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痛みの中に何を見出すか 韓国映画「ペパーミントキャンディ」

今回は同じ時期に見たメキシコ映画「ROMA」と一緒にお送りすることにしました。
なぜなら「あの頃はよかった」と懐古的な部分が共通しているから。でも、その内容も伝えたいことも、映画表現というものは同じなのに、こうも違うかと。
是非、比較しながらお読みください。

誰にでも、目を細めてぼんやり思い出す、「あの頃はよかった」と思える時や場所があると思う。歳をとればとるほど、思い出すことの数は増えていって、絶対に戻れないとわかっていながらも僕たちは目を細めることしかできない。

本作「ペパーミントキャンディ」は、「お腹痛くなるの分かってるのに、つい食べちゃう美味しい激辛韓国料理」のキャッチコピーでお馴染み、韓国の名監督イ・チャンドンの作品。一人の男の生涯を、人生の分岐点ごとに映し出し、「人が変わっていく様」を強い衝撃とともに観ることができる。「ROMA」と比較するなら、本作は美しい思い出よりも、目を背けたくなるような出来事がたくさん映される。そして、正の経験も負の経験もまさにその人間を作り上げる一因だということをまざまざと見せつけてくる。

同監督の「oasis」は先日note公開しましたが(https://note.mu/yonayona_bunko/n/n91894c76532b)、本作でも名優ソル・ギョングとムン・ソリが共演しております。ソル・ギョングはカメレオン俳優と呼ばれており、本作でもカメレオンっぷりが炸裂。純朴な文学青年が徴兵で戦場を経験する警察の闇の部分に染まる事業を起こしてうまくいく/失敗する。その経験の一つ一つがキャラクターを変える、容姿を変える。その様子をすべて演じ切る懐の深さ。また、ムン・ソリについては、元気溌剌で純粋な可愛らしい様子から一転、病気の姿。ムン・ソリについては、遠慮なく言わせてもらえれば、病気の演技をさせたらこんなにうまい人はいない。いつも心が痛くなるけど。

「戻りたい!」
ソル・ギョング演じるヨンホはそう叫ぶけれど、映画を観終われば、ヨンホはどこに戻りたかったのだろうと、そう疑問に思います。どの時期にも辛い経験をして、その経験すべてが彼を作り上げて、彼の幸福とは何だったのか、そう思わずにはいられません。

強烈な方法であるけれど、だからこそ、この映画は色々なことを観客に提示します。まず、人は、どんな形であれ、「必ず死ぬ」ということ。また、その過程を痛々しく見せることで「人は変わってしまう」ということ。痛くてたまらない映画の中で唯一といえる救いのようなものは、人格を変えうるような出来事の嵐の中で変わってしまった人間であっても、変わらない思いや記憶があるということ。ペパーミントキャンディが、まさにその部分を表現しています。

この映画、というかこの監督の映画をみると大体痛くて辛くなるけれど、たぶん僕らはそこから何かプラスのことを勝手に学ぶべきだと思います。「人は変わってしまう」ではなく「人は変わることができる」という風に。

監督作品は、観たら「絶対お腹痛くなる」んだけれど、こんなに刺激的で目が離せない映画体験は中々ないので、是非皆様ご覧ください。一度見たら癖になって戻れません。あ、絶対元気があるときに見てくださいね。

「ペパーミントキャンディ」(イ・チャンドン監督、2000年公開、韓国映画)

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