異世界の癒し手_11月8日真偽日記
「いでででで!!っ、なんだ!?やはり殺す気か!?謀反か!?痛めつけても何も出ないぞ!?」
「HPは減ってないすよー。団長さんもやっぱり凝ってますねー。ストレッチ大事っすよー」
「お前!っくそ!どこにそんな力があるんだ!?いだだだ!」
施術中は暴れないでほしい。
ガチガチに固まった筋肉を解しながら「力抜いてください」と付け加える。
そもそも事前に痛みが生じると説明してあるのだ。部下の人だって実験台と称して何度も受けさせているのだから、わかっているはずなんだけどな……。
「ここ、痛いっすよねー?」
「いっ、てぇ……!」
ウィークポイントだろう場所にグッと力を入れれば団長は脊髄反射で体を強ばらせながら声を漏らす。早いところ体の硬い人向けストレッチを導入した方が良さそうだ。
それからも大声で暴れる団長をなだめながら全身をほぐしていく。肩は特に念入りに処置した。
「はい、終わったっすよー。お疲れ様した」
「あぁ……」
不調はすべて潰したはずだ。
肩や首を回してほぐして調子を確認した団長は目を丸くしている。
「……体が、軽い……?」
「そりゃまあ、マッサージしたんで、ねえ?」
「てっきり俺に恨みのある奴らが結託して寄越した刺客かと……」
「はは、心外〜」
というかよく刺客かもしれない俺に体を預けたもんだ。
マッサージ効果で血行が良くなり、凝りが解消されたからだろう。団長の顔色は先程より良くなっていた。
「ありがとう。何か礼をしよう」
「いいっすよ別に。先にお金貰ってるんで」
「そうか?いやでもなあ、この感じ、全盛期に戻ったようなものだぞ?はした金では申し訳が立たん」
「んー、じゃあ、今後ともご贔屓にしてもられたらありがたいっす」
「それは是非こちらからお願いしたい」
団長は嬉しそうな顔をする。
その顔を見てるとこっちまでつられて笑顔になる。上客ゲットだ。刺客を疑われるような素性もわからないやつ相手に破格の条件すぎる。
「また来るといい」
団長の言葉に会釈して部屋を出る。
疲れたせいかウィークポイントとして表示がされている肩を自分で指圧しながら帰路に着く。
マッサージなんてスキルでどう「異世界」を生き延びるか悩んでいたが、この分なら食うに困らなそうだ。
…
仕事が休みだったので初めてマッサージ屋に行った。
こういうものを受ける歳になったのかとしみじみしていたが、いざ受けると施術師のおじいさんの力が思いのほか強くて驚いた。
コロナ禍なので会話は施術に関することのみです。とのことだったが、施術に関することも言葉少なだった。おじいさんがどこにたっているのかも分からないまま、攻撃が繰り出されていた。
背中と腰はマシになった気がするが、肩だけは施術中の指の形がわかるほど痛い気がする。明日にはスッキリしているのだろうか。そうであってほしい。
少し体の様子を見てから別の店も試してみたいものだ。
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