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安藤しづかと付箋girl®「moment」を前に

序文 

日本画をルーツに持つ2人のアーティストが米原康正のコラボブランド/レーベル「+DA.YO.NE.」と、台東区・上野のギャラリー「Sho+1」のキュレーションのもと、2人展「moment」を行う。

 
1人は安藤しづか。岩絵具(鉱石を砕いてつくられた粒子状の絵具)や和紙といった日本画伝統の素材を使いながら、新しいエッセンスとセンスをブレンドし。作品を創造するアーティストだ。モチーフもさまざまで、古来からの風景画も描くが、人物画が多い。それも西洋の、いわゆる外国人をモチーフにすることも多く、日本画の素材と技法を使って描かれるその作品は、不思議な質感とミステリアスな雰囲気を伴って斬新な雰囲気に惹き付けられる。

安藤しづか「私ともうひとり」

 

もう1人は「Sho+1」所属の付箋girl®(フセンガール)。名の如く、1日1枚、日付を記した付箋に人物画を描き続けている。繰り返しになるが、媒体となるのは、75mmの四角い付箋紙。私たちが日常でよく目にする、何の変哲もない付箋紙である。しかし付箋girl®がそこにペンを走らせれば、驚くほど瑞々しい表情を浮かべた、鮮やかな人物画が浮かび上がってくるのだ。その目は力強く、飛び出してくるかのごとく鑑賞者に迫る。彼女もまた、藝大では日本画を専攻していた。


付箋girl®「April 29th-May10th, 2022」

 

そんな安藤しづかと付箋girl®を結びつけた「+DA.YO.NE.」と「Sho+1」。それぞれ“+”の符号を持つブランドとギャラリーがキュレーションする両者が邂逅することによって、付箋girl®の返答にもあるように“1+1”以上の化学反応を目論む。

 展示の全容は当然ながら会期が訪れるまで分からない。そこで、「+DA.YO.NE.」では独自にアーティストそれぞれにメールによるインタビューを敢行した。共通の質問と、それぞれに対する個別の質問を投げかけている。それらの質問は、日本画古来の絵具を使ってノスタルジアを感じさせる安藤しづかのように、自身のルーツを辿り、幼少期の記憶を掘り起こすものであり、付箋girl®のように断片的な瞬間の情報を付箋紙で繋いでいく作業だ。

 

 

■これまでの経緯、ルーツを探る

 

ーいつ頃から絵を描いていますか?また、その当時何を描いていましたか?

 

安藤しづか(以下:安藤):物心ついたときから絵は好きでした。動物とか花とかよくある子どもらしい絵だったと思います。

 

付箋girl®:(以下:付箋):2歳くらいから動物を描いていたようです。

 

ー絵を描き始めたきっかけを覚えている限りで教えてください。

 

安藤:これと言って覚えてないので、最初は数あるおもちゃのうちの一つだったと思います。

 

付箋:リビングに紙と文房具がいつでも使えるようにしてあったので、自然に手に取っていました。

 

ー家族や親族に美術に携わる人はいますか?

 

安藤:いません。

 

付箋:いません。

 

ーその当時(幼少期)に影響を受けた人、もの、ことを教えてください

 

安藤:誰からの影響も受けてないのに、なぜか私だけ絵が得意で不思議でした。

 

付箋:大人の評価を介在させることなく、図工道具を潤沢に、かつ自由に使える幼稚園に通っていたことが、物作りの楽しさを体得する原点だったのではと思っています。

 

 

ー自身が絵を描くことに対して、家族や周囲の反応はいかがでしたか? また、自身がアーティストとしての人生を具体的に志したのはいつですか?

