見出し画像

2年目の集大成イラスト【制作過程まとめ】

 イラストを描き始めて、ツイッターで投稿し始めて2年が経ちました。
 2年目はKindleで出した自著のキャラクターデザインや挿絵を描いて、さながらライトノベルにしたり、ツイッターで企画をしたり、スキルマーケットでイラスト制作のご依頼をいただいたりと、1年目に比べれば大きな変化のあった1年でした。

 そして、もうすでに3年目に入っているわけですが。
 昨年もそうだったように、今年もこの1年の集大成となるイラストを描こう、と。
 ちなみに1年目の集大成についてはこちら。

 結構長いです。
 それに細かい。
 1年前の自分の考え方とか描き方が割としっかり残っている感じがします。

 じゃあ、その時の自分と比べて今はどうなんだろう? と。
 そんな、過去の自分との比較や、あれからどれほど成長できているのかという確認の意味も踏まえて、1年の節目となる集大成を描くに至ります。


【制作過程】

■構想、構図ラフ

 まずはどんなイラストにするか、どんな要素を取り入れるか、といった構想や、キャラクターや背景をどう配置するか、といった構図を決めます。

 メインとなるのは、昨年に引き続きうちの子の3人。
月白つきしろきみ(以下、月白さん)
赤銅しゃくどう徒花あだばな(以下、徒花さん)
滅紫めっし幻影げんえい(以下、ゆかりさん)

 構図のイメージは、こんな感じになりました。

 1年目はキービジュアルみたく、3人を手前に並べて、後ろに色々置いた感じでした。
 今回はもう少しコンセプトやストーリー、世界観を掘り下げた感じの1枚にしようと思いました。

 この構図ラフの段階で考えていた要素は、
・メインの3人
・地面に刺さる剣
・月
・社
・大樹
 です。

 これをベースに、色々描き込んでイメージの掘り下げをしてみました。

 手前右側の、地面に刺さった剣。
 それを見つめる月白さん。
 剣と月白さんを見守っているような、徒花さんと紫さん。
 その周囲に散在する、多種多様な武器。

 世界観としては和風とか東洋系ですが、3人の持つ武器って洋風ファンタジーな感じが強くて。
 キャラクターと世界観を馴染ませるために、周囲に様々な武器を突き立ててみました。

 それと、3人の立ち位置や背景の配置を変えています。
 三分割法の構図に則りました。

 縦線や横線、あるいはその2つが交わる点の上にメインとなる要素を配置するだけ、と使い勝手のいい構図なので、私はよく用います。


■カラーラフ その1 背景要素の調整

 構想、構図がある程度まとまって、取り入れたい要素を描き入れたので、カラーラフの制作に移ります。

 キャラクターよりも背景の描き込みを優先しました。
 というのも、キャラクターはそれなりに経験値があるためだったり、背景の経験値が少ないから、あえて先に回して時間をかけようと思ったりしたからです。

 構図の時点から、変更を加えているものがいくつかあります。

〇手前右側の剣のサイズを縮小
 月白さんに合わせて、片手・両手持ちができるくらいの大きさに変えました。
 また、構図の時点では月白さんとの距離が離れている感じがあった、というのもあります。
 月白さんの2、3歩先にある、というイメージで調整しました。

〇その他の武器の追加、サイズの調整、配置の変更
 メインとなる右手前の剣以外の武器の加筆・修正をしました。
 その他の武器、というカテゴリ内での近景・中景・遠景を意識して色分けを。
(近景:水色、中景:青色、遠景:緑色)


 加えて、3人との、あるいはそれぞれの武器同士の距離感を考えた配置にしました。
 距離感の取り方はかなり単純な考え方で。
 例えば月白さんの後ろに半ば隠れている剣。

 月白さんと徒花さんの間にあります。
 なおかつ、月白さんのかかとに近いので、月白さんの後ろにある、というように見せることができます
 また、それぞれの武器の大きさを、元々のサイズ感も踏まえつつ、距離によって大きくしたり、小さくしたりすることで画面に奥行きを出しています。

〇塀の高さを低く調整
 この境内を取り囲む塀。
 構図の時点では画面の半分上、三分割法で見れば上の横線に近いくらいまで高さがありました。
 これを画面半分ほどまで低くしました。

