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第14夜 建築・都市が老いることをどう調理するか?| TOPIC2 「慣習」から建築をつくる(石川翔一さん/1-1 Architects)

この記事は、よなよなzoom#14:建築・都市が老いることをどう調理するか?(2020年12月12日)でディスカッションされたものを編集しています。
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僕は愛知県知立市の出身です。まだ田畑が多く残っています。大学院を出るまでは愛知で育ち、その後、東京の組織設計事務所に就職し、小学校や庁舎のような大きな建物の設計に携わっていました。在職中にパートナーと一緒に1-1 Architectsというコンビを組み、そこから1年で退職し、愛知に戻り、刈谷市(知立市の隣)で事務所を構えました。彼(写真右側)が小学校から高校まで同じ学校だった、パートナーの神谷です。

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大学4年生の時ぐらいに神谷と久しぶりに連絡をとり、建築の話をするようになって、こうして独立をしました。お互い大学に行ってからのバックグラウンドとかは結構違っていて、神谷はアフリカのジンバブエに建築を教えに行っていたりします。ですが、高校まで近所で育っているので、心象風景は共通している気がします。

「慣習」から建築をつくる

単純にものが劣化したり、古くなったりとか、時間が経過している状態のことを、「老い」ということに少し違和感を感じました。思考が停止していたりとか、積極性が無くなっていたり、後ろ向きだったりする状態のことを「老い」というふうに呼んだときに、自分たちが今考えていることは、それを打開する方法としてリンクしてくるんじゃないかなと思います。
僕たちは、今、慣習に着目して建築を作りたいと考えていて、それをCustomscape Architectureと名付けました。当たり前になって疑うことがなくなってしまった状態、習慣、慣習は、「老い」に似ているのかもしれません。
僕たちは、建築を考える際、その地域や人がもっている慣習に着目して、それをヒントにして建築を考えまていす。そうしてできた建築を、新しい慣習を作り出すきっかけにしたいと思っています。


House NI 裏とオモテと境界

HouseNI というリノベーションの作品になります。
敷地(下の写真の赤い点)が僕の実家で、両親と祖母の3人が暮らす家をつくるプロジェクトです。

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市街化調整区域では、比較的大きな開発は行いやすい一方で、個人が土地を買って住もうと思うと、法的な観点から難しいことが多々あります。大きな開発というのは、突然田んぼが埋め立てられ、区画割りがされて、住宅が立ち並ぶというかんじです。住んでいる人からすると、風景が変わってしまうというか、心象風景が損なわれてしまうということが起こる可能性を持っている土地です。
新しく来る人たちによって、まちは賑わうし、経済的な成長も見られるでしょうから一概にどちらがいいとはいえないと思います。ですが、昔、田んぼだった場所が塗り替えられて、全くなかったことにされる開発に対して、嫌悪感も感じます。僕たちは地方で育ったからこそ、その間みたいな落としどころはないか、ということを常に探しています。
このプロジェクトの敷地周辺の風景には、古い建物もあるし、新しい建物もどんどん増えていっています。このような新旧入り混じる場所で、この建築にメッセージを込めました。

これが計画建物です。

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築50年の木造の平屋になります。もともと施主は新築を希望していましたが、古い梁型が好きだったので、既存の立派な小屋組みを残しながらリノベーションをする方法を探す方針になりました。天井部分が元々1.5階建てぐらいの高さがあったので、天井裏空間が無駄に広いというか、下の空間に対して同じくらいの空間を持っている、変わったバランスで存在していました。

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それが面白いと思い、天井裏の大きさに着目しました。
暗い天井裏を、光の入る明るい天井空間に反転させています。

設計プロセス

平面的にはL字型の建物だったので、離れと囲まれたところに暗い部分ができたりとか、庭が歪な形になっていました。それを整えるために一部解体して、長方形の平面計画にしました。青の部分の垂木を一部、新しいものを挿入していていますが、それ以外は既存を残しています。また、天井面を再定義するような意味で、中間に一層、天井面としての床面を挿入しました。