 

安藤:基本的には寛容でした。高校生くらいだったと思います。

 

付箋:ありのままの姿として自然に受け入れられていました。中学生の頃です。

 

ー自身のアートに影響を及ぼした事柄を教えてください(アート、音楽、映画、漫画、思想、人、なんでも)

 

安藤:これと言って思い当たらないので、逆に言えば人生で出会うもの全てに影響されてたのだと思います。

 

付箋:本当にたくさんのいろんなもの・ことが強弱で影響しあって今があるように思いますが、具体的に一つ挙げるとしたら東大医学部の実習室を訪れたことです。

 

ー自身のターニングポイントとなった展示や出来事があれば教えてください

 

安藤:幼少期にいったルーヴル美術館でしょうか。

 

付箋:Art Fair Tokyo 2022。リアルの展示で大変多くの方に付箋girlの付箋絵を知っていただくことが出来ました。お求めいただいた方やご覧いただいた方の声を聞けたことがとても大きかったです。

 

ーアートや創作に対して、嫌になったことはありますか?逆に、本気でのめり込む瞬間や楽しいと実感できた経験があれば教えてください

 

安藤:思いついたときが1番楽しいです。描いていくうちに上手くいかなくて嫌になることはよくあります。

 

付箋:アートに対して思うことはたくさんありますが、自分の責任でできること・発信していける範囲の外の事柄に対しては何か言えるようなものはありません。アーティストだけでアートが成り立っているわけではないので。

 創作においては描いてる限り自分と向き合うちょっとした辛さは必ずあるものの、基本的には楽しいです。絶望したり大嫌いになるということはありません。美術予備校で絵の勉強を始めた高校2年の夏期講習の、寝食を忘れてぐんぐん画力が伸びた時がもっとも没入感ある楽しい時期でした。

 

■米原康正(+DA.YO.NE.)との出会いと本展について

 

ー米さんとの出会いについて、そのときの印象も含め教えてください。

 

安藤:私が貸画廊で個展をしていたときに来てくださいました。パワフルな人という印象でした。

 

付箋:米原さんからTwitter DMで声をかけていただいたのが最初です。

柔軟さのあるきちんとしたご対応で、何よりすごいパワフル!というのが印象でした。

 

ー2人展を行う経緯についてそれぞれの視点で教えてください。

 

安藤:米さんから連絡が来て、付箋girlさんの絵を見てぜひご一緒させて欲しいと思いました。

 

付箋:米原さんにいくつかお話を頂戴していたのですがなかなか叶わない中、この展示のお話をいただき、安藤さんが米原さんの、付箋girlがSho+1キュレーションでの展示ということで“1+1”以上の面白い化学反応が起きるのではないかと感じました。ご一緒できて光栄です。

 

ー「+DA.YO.NE.」が本展や作品について影響した部分を教えてください

 

安藤:いつもよりも小作品を多く描いています。

 

付箋:様々な形の『今日性』を見ることができ、枠をはめない自由な感受性をもっと自分なりに研ぎ澄まし追求していいのだと感じさせられます。

 

ー安藤しづかさんと、付箋girl®さん、互いに日本画をバックボーンとして共通点がありますが、互いに思う、似ている部分やシンパシーを感じる部分と、一方で明確に異なる部分を教えてください。

 

安藤:人物モチーフという点で共通していますが、私は人物の内面やストーリーに注目することが多く、それに対して付箋girlさんの絵は直感的な美しさを重視しているように見えます。街で綺麗な人とすれ違ったような、そんな印象を感じました。

 

付箋:日本画の画材というのは親しみやすいご機嫌な道具では決してなく大変気難しい。それを自らの表現を託す相棒としてきたこと自体 もう無条件で分かり合えるところがあります。付箋girlが日本画出身者とはおそらく思われなかったでしょうから、そういう現在の表出している・させている部分は明らかに異なるかと思います。

 

ー今回の展示が実現していくプロセスとコンセプトをそれぞれの視点で教えてください。

 

安藤:自分の制作のコンセプトやプロセスとしては、いつもとあまり変わらずにやりました。自分らしい視点を貫くことが2人展の意味かな、とも思いました。

 

付箋:今展でもコンセプトは『今』です。このようなご機会をいただいたこと、安藤さんという作家との出会いや、プロセスそのものも丸ごと『今』の表現になるのではないかと思っています。

 

ー今回の展示をどのように楽しんでほしいと思いますか?見どころを教えてください

 

安藤:それぞれの視点で捉えられた人物像を楽しんで欲しいと思います。

 

