「中国語の部屋」、「The Thirteenth Floor」、心の哲学

以前に『いま世界の哲学者が考えていること』(岡本祐一朗・著)という本を紹介したことがあります。(https://note.com/yonabariyuki/n/n01710aad5afc

・IT(インフォーメーション・テクノロジー)革命とBT(バイオテクノロジー)革命--2つの大変革が人類の未来を変える?
・資本主義は21世紀でも通用するのか?
・世界が再び宗教へと回帰していくのはなぜなのか?
・脳科学が犯罪者になる人間を予測する?
(以上、本書の帯から引用)

上記から分かるように、主要テーマは現代の社会課題であり、それぞれについて第一線の思想家たちがどのような議論をしているかということを紹介しているダイジェスト的な本でして、「いつまでも『哲学=人生論』と思っているのは日本人だけ!」という挑戦的なコピーのとおり、多くの一般人が哲学に対して持つ個人的・内省的(そして、何の役にも立たない)というイメージとは大きく異なる内容となっています。実際、本書に登場するのは社会学・政治学・経済学畑の学者が多いです。

これはこれで面白いんですが、正直言うと「政治家でも学者でもない一般人にはあまり関係ない話よね」と思わないでもありませんでした。(就職活動中の学生さんには役立つかもしれません。最近、GoogleやFacebookでも哲学のバックグラウンドがある人材が人気になってきていると小耳に挟みました。ああいう企業が求めているのはこの本のような現実世界に応用できる哲学の素養でしょう。)

しかし、「哲学=人生論」が時代遅れと言っても、「生きる意味とは?」や「私とは何か?」、「なぜ倫理的に行動する必要があるのか?」といった昔ながらの哲学的問題の方が自分事と感じる人は変わらずたくさんいるのではないでしょうか。

こういう、一般人の哲学のイメージに近い「人の心や意識の在り方」を扱う哲学は、死に絶えたわけではなく、「心の哲学」という特別な名前を付けられてちゃんと存続しているようです。(『いま世界の哲学者が~』にも心の哲学は少し出てきます。)

私はここらで本腰を入れてこの心の哲学を勉強してみようと思い立ちました。

そこで今回の記事タイトルです。「中国語の部屋」は「AIは心を持つか?」という議論に出てくる有名な思考実験です。思考実験というのは、ある問題を考えるために架空の単純な状況を設定し、議論の材料とするもので、有名なものに「トロッコ問題」があります。

「中国語の部屋」の概要

・中国語をまったく理解しない人を小部屋に閉じ込める。
・小部屋にはあらゆる中国語の問に対する答え方が載っているマニュアルがある。
・小部屋の質問投入口から中国語で書かれた質問が中の人に渡され、彼はマニュアルどおりに回答を作り、回答提出口からそれを外に渡す。

これを外から見ると、小部屋の中には中国語を理解する人がいるように見えるが、実はそうではない。この思考実験を発表した哲学者ジョン・サールは、この論理によってAIは意識を持ちえないとした。


「The Thirteenth Floor(邦題:13F)」は「マトリックス」と同年の1999年に公開され、その影に完全に隠れてしまったバーチャルリアリティーもののSF映画です。今更、この無名作品をワクワクして見る人もいないと思うのでネタバレしますが、商売で娯楽用バーチャルリアリティの世界を作っていた男が、同僚の不審死の真相を探るうちに、自分の世界も未来の人間に娯楽目的で作られたバーチャルリアリティだと知るという内容です。

--「私」は存在するのか?もし「私」が幻想だと判明したら、私は生き方を変えるか?

このサールの思考実験と多層構造の仮想現実の映画の二つについて私は最近よく考えていて、それが心の哲学を少し体系的に学んでみようと思ったきっかけです。

ちょうど10年ほど前に買ったまま放置していた『The Big Questions : Philosophy』(by Simon Blackburn)と言う本がまさにそういう内容だと今になって気付いたので、それをメインの教材として使うことにしました。

過去から現代にいたるまで多くの学者や一般人を悩ませてきた20個の哲学的な問題に過去の学者たちがどのように取り組んできたか、どのような議論をしてきたかを一般読者向けに分かり易く解説した本です。
これを手引きとして、私自身の学習ノートであると同時に、大学などで正式な哲学教育を受けていないけれど(心の)哲学をかじってみたいという私と同じような方々に役立てていただけるよう、章ごとにキーポイントをまとめた記事をこれから上げていく予定です。もちろん、他の記事も書きますよ!

とりあえず、20個の問題を先にご紹介。
これを上から順番に一つずつ進めていくつもりです。

1. 私は機械の中の幽霊か?
2. 人間性とは何か?
3. 私は自由か?
4. 何を私は知っているか?
5. 人間は理性的な動物か?
6. 自分をだますことは可能か?
7. 社会というものは本当に存在するのか?
8. 他者を理解することは可能か?
9. 機械は考えられるか?
10. なぜ倫理的に行動しなければならないか?
11. すべては相対的か?
12. 時間は行き過ぎるものか?
13. なぜ物事は続いていくのか?
14. なぜ無ではなく、何かが存在するのか?
15. 空間は何でできているか?
16. 美とは何か?
17. 神は必要か?
18. この世のすべての事は何のためにあるのか?
19. 私の権利とは何か?
20. 死は恐れるべきものか?



ありがたくいただきます。