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これが軸組になります。左が既存で右が計画案になります。

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茶色の骨組みはそのまま継続的に利用して、赤色の部分は撤去、青色の部分を新設しています。右の写真を見ると、中間に天井面が一層出来上がっているのがわかるかと思います。

現場の進め方

現場に入っていくと、残す柱にマーキングをしたりとか、撤去する柱に印をつけたり、柱を傷つけないように養生したりとか、注意をしながら解体を進めていきました。
骨組みだけになった写真がこちらです。

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既存の基礎が布基礎と、玉石基礎の併用だったので、構造設計者と話をして、新しくべた基礎にすることになりました。

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これが揚家をしながら新しい基礎を打設している風景です。下に新しいべた基礎の配筋が組まれています。

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下の写真のように、木で組んで軸組みを持ち上げています。持ち上げているところは基礎が打てないので、背筋を折り上げておいて、軸組みを下ろした後に、またその配筋を組み直してコンクリートを2度打ちする方法で基礎を完成させています。

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その後、道路車線の関係で数十センチ内側に寄せなければいけないという、法的な制限もあったので、曳家も行いました。左下の写真が、軸組みの下に鉄骨のレールが敷かれている状態です。

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アップすると右上の写真のようになっていて、レールが噛まされています。驚いたことなんですけど、女性の方が1人でレバーをキコキコやるだけで軸組が簡単に動くんですよね。力の原理みたいなのがすごく面白くて不思議でした。軸組みを基礎の上に下ろしたら、中間層に梁をかけて、古い柱(濃い茶色)に梁受けの金物を取り付けて、職人さんが一つずつ梁を手作業で下ろして行きました。新築であればレッカーで下から順番に組み上げていけるんですけど、上に垂木を残していたりしてレッカーが使えないため、全部手作業で頑張って組み上げてもらいました。(左下写真)

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上が完成のイメージの模型写真です。
実際に完成したのが下の写真で、上層がガラス張りで開放的な天井空間、下層がわりと閉じられた空間になっています。

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要望と計画について

高齢である両親と祖母が住むので、1階である程度生活が完結させる必要がありました。独立させるべき寝室やリビングをまとめ、趣味の部屋や妹世帯の宿泊室、収納などといった、その時々によって使い方を変えてもいいようなまとめられるものについては、上層の天井空間にまとめたゾーニングをしています。
下の写真が平面で、1階はわりと個室が連続しているような感じになっています。天井空間は壁がなくてワンルーム的になっています。

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各部屋に吹き抜けを設けているので、どの部屋も上を見ると天井空間につながっています。天井空間は下の階をまとめ上げ、さらにまちに対しても常につながりを持ち続けています。
まち→天井空間→吹き抜け→各部屋というようにつながりる断面計画です。天井空間は常にまちに対して開いていますし、寝室で上を見ると梁が見えてたり、下に古い柱が落ちてたりします。
また、天井空間では、身長が高めの方は頭が当たってしまうところに梁があったりするので、梁の下をくぐって次のスペースに行きます。壁ではなく、梁によって小さな空間がつくられるような高さ設定です。屋根が低いエリアにもはしごで登って各部屋から天井空間にアクセスできるようになっています。そこにはこじんまりとした空間があり、本を読んだりものを置いたりとかができる場所となっています。和室では、扉を開けると仏壇が入っていて、吹き抜け部分から、神聖な光が落ちてきます。

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光の計画については、昼は太陽の光が天井空間に入って、それが1階の各部屋に落ちていくような下向きの光の流れですが、夜になると、1階での生活の光が吹き抜け越しに天井空間に上がって梁が逆照射されて、まち並みに浮かび上がる上方向の流れです。光の方向が昼夜逆転するような計画です。

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構造に関しては、中間部分に層を入れることによって、屋根の水平力を水平構面に持たせて、下の壁に伝達させる様な耐震補強的な意味で水平構面を機能させています。それが右下の写真で、隣の離れの屋根の上に出ていく様な風景になっています。

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天井空間には、母が植物を置いたり、父のおやじバンドの楽器類が並んでいます。仲間とバンドの練習をしていたり、天井空間を使い倒してくれています。