付箋:同じ今を生き 創作の根っこを日本画とする二人の作家がどのような作品を描き出しているのか、その対比やグラデーションが見ていただけると思います。

 

ー今回の展示について新しくチャレンジしたことがあれば教えてください。

 

安藤:今まで人が2人いる絵をよく描いてきましたが、今回のように相手の顔が見えない絵は初めての試みです。自分の中にいるもう1人というようなイメージで描いてます。

 また、私は普段は10号前後の絵を描くことが多く、小作品をたくさん描くことはあまりしないのですが、付箋girlさんとの2人展ということで小作品を多くしてます。

 小作品は2枚1組の連作になっています。こういった連作も初めての試みでした。

 

安藤しづか 刹那 Ⅲ (1)
安藤しづか 刹那 Ⅲ (2)


付箋
:紙やキャンバス作品に加えて、自身の生活の中で集めてきた様々な紙類にも描きました。

付箋girl® Untitled 2023

 
ー2人展を行うことへの意気込み、作品を制作してみての感想を教えてください。

 

安藤:面白くなるんじゃないかと期待してます。

 

付箋:展示の際はほぼ毎回新しい試みにチャレンジさせていただいているのでその少し落ち着かない気持ちとワクワク期待感、実際並べたらどんなふうな空間になるのか楽しみです。

 

ーアーティストとしてこれからどのように活動していきたいか、また思い描く理想の展望や“ゴール”と言えるような目標があれば教えてください。

 

安藤:死ぬまでに一枚でも自分が本当に満足する絵が描けたら良いですね。

 

付箋:絵を毎日一枚描くライフワークをできるだけ長く続けていきたいです。描いた絵が、出会う人々が運んでくださる未来に これからもしなやかに響き合っていけたらと願っています。

 

■安藤しづかと付箋girl®をさらに知るために

 

安藤しづか、付箋girl®には上記の共通質問以外に、それぞれに個別の質問を投げかけている。ここからは、その返答を交互に記載する。互いにベースとしている日本画へのアプローチや印象も含め安藤しづかと付箋girl®を深掘りしたい。

 

ー付箋girl®さんが付箋という媒体に作品を描いたきっかけを教えてください。

 

付箋:全てにおいて重厚な手法である日本画の相対として、新しい表現手段を探していました。『今』をその日のうちに捕まえてTL(タイムライン)を作り出すのには付箋紙がぴったりだったからです。(始めた当初は縦型の手帳に見開き4枚で貼り付けて記録、管理していました。)

 

ー安藤さんの作品のベースとなっている日本画の魅力とはなんでしょうか?

 

安藤:素材感がよく見えるところでしょうか。他の画材にはない粒子の荒さが好きです。また最近は典具帖紙(てんぐじょうし=良質のコウゾ繊維が原料の、薄く手すきした和紙。 機械ずきもある)もよく使います。特に和紙の繊維が美しく、魅力的だと思います。

 

ー付箋girl®さんが藝大で日本画を学んだことで自身の作品に活かされている部分はどこでしょうか?

 

付箋:絵の全てをコントロールしようとしないこと。手を動かすのは自分であっても、描くのは画材の力を借りて描くのだということ。常に描きながらお伺いを立てている感じで制作は進みます。

 

 

ー安藤さんは今の自身のアートスタイルをどのようにして確立していきましたか?

 

安藤:基本的には自分が落ち着く世界感を描くということで一貫していたと思います。この世界に入りたいと思えるような絵を描いてます。

 

ー付箋girl®さんは今の自身のアートスタイルをどのように確立していきましたか?

 

付箋:なぜ付箋を絵画媒体にしたのか?というご質問と繋がって、付箋girlを始めるときからフォーマットやルールのような大枠が決まっていたので、そこは全く変わっていません。

 

ー安藤さんはアートスクールの講師としての経験もありますが、経緯を教えてください。また、講師として、画を教える立場に立ったとき、自身が得られるものは何だと思いますか?