 理由としては、距離感やサイズ感に違和感を覚えたからです。
 1つ目、3人や社、大樹との距離感やサイズ感を考えた時、境内が割と狭い、あるいは塀自体が大きいと思いました。
 また、社や大樹との距離感がかなり近く感じました。

 塀の高さを低くしてみたら、画面中央(月白さんと徒花さんとの間)の空間が広がって、抜け感が出ました。

■カラーラフ その2 パース

 背景といえば、はい、パースです。
 物の遠近感とか距離感とか角度とかで画面に空間をつくる方法――といったものでしょうか。

『いちばんやさしいパースと背景画の描き方』という書籍では、このように書かれています。

 遠近の距離感を目に見えるように表現したもので、遠近法の1つ(透視図法)です。

中山繁信『いちばんやさしいパースと背景画の描き方』

 さて、カラーラフの背景を描き進めていたら、パースの壁にぶち当たりました。
 これまで何度かパースを使ったイラストは描いてきましたが、いまだまったく理解できていないです。

 とりあえず描き進めたものはこちら。

 パースが使われている要素は3つ。
 社、鳥居、柵です。

 それぞれ画面の左右に寄っているため、正面だけでなく側面も見えるようになります。
 その側面の角度や奥行きといったものをどうやって描くか。
 というのがパースを使う上での課題になります。

 とりあえずパースといったらアイレベル。
 アイレベルです。
 目線がどの高さにあるか。

 上の画像ではすでに表示されていますが、うっすら引かれた赤い横線。
 これがこのイラストのアイレベル(目線の高さ)です。

 ちなみに3人を出すとこんな感じ。

 アイレベルは脚です。
 だいたい膝のあたり。
 今回は、しゃがんで3人を見上げるようなアオリ気味の構図になっています。

 さておき。
 アイレベルが決まったら、次は消失点です。
 消失点はパースを使う上で欠かせません。
 これがあることで物の角度を決めることができるようになるので。

 そもそも消失点って?
 目線と平行な線がやがて交わる点です。
 実際、画像にもアイレベル上に向かう2本の赤い線があります。
 この2本の赤い線が交わっているところが消失点です。

 じゃあそもそも、消失点をどうやって決めたのか? と。
 消失点は基本、目線の先にあります。
 単純ですね。
 つまり、アイレベル上の真ん中に定めています。

 画像の中に、消失点に向かうものとは別の赤い線があります。
 これはキャンバスの中心を見つけるために引きました。

 なので、流れとしては以下の通り。
・アイレベルの線を引く
・キャンバスの中心を見つける
・キャンバスの中心からアイレベルに向かって垂直に線を引く
・消失点に向かって、キャンバス下辺両端から点に向かう線を引く

 ……ぶっちゃけ、消失点に向かう線はいらなかったと思います。

 とりあえず消失点が決まったので、社や鳥居、柵を描く準備ができました。

 ちなみに、ですが。
 この時点で一番困ったのが、柵です。
 どうしても側面の角度や奥行きがおかしく見えて、かなり試行錯誤しました。

 というわけで、柵の調整について触れていきます。

 まずはこちら、調整前の背景。

 武器を除いた背景を残していなかったので、これを基に進めていきます。

 ここから大樹→鳥居と柵という順に描き込みをしたわけですが。
 大樹の根元の太さやパースを気にして描き進めていくうちに、違和感を覚えました。

 あれやこれやと紆余曲折があって、その記録も残していないのですが。
 とりあえず違和感は以下の通り。
・柵の側面の角度がおかしい
・柵の奥行きが大樹のそれと合っていない
・そもそもパースがあっているかどうかという根本的な問題を感じる

 調整前の柵はこうなっています。
 黄色の線ですね。

 はい、おかしいです。
 奥行きはまあまあいいですが、側面の上辺と下辺がおかしいです。

 視線と並行となっている線は基本、消失点に向かっていることになります。
 側面の上辺はアイレベルと被っているので、ほぼ真横になるはずです。
 そして下辺は消失点に向かって伸びるはずなのに、消失点よりも左側でアイレベルに交わることになっています。

 ちなみに消失点の場所は、画像の左下から伸びる、下側の赤い線です。
 ――あ、いらないと思ったこの線が役に立った……!

