「月を食べて石になるかいじゅう」 はらまさかず

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 陸くんは、マンションの3階に住んでいます。
 ベランダからは、竹林がよく見えます。
 ここには、かいじゅうが住んでいます。そのことは、陸くんしか知りません。
 かいじゅうは、昼間はどこにいるのかわかりません。
 でも、夜になると、むくむく大きくなり、竹林のなかから顔を出します。両手をあげて大きな口をひらき、キバをぎらつかせます。でも、大声は出しません。
 かいじゅうは良いかいじゅうです。マンションに住んでいる人たちが悪い夢をみないように、守ってくれています。
 かいじゅうは、大声は出しませんが、時々よふけに、サササとか、カサカサとか、小さな音をたてます。
 夜がふけるにつれて、かいじゅうはどんどん大きくなります。マンションより大きく、電柱より高く、雲をこえ、どんどん、どんどん大きくなります。そして、夜が明けそうになると、ぐーんと手をのばして、月をつかみ、パックン、モグモグ、食べてしまうのです。
すると、かいじゅうの体はだんだん小さくなっていきます。
だんだん、だんだん、雲より下に、電柱より低く、マンションよりも小さく。
 朝、陸くんが目をさますころには、かいじゅうは石っころになっていたり、木の根っこになっていたり、どんぐりになっていたりするのです。だから、どれだけさがしても、みつかりません。
 夕方、暗くなりはじめるころ、また、かいじゅうは大きくなっていきます。竹林の石っころが、ことこと動いたかと思うと、風船みたいにふわんとふくらみ、ぷっと、何かをはきだしました。月です。月はふわふわ、お空にのぼっていきました。


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