 

安藤:友達の紹介でやらせていただきました。教えることで自分の考えや知識が整理され、より深く自分を理解するきっかけになります。また生徒さんの絵を通して自分にはないアイディアに触れることはとても楽しいです。

 

ー付箋girl®️さんにとっての付箋の魅力を教えてください。

 

付箋:単純に好きです!文具としての機能性の高さはもちろんのこと、見る人それぞれとパーソナルな関係性を築き、感情を想起させることのできるキャンバスとしての可能性を見出しています。

 

ー安藤さんが描く作品の着想になっているものはどんなものでしょうか?また、どのようなイメージで作品を作っていますか?

 

安藤:基本的には自分が落ち着く世界感をつくるということで一貫してると思います。

「この絵の中に入りたいなー」って思える絵を描いてます。

 

ー自身が描く人物の着想となっているものはなんでしょうか?

 

付箋:日常のいろんな関係性の人々、全てです。例えば、友達から今日電車で乗り合わせた人までさまざまです。

 

ー以前、安藤さんは「目をはっきり描かないことが多い」と発信されていますがその理由はなんでしょうか?またそうすることによって作品にどんな影響があると考えていますか?

 

安藤:「人」を描くというよりかは、「人影」を描くというようなイメージだったので、断定しない人物像のほうが心地よいと思いました。

 

ー付箋girl®さんは名前に®、™などの商標表記を付けていますが現行の表記と、その理由を教えてください。

 

付箋:以前、なりすましや乗っ取りの懸念のある事案が起きたため、法的に身分を保証する商標権を取得しました。

 SNSや展示を見てくださる皆様、絵のオーナーの方々、ギャラリーの皆様にこの先も安心して見ていただけるようにとの意味合いも大きいです。

申請中は™️(商標マーク)しか使えないのですが、取得後は®️(商標登録マーク)が使え、周知義務もありますので現在は®️付きで名乗っています。

 

ー安藤さんが日本画の表現から離れた作品を描くとしたら、どんな作品を描きたいですか?また、日本画以外のアートで惹かれるものはどんな作品ですか?

 

安藤:クレヨンとか切り絵とか、童心に帰るような材料を使って作品を作りたいです。自分が見る分には画材関係なく楽しんでいます。

 

ー付箋girl®さんは人物画以外、または付箋以外の媒体に作品を描きたいと思いますか?また、付箋girl®️さんが惹かれるアート作品はどのようなものでしょうか?

 

付箋:あらゆる可能性があると思っています。チャンスがあってやってみたいと思ったことには挑戦していきたいです。

 阿(おもね)ることのないドライで痛快な作品が好きです。

 

いかがだっただろうか?そもそも、インタビューとは全く野暮なものである。アートに関して言えばなおさらそうなのかもしれない。作品が全てであるからだ。しかし、その背景にあるバックボーン、文脈を知ることによって、より作品が魅力的に映る、ということも人間にはあるはず。欲を言えば、言語化したり、体系的に情報を編集することで、アーティストにとっての役に立つこともできたとしたらそれ以上嬉しいことはない。

 

あえて今回、テキストでのやりとりという方法を取った理由は、テキストだからこそ、両者のパーソナリティの輪郭が明確に見えてくるような気がしたからだ。協力してくれた両アーティストには感謝を伝えるとともにこの2人がどんなアーティストなのか、そしてどのような展示になるのか、ヒントとしての記事になるように原稿を作成した次第。

 

そこに居合わせることなく、申し合わせたように共通している点、一方で全く異なる見解、偶然性と必然性が入り混じる回答の数々に興味は尽きない。浮かび上がってくるアーティスト像を想像しつつ、展示への期待を膨らませる一助となれば嬉しい。

 

Text/Edit:Tomohisa “Tomy”Mochizuki


展覧会の詳細    
付箋girl®︎ × 安藤しづか 二人展「moment」  
会 期|2023年7月7日(金) - 7月29日(土)
時 間|12:00 - 18:00
休廊日|7月10日(月)、11日(火)、18日(火)、19日(水)、24日(月)、25日(火)
 ※日曜・祝日開廊。本展は、通常の営業日と異なりますのでお気をつけ下さい。  
【オープニングレセプション】 7月7日(金) 18:00 - 20:00
会 場|Sho+1 東京都台東区上野1-4-8 上野横山ビル1F 
入場無料

 

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