し違うことを言ってしまうこともしばしばでした。言葉に詰まって本当に言いたいことを伝えきれなかったりするのがジレンマだったんです。だからこそ作品の説明書きを文章で載せてもらう機会をヨネさんから与えてもらえて、救われたなと思います。米さんのおかげですね。ハチャメチャですが、これから作品の説明だけじゃなくて楽曲のリリックを書いたり、文章を書く仕事もしてみたいです。 

ーミランダさんの作品からは現代的なモチーフとともに、多数の宗教、文化的な影響を感じます。トラディショナルな文様から、曼荼羅、浮世絵のようなタッチまでを同じキャンバスの中で一つにし ています。そこにメッセージや意図しているものはありますか?

MIRANDA:日本人として日本の文化を重んじたいというポリシーがあります。日本人なのに海外に憧れすぎて、日本の文化よりアメリカに寄った作品になる事はダサいと感じてしまいます。私的には日本特有のテキスタイルやモチーフとなるものがやはり私の中では1番カッコいいと思っています。

曼荼羅や宗教的な部分は、制作プロセスのところで言ったように、インドの極楽浄土的な文化があったら絵面的にハマるか否かを重視しているので、一旦、宗教的な背景や意味は持たせていません。

ーミランダさんの作品から感じるミクスチャー的な部分はどういうところからインスピレーションを受けているのでしょうか?、映画、本、作品、出来事、などなんでもいいので教えてください

MIRANDA:確実に言えるのは小さい頃から中学3年まで着ていた子供服ブランド「boo foo woo」が展開するオリジナルブランド「back alley」が影響しています。幼少期にそのデザインに囲まれていたので、値段は高くても人格形成においてとても重要な時期に、ずっと着せてくれた親には感謝しています。

日本の文化は浮世絵の本を購入して勉強したり、特に歌川国芳が好きなのでそこから学ぶことは沢山あります。

あとはDOVER STREET GINZAの空間が凄く好きで、よく行きます。洋服を見るというよりは作品を見に行っている感覚ですね。あとは、小宮山書店。他の本屋行っても、いまいちハマらなくて。ヨネさんと葉子さんが連れて行ってくださって以来、都内に出たら小宮山書店に寄って刺激を受けに行きます。“好き”がすべて詰まっている空間なので何時間でもいられます。横尾忠則の原画や、田名網敬一、ファッションブランドの昔のルックブック、本屋なのに夢の国より気分がアガります。気になった本や、「ガロ」買ったりして持ち帰って隅から隅まで読みますね。

映像だと、「VICE」のドキュメンタリーや、丸山ゴンザレスの「裏社会チャンネル」も好きです。特に「VICE」は日本にいるだけでは知ることの出来ない海外の文化、民間伝承や土地独自の文化を掘り下げているのでよく観ています。中国にある「小人の王国」や、「身元不明遺体を復元させる メキシコの法歯学者」、「ネパールの生き女神クマリ」などがお気に入りです。


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“暗黙の了解”とか“空気を読む”、ウンコみたいな世の中で

ーミランダさんの作品には死生観が強く反映されている気がするのですが、普段の生活で死を意識しますか?

MIRANDA:そもそも、死を意識せずに生きることが考えられないです。常に死を意識しています。今まで、意識的に考えた事はなかったけど。私自身もそうですが、例えば電車に乗っている時の他人の何げない行動から思うこともあれば、友達や家族と楽しい時間を過ごしていても、「あと何回こんな時を過ごせるんだろう」と思うし、自分の飼い犬に対しても同様です。この人が死んでしまったら、悲しむ人がたくさんいるんだろうなとか。そういう事を常に考えています。

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ーミランダさんはSNSで積極的に政治や社会について自分の意見を積極的に発信されています。以前合同展の作品にミランダさんの作品を選んだNYのアーティスト、ルシアン・スミスもアートで人々、社会の役に立つ活動を「Saving the People」として行っていますが、アートと社会の関わりについてどのように考えていますか?ミランダさん自身どのようにありたいと考えていますか?

