第11夜 若手建築家プレゼン大会| 全体ディスカッション

この記事は、よなよなzoom#11:若手建築家プレゼン大会(2020年10月3日)で、ディスカッションされたものを編集しています。

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今日は、「若手建築家プレゼン大会」です!
基本的に若手建築家だったら何もテーマを与えなくても、だいたいは自分でテーマをもって活動しているので、それを何もまとめずプレゼンしてもらったほうが面白いのではないか、という思いの会です。
ノーディレクションで、僕が学生のころから知っていたり、すごく面白そうな活動しているな、と思う人に基本的に声をかけて、プレゼンしてもらう流れでやっております。

今回お声がけさせていただいたのはだいたい同世代の人たちで、かつ、結果的にですが仙台とかの卒業設計でも有名だった、方々です。

まず、お一人目が、

橋本尚樹さん(橋本尚樹建築設計事務所)

僕と同級生です。僕が初めて認識したのは仙台の卒業設計と京都の6大学展です。どちらでも最優秀を取られていました。それで橋本さんのことを存じ上げたのが最初なんですけど、大学生のころからいろいろな噂を聞き、非常に刺激を受けており、自分も頑張らなければ、と奮起させていただいていました。

お二人目が桔川卓也さん(NASCA)です。
桔川さんは1つ上の代で仙台で日本3位になられていました。ちょうど僕の1つ上なので僕が卒業設計をするときに、仙台の冊子で見ていました。もともと日大出身だったんですけども、その後も、組織設計からナスカに行ったなどの噂を聞いていました。桔川さんとは、3,4年前に見学会でお会いしました。今、ナスカでも働きながら自分の名義で出されるプロジェクトがあったり、個人でも設計をやられていたりするんですね。同世代でも大きいプロジェクトを個人名でやられている方なのかなと思っています。どういった活動をしているのかをお聞きしたいと思っています。

最後に笹田侑志さんと向山裕二さん(ULTRA STUDIO)です。笹田さんは僕がSUEP事務所に勤めていた時にインターンで来られていて、その時から非常に優秀でスタッフをアルバイトだと勘違いして指示していました(笑)。
青木淳事務所に勤めて、最近向山裕二さんと独立されたということで、その活動を聞いてみたいです。向山さんは、gsデザイン会議というワークショップで初めて出会いました。向山さんは、僕らの世代では一番最初に、全国規模の設計競技やコンペで名を馳せていたというのがありました。3年生で快進撃が続いていて、そのワークショップでも最優秀をかっさらって行きました。
ただただすごいなあと思っていたら、卒業設計を見てみると、設計で僕らが建築と呼んでいるところよりもすごい所にアプローチしていました。この人はどこに向かっていくのだろうと非常に楽しみにしていたら、笹田君と一緒に事務所を構えていると知り、その動向が気になっていました。今日はどんなプロジェクトをされているのか伺ってみたいと思います。

今日もオブザーバーに工藤君に来ていただいています。さらにその横には最近独立してこの秋学期YGSAで同僚になる武井さんと、そのパートナーの太田君の、OSTRのお二人にも来ていただいています。

今日は集まりがいいですね。それでは、橋本さんから、よろしくお願いします。

独立2年目。現在までに挑戦してきた建築作品の紹介。(橋本尚樹さん/橋本尚樹建築設計事務所)

学生時代に考えたこと、そして今。(桔川卓也さん/NASCA)

都市文化を批評的に捉えなおしつつ、建築的介入を作りだす(笹田侑志さん、向山裕二さん/ULTRA STUDIO)


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廣岡:ここからは全体で振り返りましょうか。相互に意見交換する感じで、橋本さんの作品から振り返って見ましょうか。桔川さん、いかがでしょうか。

桔川:建築の可能性について探求されている様子がよくわかりました。近作で言うと、内藤さんが持っている繊細さと言うか、構造体の見せ方とか、ディテールの詰めとか、建築が単純に美しいと思いました。一方で、卒業設計のプレゼンを聞いて、作家性が強いという印象も持ち、その両側面あるというのを感じました。

工藤:内藤さんのところでの経験をうまく自分の力に昇華していると言うのは僕も感じました。

桔川:工藤さんが先ほど言われていた、社会との関係のお話は、自分自身としても、色々と考えさせられました。昨今の公共建築は、社会と接続されている、と同時に、社会から搾取されている感もあります。いかに搾取され切らずに社会と接続するということが大切だと感じています。

