見出し画像

#いまあなたに紡ぐ歌 Act.0002

あなたに紡ぎたい歌があります。
そんな思いで、言葉をかき集めています。
泣かすかもしれないし、心えぐったらごめんなさい。
少しでも共感があったら、喜びます。

夜宵

 時計じかけの
 鳩の鳴き声が
 昨日と同じ声をして
 今日も止まった
 長過ぎる夜が
 始まる予感で
 今日はどうして
 眠りにつこうか

 裂けた傷口に
 水を含ませては
 生きていることを
 思い出させていたのは
 いつのことだろう?
 癒えかけた傷が
 新しくなるごとに
 忘れたいはずの
 楔を思い出す

 立ち止まる季節を
 拭いきれずに
 また今宵も遠い空
 浮浪雲(はぐれぐも)眺めてる

 流れていく
 水面(みなも)の花びらを
 いつかと同じ風景に
 思えるだろうか
 長過ぎる季節に
 流されてきたこと
 今はどうして
 笑っていられる?

 割れた陶器に
 花を散らしては
 戻ることのない
 あの人を思ったのは
 いつのことだろう?
 癒えた古傷が
 痛みだすその時に
 忘れていたはずの
 ささくれを思います

 立ち止まる季節を
 拭い去るときは
 水面に流れる花を
 愛でていようか

 今年もこの季節が来て
 いつか過ぎてゆく
 同じ季節のようで
 同じものは何ひとつない

 立ち止まる季節は
 流れていった
 戻らない秒針が
 足音を残していくように

(2003年 やぐちひさし(よんなな))

【やぐちのひとこと】
 傷ついた思い出を抉り出すようなほの暗い思い出を忘れるには、それなりの時間が必要になるもので。「時は薬」でもあるのだけれど、その薬の効き方がどういうスパンであるか…そこは結構考えてしまいそう。
 静寂に包まれた夜にふと思い出が戻ってくる。後悔や恨み言ではないのだけれど、憂鬱さに悩まされる時間にどのような折り合いをつけていくのか。この詞を書いてから20年経って「ああ、そうか」と気づかされることが多い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?