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父が庭いじりが好きで、定年退職後した後に造園関係の仕事に挑戦しています。自身で庭をコツコツと育てており、竣工して4年ほど経ち、木々がだいぶ育ってきました。

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鳥瞰です。奥の方には田んぼの広がりが見えます。

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子供の頃はもっとこの周りは田んぼが多かったのですが、新しい住宅が本当にたくさん増えました。この住宅でどういう風景を作るかということを考えたときに、僕たちは、この住宅でまちのアウトラインを変えないという選択をしました。
左の写真が昔の道路側から見た立面です。昔は壁で小屋組が見えない状態だったのを、右の写真のように、その風景を街に開放して、古いものが持っている価値をまちに対して訴えかけるようなファサードにしています。

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最後に、老いというテーマにつないでみます。周りの家は老朽化に伴い、取り壊されて新しいものに塗り変わっていく状況があります。これらのスクラップアンドビルドでは、古いものに価値がないと言われているようです。このHouse NIのように古い軸組みに価値を与えて生かしていけるのに、何も考えずに壊すというのはすごくもったいなくて、思考停止状態=老いのような気がしました。この状況に何かを訴えかける様な住宅になればいいなと思います。

House OS 3つ屋根の下

House OSという作品は新築の建物です。これも市街化調整区域内の計画で、周囲には田畑がたくさんあります。ここでも、地方が抱えている問題を考えました。

敷地について

周りはほとんど緑ばかりの敷地で、お施主さんは宅地と農地と農地の三筆の土地を買われました。

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三筆に分かれているんですけど、アイレベルで見るともちろんそんな線は存在していません。人間が勝手に机上で決めた線だけが存在している訳です。そういう意味では、先ほど廣岡さんがおっしゃっていた、敷地境界の存在みたいなものが建築の領域を定義しているというお話と近いかもしれないです。境界を飛び超えながら、3つの土地を全体で暮らすための家がいいのではないかと、最初に土地を見た時に思いました。

お施主さんについて

お施主さんは、熱帯植物栽培家として活動されています。珍しい植物を育てたり、科学的な側面から実験栽培をしたりしています。一家で営まれており、この住宅は二世帯住宅となります。
僕たちはこの住宅を、下の写真のような形で建てることにしました。宅地に住宅をつくって、農地2つに、農業用倉庫と温室という、農地であっても建てても良いものをつくることにしました。それぞれを敷地境界ギリギリに寄せてアウトラインを連続的につくっています。

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下の写真がイメージ模型です。それぞれ、用途が異なる3つの建物が寄り添っています。

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3つの建物があるのと同時にひとつの建物のように見えるという、2つの性質を同時に成立させました。僕は修士論文の時に、街並みをプレグナンツの法則というゲシュタルト心理学のひとつで評価するということを研究していたので、その時の考え方を引用しました。

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プレグナンツの法則(群化の要因)というのは、どういう状態の時にものがまとまって見えるかというものなんですけど、7つほどの要因があります。例えば、連続的な形っていうのは4番の良き連続の要因の様なものが関係していて、アウトラインの連続性によってまとまったひとつの形状に見えています。しかしながら、3棟それぞれ別の素材の屋根・外壁にすることにより、2番の類同の要因を排除し、まとまっているけどまとまっていない状況をつくっています。このように、まとまり具合の判定にプレグナンツの法則をヒントとして用いました。

さらに、通常であれば敷地内に裏表ができてしまいますが、3つの建物が寄り添っていることによって、敷地全体に開いていく建物ができるのではないかと思いました。
下の写真が平面図です。土地ごとに色が分かれていますが、建ち方としては3筆を包括しています。

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下の写真が断面のイメージで、鳥も雲も植物も敷地境界に関係なく存在していて、人間だけは自分たちが作った制約の中に押し込められて暮らしているのが面白いと思いました。それに対して少しアイロニカルな回答ができたらという思いがあります。

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建物は敷地境界を跨げないので、屋根と屋根の間には空のラインが生まれます。空によって普段見えなかった敷地境界線が可視化されます。でも、その下では線の存在なんて関係なく、飛び越えながら生活が営まれています。

