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鼻歌は今日も聞こえてくる_11月20日真偽日記

「ふっふんふふふ〜ん」

今日も鼻歌まじりに掃除をする。気分は素敵な魔法使い。サッとひと拭きするだけで何もかもがキレイに……なーんて。
新居に引っ越してきて一週間。未だに浮かれた調子が落ち着かない、

「ららら〜」
『ちょっとアナタ、いいかしら』
「うひゃあ!?」

急に声がして驚いてしまった。
ちなみに私は一人暮らし、悲しいかな恋人の類もいなくて、今日は来客もない。

そう、つまり。

「オバケ!?」
『はあぁ?失礼ね!あんな低俗なものと妖精を並べるなんて、歌が下手なだけじゃなくて頭も悪いのかしら』

一瞬眩い光が放たれたかと思えば、目の前に現れたのは光る蝶々の羽を持つ小人さんだった。私の手のひらくらいの大きさで、羽の部分だけがほんわり虹色に輝いている。
何度目をこすっても同じだ。瞬いてから尋ねる。

「えっと……妖精、さん……?あの、おとぎ話に出てくる?」
『ええそうよ。オバケなんかじゃなくってね』
「ごっ、ごめんなさいっ!」

反射的に謝ってしまった。いやでも急に声がしたときの選択肢として、普通妖精は出てこない。

だって妖精は寝物語に出てくる、子供だけが信じることを許された空想上の生き物だ。人が嫌いで姿を消しただとか、素敵な環境でしか姿を現さないとか、色々な噂はある。

「まさか、私の家が素敵すぎて……?」
『呆れた。そんなわけないじゃない。こんなふっつーの家に言うことなんてないわよ』

まったくもって酷い言いようだ。
ほんとに言及するところはないんだけど。

「じゃあどうして?」
『アナタの歌が下手すぎて聞くに耐えないから出てきちゃったに決まってるじゃない!』
「へぇ……え!?私歌上手い方だよ!?」
『下手よ!毎日毎日聞かされてもう我慢の限界!』
「ええ……」

さっきまで気分よく歌ってたのに……。
そんなに下手ならやめるしかない、のかなあ。妖精さんに嫌われるのは、なんだかこう、ちょっと寂しいし。ちょうどよく落ち着くきっかけになるかもしれない。

「えっと、じゃあ、」
『だから聞けるようになるまで私がレッスンしてあげる』
「え?はい?」
『早速始めるわよ。何ぼんやりしてるの。早く準備なさい』
「えっ、えぇ〜……っ?」

こうして、妖精さんによる(地獄の)ボイストレーニングが始まった。

「ラララとても素敵な掃除日和〜」

私は今日も歌いながら掃除をする。
傍から見るとやけに浮かれた人間に見えるかもしれないが、相変わらずの一人暮らしだから問題ない。

それに。

『ふーん、まあまあね。このスペシャルコーチがレッスンしてあげたんだから当然だけど』
「妖精さん、クッキーがこぼれてますよ〜」

歌が上達したことで小さなお客さんが毎日訪れる。最近は怒られることも少なくなった。
ご機嫌取りのために作り始めたお菓子がお気に入りのようで両手で握りしめてもぐもぐ食べている。その様子に頬を緩めつつ掃除に戻る。

「ラルラリラッタッタタン」

私は今日も歌を歌いながら掃除をする。
サッと一拭きするだけで綺麗になることはないけれど、口がちょっぴり悪い妖精さんを喜ばせるために。


音がないと生活が出来ない。
YouTubeチャンネルかSpotifyで何かしらの音を延々と垂れ流している。

そして今更だが惰性で流しているYouTubeをやめると原稿がやや捗ることがようやくわかった。これからは適当な音を流して原稿をしたいと思う。

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