 この後、私はなにを思ったか、大樹と鳥居と柵を下に動かしました。

 これで柵の正面の上辺がアイレベルより下になりました。
 柵の端の上下から消失点に向かって線を引いて側面を作ります。

 ……おかしいですね。
 柵の奥の下辺(赤い線)、大樹の根元に突き刺さっています。
 つまり、大樹の奥行きより柵の奥行きが狭いということです。

 ということで、大樹よりも奥行きをつけるために、側面の面積を調整してみました。

 ……広いです。
 なにかが違います。
 なにが違うかっていうと、ここまで奥行きはいらないってことです。
 側面の上辺と下辺が消失点に向かっているので間違いではないです。
 ただ、これだと自分と大樹などとだいぶ近いことになります。
 大樹はもっと奥にあってほしいのに。

 ここで私は、「消失点の位置を間違えたんじゃないか」とか「柵は柵で別の消失点が必要なんじゃないか」とかそんなことを考えて時間を無駄に食い潰しました。

 気づいていなかったんですね。
 パースとか消失点とかに捕らわれて、もっと単純なことを。

 ――対象を下に動かしたら、これを映すカメラ=自分との距離が近くなる。

 こうして文章に起こしてようやく気づきました。

 じゃあ、当時の自分はどうしたか?
 簡単な話。
 下げてダメなら上げればいい。
 脳筋ですね。

 ここで調整後のものに切り替わります。

・側面の上辺と下辺が消失点に伸びている
・側面の奥行きが狭い。
・奥の下辺が大樹の裏に回っている感もある。
 ようやく、大樹などが奥にある感が出ました。

 この後に気づいたことですが。


 これまた簡単な話で。
 前提として、黄色の線が社の一番手前にある下辺です。
 緑色の線が、鳥居の一番手前にある下辺です。
 これ、黄色より上に緑色が来るようにすれば、大樹などが奥にあるってことになるんですね。
 つまり、これと同じです。

 これに気づいていたら、無駄に時間を食い潰すことはありませんでした。
 今後、似たようなことで行き詰まらないようにしたいです。

 さて、ようやく柵のパース問題が終わりました。
 続いて社を。

 社というか、柵もですが、結局やることは同じで。
 アイレベルと消失点を決めて線を引いて立体を作る。
 今回のイラストは、社も鳥居も柵も同じ角度で、なおかつ奥行きに向かう辺が視線と並行なので、そう難しくはないです。

 社はこんな感じで描いていました。

 社の片方にパースライン(消失点に向かう線)を引いた場合、反対側にも消失点を決めてパースラインを引きますが、今回は社のデザインを優先しました。
 先にフリーハンドでデザインを決めてから、パースラインを引いて整えていこう、と。
 ……いや、ただ描き慣れていないだけです。

 社の壁や柵、装飾を描き込みました。
 壁にある『×』は、中心を取るためのアタリです。
 キャンバスの中心を見つける時と同じ考え方ですね。

 ある程度描き込みができたので、画面の外側に消失点を決めてパースラインを引きます。

 となると、画面外の消失点をどうやって決めるか。
『いちばんやさしいパースと背景画の描き方』の「3章 外観パースの基本」では、以下のような説明がされています。

 ただ、あくまで“消失点と幅・奥行きをザックリと設定する方法”とのことだそうで。
 実際、今回のイラストの場合はすでに消失点と社の大きさ、配置が決まっていたので、ネットで似たような角度から撮影された社の写真を探して消失点やパースラインを設定しました。

 かなりゴチャゴチャ描き込みました。
 この黄色い線を基準として、線画を描き込んでシルエットとディテールをはっきりさせます。

 だいぶ社っぽくなってきたと思います。
 さらに固有色を塗り足したり、グレースケールの陰影を描き直していきます。

 陰影は前後感や凹凸を出す程度に、光源を意識した描き込みはしません。
 というのも、後から光源を基にした影や光の描き込みをしていくからです。
 最後に色トレスで線画をなじませて、社はとりあえずこれで完了です。

