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麻雀老年倶楽部


私は大勢で過ごすことが苦手だ。
特に大人になってから顕著に感じる。
学生時代は何てことなかったのに
なぜ歳を取ると、そこらへんが
難しくなってくるのだろう。

頭が硬くなってきているのか、
単純に1人が長くてコミュ障が発症したのか

サマーウォーズの、大家族がお盆に
集まるみたいな風景が、THE 理想なのだが
現実と理想は全く違うじゃねぇかこのやろぅ


飲み会なんかは、1番疲れる。
絶対に下座の端の席を陣取ることにしている。
端、ということは私のどちらか一方にしか
人がいないということ
一方方向に耳を傾ければそれで参加
できているということなのだ。

真ん中になんてなった日には
左から右からさらには前方からの会話に
それぞれに耳をそば立て、
話を振られたら応えられるように
臨戦対戦をとっている。

手持ちぶたさにグラスを傾ける
回数が増え、知らぬまにヘベレケに
なっていることも何回かあった。

でも、その疲労感というか徒労感と
引き換えにコミュニティに参加している
という安心感を得られているので、
私には価値あるものだと感じている。

そんな私だが、職場の人たちと全く交流
がないわけではない。
むしろ、1番多くのコミュニティを持っている
自信があった。

私は高校で養護教諭として働いていたのだが
高校は教員が100名を超えるため、
顔と名前が一致しないことも多々ある。
学年が違えば、全く関わらない人も
いるくらいだ。

でも養護教諭は全学年、部活動、委員会
と幅広く関わっているため、関わる先生たち
が自然と多いのだ。

あっちへ行って雑談をし、こっちへ行っては
雑談をする毎日、ふぅ。(仕事しなさい)

だからミュージカルやライブが好きな
独身女性の先輩と休日に観劇をしたり

年が近い司書さんと本の話で盛り上がったり
暇さえあれば図書室に行くので、生徒には
暇なんだなと思われていたと思う

それから私は実は体育大学を出ているので
体育の先生方とは、時間が空けば
テニスコートに繰り出していた。
もちろん保健室を空にするわけない
この道40年以上の大ベテランの相方が
いて、「いってらっしゃい」と
子供を送り出すように促してくれる
好き勝手にやらせてもらって、でも
「保健室のメインはあなたよ」
とそっと寄り添ってくれる相方の先生は
間違いなく師匠兼第二の母だった。

さらには、再任用のおじいちゃん先生と
料理の話で盛り上がると、今度ホーム
パーティをするからおいでと誘われて 
美味しい手料理と美酒をいただいていた。
1人暮らしだというと、手作りの餡子を
タッパに入れて差し入れもしてくれた。

と人徳自慢をしているようだが、
否定はしない。
独身女性、彼氏なし、貧弱体型の
私に何かと世話を焼いて下さった
みなさん。ほんとにありがとうございます。

さて、いよいよ本題に入ろう。

麻雀老年倶楽部


パワーワードすぎるタイトルにポチッと
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私のもう一つのコミュニティがこの
麻雀老年倶楽部であった。

それまで私は麻雀を役がまぁまぁ分かる
程度で楽しくアプリなどでやっていた。
最後の計算なんかはできないのでいつも
人任せだ。アプリは勝手にやってくれる。

ある日、定年間際の男性教諭(社会科)
にすれ違いざま

「ねぇ、東と書いて何て読む?」

という問いを投げかけられた。
この場面で狼狽えるのがセオリーだろう

しかし私は秒速で

「"とん"...ですかね。」
と条件反射のように返答した。

すると男性教諭は、

「うん、よろしい」

と一言投げ捨てて去っていってしまった。
マスクをしていたから表情は読み取れかったが
片方の口角が上がっていたに違いない。
倶楽部の入部試験に合格した瞬間だった。

彼はそれから麻雀老年倶楽部の仲間たちに
その日のうちに情報共有したそうで、
翌日、倶楽部への加入を申し込まれた。
私が外れ値として参加したが、それでも
倶楽部の平均年齢はオーバー50である。

麻雀は最高4人で行う盤上遊戯だ。
コミュ障の私でもギリいける。

月1回程度、倶楽部活動が行われた。
定時ダッシュでいそいそと退勤し、
夜の22時まで雀荘に籠るということをしていた。言っておくが全員教員である。高齢の。 

倶楽部は和やかな雰囲気で活動し、まず
お菓子交換から始まる。すごく大事なこと。
これ新作なんだよ〜と老人たちは
きゃっきゃしていた。リサーチがすごい。
スーパーマーケットで新作を買ってきては
印籠のようにメンバーに掲げる。

毎回水曜日に行われたが、みなさん明日も
出勤だということを忘れていないだろうか。
時に大勝し喜び、時にはヤキトリ(1回も
上がれないこと)になり悔しがり、
程よい疲労感と満足感は週の後半の活力
となっていた。

そんな日々をふと思い出すと
ちょっぴり寂しくなる。

新しい環境ではまだ、コミュニティは
形成できていない。
麻雀アプリで対戦相手達にカモにされている。
それを思うと彼らはとっても紳士的(めっちゃ
手加減してくれてたんだなぁ)であった。
麻雀老年倶楽部の方々は1人も欠けずに
元気に今でも打っているだろうか。

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