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「よあけの書店」 はらまさかず

とおるさんは、月に何度か、透き通ります。
そんな時は決まって、何かお話をつくりたくなります。
少ない文字のきれいな言葉で、できるだけ短く、すてきなお話をつくります。

とおるさんは、好きな色の、好きな肌触りの紙を用意します。
そこに、印刷したような字で、きれいにお話を書いていきます。
透き通っていたとおるさんは、本ができる頃には、ちゃんと元に戻っています。

とおるさんはできあがった本を、だれかに買ってほしくも見てほしくもありません。でも、本屋さんには置いてみたいと思います。それで、とおるさんは、本屋さんをはじめました。でも、買ってほしくはないので、誰もこない時間に本屋さんを開きます。だいたい明け方の3時から一時間ぐらい。明かりをつけてお店をあけ、本を並べ、ただ店番をします。誰かがふらりと入ってくるようなこの時間が、とおるさんは一番好きです。

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