■カラーラフ その3 修正

 社を描き終えたところで、ふと気づきました。
 アイレベル=目線の高さです。
 その基準は、脚です。
 だいたい膝のあたり。
 ――と、■カラーラフ その2 パースの冒頭あたりで書きました。
 画像としてはこちら。

 ちなみに月白さんの膝の高さは以下の通り。
 キャラデザの際に描いた二面図です。

 だいたい50センチ弱。
 ちなみにリアルな女性の膝下の平均は42センチ前後だそうで。
 月白さん脚長い。

 さておき。
 アイレベルが50センチ弱だと気づいた途端、思いました。
 他の要素もそれに合わせたら、色々変わるよね? と。

 あくまでイラストなので、そこまで気にしなくてもいいのかもしれませんが。
 とはいえ、今そこから目を背けたらさらなる成長はできないでしょう。

 ということで、ぼちぼち背景を修正していきつつ描き込んでいきます。

 全体的に配置を調整したり、それに合わせて加筆・修正をしています。

 半透明の色で塗り潰されている範囲が、書く要素の修正前の大きさ・配置です。

 配置の調整ですが、社→大樹→鳥居という順で進めました。
 というのも、真っ先に違和感を覚えたのが社だったので。
 社の調整に合わせて、他の要素も修正をかけていきました。

 ではまず、社について。
 アイレベルが階段を上がり切った位置にあったので、これはあまりに低すぎる、と。
 だとすると、社全体の大きさもかなり小さくなってしまいます。
 これではいけないと、社の配置だけでなく、大きさも変えました。

 次に大樹、合わせて鳥居。
 社よりも後ろにあることを踏まえつつ、位置の調整を。
 さらにアイレベル=50センチ弱なので、大きさも変えました。
 社同様、全体的に小さくしています。

 そして奥の塀。
 調整後の社と比較すると、かなり大きくなってしまうので、がっつり小さくして、足りない分を加筆しました。

 境内にある要素が全体的に小さくなったことで、空が広くなりました。
 というわけで、雲も加筆・修正を。

 これでアイレベル(目線の高さ)に対する社、大樹、鳥居の調整は終わりです。

■カラーラフ その4 武器描き込み

 背景(社、大樹、鳥居、空)がある程度整ってきたので、次に地面に刺さる武器の描き込みに移ります。

 まずは片っ端から、デザインを固めていきました。

 とにかくデザイン出しが優先です。
 形や色がなるべく被らないように、これまで観てきたアニメやドラマ、映画、マンガとか、プレイしてきたゲームを思い出したり、探し漁った資料を参考にしつつ、多種多様な武器が並ぶように意識しました。

 角度がついたものもありますが、パースはあまり気にしていません。
 この時点では。

 ただ、「アイレベル=50センチ弱」は気にしていました。
 地面から上と、埋まっている分の長さを考えながら、描き進める間に大きさや配置を調整しました。

 よくよく見ると前の武器に大半が隠れている武器もありますが、いっそう奥行きを出すためにあえてそうしています。

 デザインができあがったので、ここから角度やパースを踏まえてブラッシュアップします。

 ここで、描き進める前に全体の確認を。

 今回一番見せたいのが、手前右側の剣と、それを見つめる月白さん。
 ただ、このままだ手前右側の剣が目立ちません。
 画面中央左の対となった剣の存在感が特に強いので。

 そこで、このイラストのコンセプトストーリーを絡めます。
 カラーラフに移る直前、構図を考えていた段階で、ふと思いつきました。

 その境内には、数多あまたつるぎが咲いている。
 それらは見た目通りけんであり、槍であり、斧であり、
 かつての担い手たちの魂や記憶、想い、“力”を宿す器であり、
 ゆえに――墓標である。

 境内に散在する数々の武器は、ただの武器ではなく、墓。
 そして手前右側の剣を目立たせるために加筆します。

 右手前の剣以外の武器の彩度と明度を、全体的に低くしました。
 色調補正レイヤーの『色相・彩度・明度』を追加して、不透明度を10~30%にしたブラシでレイヤーマスクを消して調整しています。

 この境内に突き立てられた武器は、時間が経つにつれて色が黒くなっていく(=まさに墓のようになっていく)というイメージです。
 これで、右手前の剣が、つい今しがた突き立てられた、というストーリーが生まれるんじゃないかな、と。