工藤:桔川さんの働き方って、すごく新しいと感じています。このあと、どうされるのでしょうか。

桔川:悩んでいますが、現在「桔川卓也+NASCA」で取り組んでいる「道の駅のプロジェクト」の竣工は大切にしたいです。あとは、担当しているプロジェクトで竣工が一番遅いのが2023年なんですよ。かれこれ9年くらい続けているプロジェクトですが、事業計画から携わっているので、竣工まで携わりたいと言う意思はあります。NASCAには、個人的なプロジェクトや、非常勤講師なんかも認めていただいているのはありがたいですね。

工藤:ぜひ、その働き方を広めて欲しいです。事務所形態のあり方への示唆も含んでいると思います。どうやって引き継ぐか、というのも、何か考えがあるのでしょうか。

桔川:NASCAという事務所名なのも、「建築家集団を作りたい」というのが最初だったみたいです。NASCAという大枠の中で共感できるものを作り続けるという、そういう船だということですかね。今の僕の立場だと、3種類のプロジェクトの進め方があります。「NASCA」と「桔川卓也+NASCA」、そして個人で活動している「KKTA」。それぞれの長所を生かしながらプロジェクトを進めています。アトリエにおいて、所員の名前で発表することも、初めての試みのような気がしています。

工藤:なかなかないですよ。ぜひ、やり遂げてください。

桔川:学生の進路選択においても、この働き方が参考事例になれば良いなと思っています。

工藤:橋本さんはどうですか。事務所と自分の仕事を。

橋本:やめてから1年間、現場まで見た事例はありました。内藤自身もOBと協働したいということはよくいっていました。先ほど言われた形はなかなか稀有ですが、上の世代も様々な協働の仕方を模索しているのだと思います。ただ、ジャンヌーベルの事務所にいたときに、決めるのは最後、一人だろう、って言っていました。なので、やはりそういう考え方の影響も大きいですね。

武井:廣岡さんはどうなんですか?

廣岡:自由をどう取るかですよね。自分だけが生きたいように生きているってのは、ただのわがままとも捉えられます。生きたいように生きれるのを相互に承認できるという状況が、建築家が自由に振る舞えるということだと思います。でも、それは、ある種の教養も必要ですよね。自由であるためには最低限の力量が必要で、それは外せないです。桔川さんに関してもある程度の年数を経て今のポジションがある訳です。でも、これから働く世代は、そんな未来があるということを認識した上で働ける、というのは大きいのではないでしょうか。
ここで話は変わりますが、向山さんから橋本さんに質問はありますか?

向山:神社の分析をやられていたことに関連してお伺いしたいです。歴史的な参照をしようとしているのか、それとも、構造のみを取り出したいという意図なのか、どちらでしょうか?

橋本:構造主義的な意味での「構造」でしょうか?だとしたら後者ですかね。

向山:なるほど。歴史的な流れが築いてきたものに興味があるということなんですね。それは他のプロジェクトでも、例えばリサーチでそういうものを探したりされるのでしょうか?

橋本:直接的な関係性はあまりないですが調べはします。むしろ、僕がいったのは、そこにある「からくり」という意味での構造ですね。それをあばきたくて歴史的なものを参照しています。

向山:僕たち自身、象徴的なものに興味があるんで、神社の研究と聞くと、色々とききたくなります。あの研究から、神社が持っていた社会的意味を汲み取っているのか、それとも、空間的な体験の話なのでしょうか?

橋本:それを社会的意味というのかはわかりませんが、神社がそこまで残ってきたということは、空間体験がすごく寄与しているんじゃないか、という試論の下、はじめました。社会的に祭り上げられる対象は、体験的なことがベースにないと残らないだろう、という思いもあります。時代も人間も変わっても価値が変わらないということは、何かプリミティブなものがあるだろうと。

向山:強い体験がものを残す。ということなんだと思います。それが、橋本さんの表現としてのアーチにも繋がっているのではないかと思います。アーチを繰り返し使われているのは、プリミティブな体験によって空間の持続性(1200年続いてきたような空間の力強さ)を担保しているのかな、という風にも思うんです。

