「たけとくんのボタン」 木村研

「こんなの、いらないよ」
 たけとくんが、窓から庭にほうりだした。
「いてっ」
 たけとくんの園服のボタンは、ころころころがって、
「ひどいなあ。じょうずに着れないっからって、ぼくをすてるなんて、ひどいよ」
と、いった。
 たけとくんは、じょうずにボタンがとめられない。いつも、力まかせに引っぱっていたから、ぶらぶらになっていたんだ。それで、今日も、
「一人で着られるんだから」
と頑張っていたんだけど、糸が切れたら、もういらないよって、ボクをすてちゃったんだ。
 たけとくんのボタンは、ぷんぷんおこって、幼稚園にいった。
 そして、砂場に行ってみると、
「たけとくんのボタンじゃないか?」
「早いねえ」
「おはよう」
と、三輪車と泥んこのシャベルと空気のぬけたサッカーボールがいった。いつも、たけとくが遊んでいるお友だちだった。
 たけとくんのボタンは、
「たけとくんなんて、きらいだよ。ボタンをいらないからって、窓からすてちゃうんだ。ひどいよ」
と、ぷんぷん怒っていった。
「そうか」「でもね」
 三輪車とシャベルがいった。
「ボタンくんがいなくちゃ。園服、着れないじゃないか」「園服着ないと幼稚園にこれないんだぞ」
 すると、「だめだよ。たけとくんが来ないと、一緒に遊べないじゃないか」
空気のぬけたサッカーボールは、顔をくしゃくしゃにして泣きだした。
 そのとき、園長先生が砂場の横を通って、
「まあ。こんなところにたけとくんのボタンがあったわ」
と、ボタンをひろっていって、たけとくんの園服にぬいつけてくれた。
「さあ、これでいいわ」
 すると、たけとくんは、ゆっくりゆっくりボタンをとめて、
「ありがとう」
と、砂場に走って行った。

(作者のことば)
東京も、もうすぐ学校や幼稚園に行けそうですね。楽しいことがいっぱい待ってますよ。

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