 背景がだいぶ整ってきたので、このあたりから3人の描き込みに移ります。

■カラーラフ その4 キャラクター描き込み

 構図ラフの時点である程度できあがっているので、ディテールを整えてベースカラーを塗ります。

 乗算レイヤーを作成して、グリザイユ塗りで陰影をつけます。

 こちらはベースカラーを除いてグレーの陰影だけにしたもの。

 光源は画面右奥の月ですが、それを基にした影つけは後の工程で行います。
 そのため、この時点では凹凸や前後感、質感を出すための陰影にしています。

 普段の描き方だと、ここから乗算やオーバーレイ、覆い焼き(発光)などで色味を加えていきますが、いったん全体の描き込みに移ります。
 というのも、ここまでは背景も含めて固有色の描き込みだけだったからです。
 ここから環境による色の変化を加えて、完成イメージを固めていきます。

■カラーラフ その5 環境色

 さて、環境による色の変化、ということですが。
 この世界観について、現時点では以下のように考えています。

 ここは月下げっか
 巨大な月に見降ろされた、常夜とこよの世界。

 常に巨大な月が空に留まり、朝も昼も訪れない、夜の世界です。
 そこで、まずは乗算レイヤーで青色を重ねます。

 このとき、各要素ごとに青色の乗算レイヤーをクリッピングしています。
 各要素というのは、
・前景(手前にある武器)
・キャラクター
・後景(月と空以外)
 の3種です。

 理由としては、
・今後の作業におけるめんどくささを少しでも軽くする
・キャラクターを含めた一枚絵と、キャラクターを除いた一枚絵の2つがほしい
 ということを考えているからです。

 ここから、光源を基にした陰影や光の描き込みを進めていきます。
 光源は月白さんたちの背後。
 とはいえ真後ろではなく、左後ろのため、完全な逆光にはなりません。
 光の回り込みの性質も意識しつつ、描き込んでいきます。

 まずは影。

 最初の青色だけで塗り潰したものから、かなり変わったんじゃないかと。
 特に目立つのが、光が物によって遮られてできる影。
 月明りではこのような影はなかなか見かけないと思います。
 ただ、この常夜の世界では月が太陽の役割を担っています。
 仄暗いながらも、しっかり月によって照らされている、奇妙な世界です。

 この影のレイヤーは乗算で重ねていますが、通常にするとこんな感じ。

 この時、光の当たる部分はレイヤーマスクで消していくのがよくある方法だと思います。
 しかし、今回はレイヤーマスクは使っていません。
 光の当たっている部分は白色に近い色を使って明るくしています。

 乗算レイヤーは、黒色に近いほど重ねる色の影響が強くなり、逆に白色に近いほど、重ねる色の影響は弱いです。
 そして白色の場合、色の変化がまったく起きません。
 白色以外の明度100%の色の場合、色相と彩度だけが変化して、明度は変化しません。
 これを応用して、光の当たる部分に白色に近い色を使っています。

 次に光を描き加えていきます。

 オーバーレイと覆い焼き(発光)のレイヤーを使用しています。
 覆い焼き(発光)は輪郭を強調するリムライトに、それ以外はオーバーレイのレイヤーに描き込んでいます。

 これで全体のあらかたのイメージがまとまったので、清書に移り、描き込みをしつつ仕上げを進めていきます。

■清書 キャラクター

 まずは3人の線画と、それができたらベースカラーやグリザイユの塗り直しをします。
 塗り直しといっても1からやり直すのではなく、線画の内側で足りない分を塗り加えたり、はみ出した分を消したりといった調整程度です。

 グレーの陰影を重ねただけだと、白色に近い色ほどくすんだ色合いになります。
 今回は影として青色を重ねるため、色のくすみはあまり目立ちません。
 ただ、それだけだと単調になってしまうので、必要な部位の色味を調整します。