橋本:そこまで直喩的には考えていないです。どちらかというと、重力の力の流れを考えて採用していますね。

向山:確かに、今回見せてもらったのがたまたまアーチなんですね。僕が拝見した感じだとその印象が強かったので、どういう意味があるのか、ずっと考えていたんです。なので、自然とプリミティブという言葉と繋がったんです。

橋本:それでいうと、アーチというものが重力の流れのようなものを可視化しているからかもしれません。自分では意匠的なわがままというのも感じています。四角い建物を飛ばす、頑張っている900のH鋼があるからですよね。もうちょっと違う角度から見た飛ばすロジックとしてのアーチに魅力を感じた、というのもありますね。

向山:子供とアーチも相性が良さそうだな、と。プリミティブに近いんですが、体験として、洞窟であり、原初的なのかな、と。僕だとそういう説明もしちゃうかもしれません。

笹田:敷地でファーストインプレッションから自分がこだわる部分を見出す、というようなお話もありました。対外的な言語化はされているんでしょうか?実際のプレゼンテーションでは、空間で語るんでしょうか?

橋本:それはお二人に逆に聞いた方がいいかもしれませんね。笑。言語化はしようとはしていますが、なかなか難しい。現状、スタートラインに立った時に言葉がない状態だから、それは考えないといけませんよね。

向山:僕らは理屈はないと言いつつも、がっつり理屈は考えます。橋本さんのは、「それは意味あるよね」って素直に言える感じがして、若干羨ましいですね。

橋本:僕は京大の影響が大きいです。そこには今もご活躍されている、女性の方が多かったんです。大西さんがいて、河野さんがいて。彼女たちはものすごく普通の言葉で話すんですよ。それに勝てないな、って思ったんです。
「私はこう思うんです。」ってマジの顔で言われるともう勝てない。でも、それは女性だからではなく、僕らでもできることなんです。それを20歳の時に感じたのは大きい。
だから、僕も本当にそう思うことをちゃんと掘り下げるようになりました。その甲斐あって、どこか共感みたいなものが備わったのかもしれません。

廣岡:橋本さんが京都の時にお会いしたんですが、その頃は、まだ闘争的な印象がありました。今でもその一面は残っているのでしょうが、自分の原体験を深掘りしているのは、本当にすごいと思います。

橋本:僕は大学院の途中でフランスに行った時に、多分へし折られたんだと思います。同時に、そこで助けられた経験もありました。そういう経験がみなさんあるんだと思いますが、色々な経験をへて、自分を見直すことができたんだと思います。

工藤:僕からも質問です。トップが信頼できる人間をどれだけ作るのか、という話があるかと思います。人によっては、4人を信頼できる人がいて、それぞれが4人信頼できれば、16人、という考え方もあります。僕の上司は、自分が把握できるのは30から40人という、なんとなくの目安があったようです。みなさんは、組織を作るということに対してどう考えているのか、率直に聞いてみたいです。

桔川:最近はスタッフ教育も任せられています。教育は、強い組織を作るためには不可欠であり、日々試行錯誤しています。学生時代に様々な賞を受賞したり、面白いアイデアやデザインができる人間でも、最初は実施設計の図面は全く書けないわけです。そういう人材の頭を硬直させず、“クリエイティブ”な思考を持った状態で、実務訓練をしていくことが、強い組織づくりにつながると思っています。あとは、似ている人物、同意する人物は極力集めない、というのが大事だとも思います。議論が活発化するような関係性ですね。意見がミックスしながら、一人一人が強くなっていくというのが理想です。

向山:僕らは個人名を立てないということ、誰かの名前で発表されるのではなく、事務所としてのアイデンティティを持てないかな、と考えています。担当者が必死に図面を書いて、ボスの名前で発表されるというのは、他の業界の方と話すととても特殊なんですよ。何かに従うのではなく、一緒に作り上げることができれば、それは理想ですかね。

廣岡:遅くまでありがとうございました。ノーディレクションで語ってもらうのは楽しいですね。後のトークが長くなりますが。笑。聞いてくれたのは若手建築家が多かったんですが、みなさんかなり発憤したのではないでしょうか。それでは、また!

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編集:服部琴音、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)
文字校正:桔川卓也、橋本尚樹、ULTRA STUDIO


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