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これは竣工写真です。

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屋根によって敷地境界線が描き出されています。(左上の写真)
右上の写真のように、エキスパンドメタルが外側に貼られていて、お施主さんの植物が育てられています。本来市場に出ている植物たちはもっと小さいんですけど、お施主さんの育成方法によって、お化けみたいな大きさになっています。植物は建物のファサードに影響を与えたり、日よけになったり、カーテンのような意味合いもあります。下の写真が敷地境界ラインの様子です。

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リビングから出てきた様子です。窓辺が腰かけのように機能します。

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洗面所から、農業用倉庫に抜けていく風景です。農業用倉庫に洗濯物を干したりできます。

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お施主さんが苔玉を育てている写真です。

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ここは、お施主さんの実験栽培場でもあります。ここで育てられたものが出荷されたり、実験の結果、できたものをまた大量に育てるという様な、職住一体の場として機能しています。右側が温室で、左側が寝室です。

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寝室から外を見ると、下の写真のように立体ガーデン的にも植物が見えたりします。

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こんな感じで、常にたくさんの植物が育てられています。

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こちらはリビングダイニングの様子です。平屋ですが丘状の敷地の上の方にあるので、見晴らしがよく、かなり気持ちがいいです。

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これが三つの屋根が取り合ってる部分です。

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「市街化調整区域」の未来

これまでは、当たり前の様に宅地に住宅を建て、農業は農地で行うという構造でした。この構造が、もしかしたら、思考停止状態(老いの状態)にあたるのかもしれません。宅地と農地の間を取り持つ建築によって、それらが手を取り合い、寄り添うような住宅のあり方の方が、地方の住宅にふさわしいのではないかと思いました。

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(以下、ディスカッション)

廣岡:すごいおもしろかったです。House NIのまちのアウトラインを変えないというのが面白いと思いました。平面は変えないけど立面を変えるのが面白いです。立面は、住区に直結すると思っていて、まちの外見というか、通りをつくったり、大きな影響があると思います。元々ある平面や、架構っていう既存言語が別のパターンランゲージに変わる瞬間っていうのが、設計の中で行われているのがとても面白いと思いました。
自分が地元を見た時にやばいなって思っていたところと、こうあるともっと面白いというのが同一になっているのが、まちの未来を作るというか、過去の話を引き受けながら未来をつくるという、編集的でいい立場だと思いました。市街化調整区域の話も、外観のアイレベルからまちから見た話があまりなかったんですけど、圧倒的に違うと思っていて、小高い丘の上に、樹木がいっぱいの建物ってすごく可愛いと思います。農地って言うとやはり平面的で、それが立面化するって言うのが地形的だって言う話があると思いますが、これよりもっと立体的に見えてくるっていう。しかも、熱帯植物栽培家さんっていう職業がいるって言うことも含めて、すごいプロジェクトだと思いました。

石川:僕らも、建築とお施主さんがマッチしたな、と思っていて、三筆ある状態と、それに建てられる建物(農業用倉庫や、温室とか)、法的な話と施主の職業が、リンクした結果出来上がったものだなと感じています。お施主さんがこの職業の人じゃなければこのあり方は成立させられなかったと思っています。廣岡:立面が変わることで平面の使い方が自由になるって言うことがあるんだってすごい発見でした。普通の農家さん的な建ち方だと、立面がやっぱり固定化しちゃうと思うんですけど、昔のタイポロジーをそのまま生かそうとすると、やっぱり立面がどうしても似てくると言うのがあると思います。そうじゃない立面の周りのものの利用の仕方も含めて、平面が自由で面白かったです。住まい方のプログラムや、あり方を含めて建築でいろんなものが変わっていって、それが立面的に現れていて、素晴らしいと思いました。

佐藤:1-1は土地選びからご一緒することもあると聞いていましたが、やはり、土地選択にも意味があったり、面白いところを選んでいて、興味深く聞かせていただきました。


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編集:大脇花絵、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

文字校正:石川翔一


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