 まずは肌。
 新規でオーバーレイレイヤーを作成して、肌の色に赤みを加えます。

 一つの色だけを重ねずに、部分的に色相・彩度・明度を変えています。

 次に髪。
 月白さんと紫さんの髪がくすんだ色合いになっているため、肌と同じようにオーバーレイレイヤーで色味を加えて明るくします。

 次に月白さんの剣。
 青みを帯びた色にしたいので、オーバーレイレイヤーで色を重ねます。

 色味の調整が終わったので、より細かい描き込みを加えます。

 左:瞳、頬の赤み、胸元にマーク、学ランの丈修正
 中央:レギンスの透け感、足の爪
 右:靴紐

 最後に、線画に色トレスをして仕上げです。

 髪が被さっている部分の目は、レイヤーマスクをかけて、不透明度60~80%のブラシで薄くしました。

 これでキャラクターの清書は完成です。
 次は背景の仕上げに移ります。

■清書 背景

 カラーラフの時点でおおかたまとまっている背景ですが、時間が経つと気になる点がやっぱり出てきます。
 そこで、一番気になる部分から順に加筆・修正をしていきます。

 まず気になったのは大樹。
 枝を少しばかり、葉を質感を意識して大胆に修正しました。

 次に地面。
 白い砂が敷き詰められているイメージですが、あまりにのっぺりしているように感じました。
 そこである程度陰影を加えて、ざらざらとしたテクスチャを重ねて質感の補強をします。
 ……とはいえ、後で影を重ねたらほとんど目立たなくなりますが。

 次に空を。
 中央部分、ただグラデーションのかかっているだけというのが物足りなく感じて、銀河みたいな色味を加えてみました。
 また、大小様々な星を散らして情報の密度を上げました。

 そして月。
 配布されている素材を使っただけだったので、独自で描き込みをして質感を変えてみました。
 また、この月は太陽の役割を担っています。
 そこで、輪郭に沿って光を描き加えて、輝いているような演出をしてみました。

 カラーラフと比べると、かなり見栄えが変わったんじゃないかな、と。

 次に境内に突き刺さっている武器。
 手前に見えるものを主に、凹凸や曲面を意識した陰影の描き込みをします。

 大半が色調補正で黒くなりますが、ものによっては凹凸の描き込みがあった方がいいな、と思ったので。
 合わせて、空の銀河みたいな色味が気になって修正しました。

 それから、武器と地面との接地面が気になりました。

 より、地面に突き刺さっている感を出すために、武器と地面との境界に盛り上がった砂を加えてみました。

 これで背景の仕上げは終わりです。
 次にキャラと背景の環境色の仕上げに移ります。

■清書 環境色

 環境色の仕上げは、背景→キャラの順に進めます。
 背景の色合いがベースになっているからです。

 環境色を仕上げた背景はこちらです。

 全体的に、影の色にはあまり手を加えていません。
 雲の上部、月光が当たっているであろう部分を明るくした程度です。

 一番手を加えたのは、光です。
 物の輪郭に沿ってできる光(リムライト)を強めて、逆光感を強調しています。
 輪郭が際立ったことで、特に前景の武器の存在感も強まりました。

 カラーラフ(Before)と比べると、画面全体にメリハリが生まれて、よりいっそう、夜なのに明るい世界感が際立ったんじゃないかな、と。

 背景の影と光を通常レイヤーにするとこんな感じ。

 背景の環境色の仕上げが終わったので、次はキャラの環境色の仕上げに移ります。

 キャラの場合、カラーラフの時点からシルエットが多少修正されているため、影も光もある程度修正する必要があります。
 また、カラーラフの時点では手をつけていなかった描き込みも加えていきます。

 環境色を加筆・修正したものがこちら。

 かなり完成に近づきました。

 影や光を通常レイヤーで表示して、カラーラフの時点と比較するとこんな感じ。

 影は多少の修正程度でしたが、光はかなり描き込みの量を増やしました。
 逆光感を強めるためと、シルエットの輪郭を際立たせるために、リムライトを強くしています。
 また、月白さんの羽織、徒花さんのスカート、紫さんのマントの裾は、地面からの反射光を加えました。
 そしてカラーラフの時点では描き込んでいなかった、髪の光。

 こちらはついでとなりますが。

 月白さんの頭から袖まで、それと剣の輪郭にかけてディフュージョン効果を入れてみました。
 本当にうっすらとした光ですが、それでも今回のメインである月白さんの存在感が際立つんじゃないかな、と。