MIRANDA:政治や社会についての疑問や、思うことをインスタにあげていたら言い過ぎだとか、あんまり言わない方がいいよとかDMで来たり、わかりやすくフォロワー減ったりしました。

なんで日本は日本の問題について発言をしたら“ヤベェ奴認定”されて頭おかしいみたいな捉え方をするのか意味がわからない。というより、そういう思考になるよう植え付けてきたメディアの洗脳ってすげぇとも思う。

日本における“暗黙の了解”ってかなり有る気がする。“空気を読む”とか反対意見が許されないという風潮。正直そういうやつがうじゃうじゃいるから、ウンコみたいな世の中になってきていると思う。別にアーティストだからとかこう振る舞わなきゃいけないというルールはないけど、自分を表現する活動をしている以上、社会に対して思うことを言ってはいけないなんてのは違う気がする。

ツイッターで誰かが「日本では文化藝術が軽んじられている」とツイートしているのを見ました。日本は文化と藝術は無料で楽しめる、お金を払うに値しない物だと思ってる人が多いと思う。私は本気で絵を描いていたつもりでいたが人から“お絵描き”といわれた事があります。当然自分が評価されてないから、という事も理解した上で、結構傷ついてしまった。お絵描きと落書き、それらと一緒にしかみてもらえない事実。それが全てな気がした。

「社会」を辞書で引くと、“人々の集まり”と書かれているが、私の中での社会は、“資本あっての人間の生活”という意味で捉えています。そういう意味でいうと、社会とアートは日本ではまったく別物で、つまり社会のジャンルのなかに文化芸術はないと考えます。
そして資本の衰退と文化藝術が軽んじられていることは連動しているし、資本がなくなれば文化藝術は真っ先に切り捨てられる。そういうところを見ていくと、日本が間違った方向に舵を取られていて、完全にコントロールを失っていると思う。乗っ取られていると言ってもいい。文化藝術がこれからどんどん日本からなくなって、表現したくても経済的に出来なくなって追いやられる社会を想像すると、日本じゃなくて日本以外の国で活動できるようになれたらと思います。がんばりたいです。

ー最後に今後実現したいこと、予定しているプロジェクトなどありましたら教えてください

MIRANDA:ヨネさん企画で、写真家のNAKAZAWAさん(KOUICHI NAKAZAWA/GOTHAM TIMES)と一緒に作品を制作中です。

ヨネさんが「OR」でつないでくださった海外ブランドの洋服とのコラボのお話しがありました。それも楽しみですね。あとはスノボの板のアートワークを手がける予定です。実現したいこととしては、絵を使ったテキスタイルをやってみたいです。

自分の作品の知名度が上がって、エディション(=限定数で擦られる公式の版画)で作品を作れるようになりたいですし、海外でも展示してみたいです。作品の数はまだ少ないですが、作品と文章がセットになった作品本もいつか出したいですね。また、自分の中のメルヘンな部分で作り出した、作品とは全く異なるキャラクターも並行して走らせて行きたいです。おバカなのですでに商標登録もして商標権もゲットしているので、どんどんやって次世代のキティーを目指しています!



インタビュー文の中にあるように、MIRANDA YOKOTAは療養の間、本展のキュレーター米原康正の提案で、テキストで自らの作品解説を試みている。その文体、リズムの独自性は編集者でもある米原康正が「もっと早く気づけば良かった」と舌を巻くほどだ。

多めに質問を投げたにも関わらず、圧倒的な質量と熱量を伴う文章を、秒で返してくれたことに驚いた。体調を崩したと聞いて心配をしていたが、その文章から感じ取るに、いらぬ心配だったようだ。

本インタビューは、ドライブ感のあるカッ飛んだ原文を元に、編集を加えさせてもらった。できる限り、MIRANDA YOKOTAの持つバイブスと、MIRANDA YOKOTAとしての言葉はそのままに。ある意味で、今のMIRANDA YOKOTAを記録するにはテキストでのやりとりが最適解だったと言えるかもしれない。「IGNORANCE IS BLISS」=「知らぬが仏」、なのかもしれないが。

Text:望月”Tomy”智久

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