「ななちゃんお口をあけて」 木村研

 明日から幼稚園が始まるという日に、ななちゃんの歯が抜けました。
 弟のしゅんきくんに、
「おばあちゃんみたい」
といわれて、ななちゃんは、ポカリ。しゅんきくんに、げんこつを落としました。
「わーん」
しゅんきくんが大泣きをすると、お母さんは、テレワークの仕事をやめて、
「どうしたの?」
と、ききました。
「お姉ちゃんが、ぶったー」
しゅんきくんは、もっともっと大きな声で泣きました。
「ななちゃんは、お姉ちゃんでしょう。乱暴しないで、めんどうみてあげてよ」
お母さんは、ななちゃんを怒りました。
「なによ」ななちゃんは、ぷんぷん怒って部屋に入ってしまいました。

 次の日。
 ななちゃんが大きなマスクをして幼稚園にいくと、大きなマスクをしたみどり先生が、
「ななちゃん、おはよう」
と、いいました。
 それなのに、ななちゃんは、何にもいいません。マスクの下の口を、ぎゅっと結んでいました。
 みどり先生が困っていると、園長先生が、
「ななちゃん、どうしたの? ずっと、お休みだったから、恥ずかしくなっちゃったのかな? それとも、幼稚園のこと、忘れちゃったのかな?」
と、聞きました。
「………」
 ななちゃんは、首を振りました。
「よかった」園長先生は、ななちゃんをぎゅっとだきしめて、
「お口の中に、悪い虫がいるのかなと、心配しちゃった」
と、いいました。
 だから、ななちゃんは、
「ないしょよ」
と、マスクをとって、にっと笑いました。
「まあ。歯が抜けたのね。ななちゃん、お姉ちゃんになったのね。おめでとう」
 園長先生は、ななちゃんは、はがぬけて、姉さんになったのよとみんなに紹介してくれました。だから、
「ななちゃん、おめでとう」
と、たくさんの拍手をもらいました。

(作者のことば)
長い自粛生活でしたね。育ち盛りの子どもたちはずいぶん成長したんでしょうね。お父さんお母さんは、ずっと一緒にいたから気がつかなかったかもしれませんがね。

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