 これで環境色の加筆修正は終わりです。
 前景の武器を表示して、カラーラフと比較してみます。

 背景の環境色の仕上げでカラーラフと比較した際にも触れましたが、画面全体が明るくなったのが一番分かりやすい変化です。
 前景の武器、3人、背景に重ねた影の色にはあまり手を加えていませんが、光の描き込みでガラッと印象が変わったと思います。

 さて、これでカラーラフの時点で描き込んだものを仕上げました。
 とはいえ、まだ完成ではありません。
 これだけでは、このイラストのストーリーが伝わりにくいんじゃないかと思います。
 そこで、この世界観のコンセプトやストーリーが伝わりやすくなるよう、もう少し加筆します。

■清書 仕上げの加筆

 まずはこちらをおさらい。

 その境内には、数多あまたつるぎが咲いている。
 それらは見た目通りけんであり、槍であり、斧であり、
 かつての担い手たちの魂や記憶、想い、“力”を宿す器であり、
 ゆえに――墓標である。

 境内にある武器は、ただの武器ではありません。
 3行目の「かつての担い手たちの魂や記憶、想い、“力”を宿す器であり、」や、
 カラーラフ その3で
「境内に散在する数々の武器は、ただの武器ではなく、墓。」
「この境内に突き立てられた武器は、時間が経つにつれて色が黒くなっていく(=まさに墓のようになっていく)というイメージです。
 これで、右手前の剣が、つい今しがた突き立てられた、というストーリーが生まれるんじゃないかな、と。」
 と書いたように。

 今回のイラストのイメージは、境内に剣が突き立てられ、同時にそれの持ち主が葬送されているシーンです。
 その雰囲気をより強調するための加筆をします。

 月白さんの左手に、花束(=供花きょうか)を持たせました。
 白い花は葬儀の際にメインとして使われるので、これが故人との別れ、弔いの瞬間である印象が深まれば、と。

 さらに、これは誇張表現にはなりますが。
 武器に宿る魂が、今この瞬間に安らかな眠りについた、みたいな演出を加えてみました。
 昇天とは違いますが、少しでもこのイラストの、このシーンの意味を補強したくて。

 それに合わせて、こちらを。

 月白さんの左目に涙を。
 これでこのシーンの意味の補強は終わりです。

 ですが、まだ完成ではありません。

 画面手前左側。
 対となった剣と槍に、ガウスぼかしをかけました。
 こうして手前のモチーフを強めにぼかすことで、画面内の遠近感をより強調できます。

 最後に、気持ち程度の調整を。

 色調補正レイヤーの『レベル補正』で、ほんの少し明暗のコントラストを強めました。

 これで2年目の集大成のイラストは完成です。

■完成、所感

 実は、これで終わりではありません。
 あと1つ、この構図には狙いが。
 それがこちら。

 表紙です。
 サイズは1600×2560px、Amazon Kindleの推奨サイズにしています。

 今回、イラストを描き始めて2年目の集大成ということで、ただ描きたいものを描くだけでなく、なにかしらに活きるような1枚を描こうと考えていました。
 2年目は自作小説を2作、表紙だけでなくキャラクターデザインから挿絵まで手掛けて、いわゆるライトノベルとして電子出版しました。
 さらにスキルマーケットで小説のイラスト制作のサービスを始めて、何件かご依頼をいただきました。
 そこで、その経験を活かして、横長の一枚絵でありながら、表紙としても使えるイラストにしよう、と。
 ちなみにその発想には元がありまして。
『賢者の弟子を名乗る賢者』の原作の表紙です。
 担当イラストレーターの藤ちょこさんのえがく色鮮やかで緻密なイラストにすごく惹かれていて。
 今後もっと、そんな感じのイラストを描けるようになりたいと、ある意味、3年目への足掛かり的な1枚になったんじゃないかと思います。

 だいぶ長くなりましたが、この『2年目の集大成イラスト』の制作過程については以上となります。
 2021年の11月下旬からイラスト制作のご依頼をいただくようになりまして。
 3年目は、もっとご依頼をいただけるようなイラストレーターになれるよう、日々精進していきたいと考えています。

 それでは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

2022.04
長月夜永


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?