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「なんでも みっつ」 はらまさかず

新幹線にのって、もっちゃんは久しぶりに、おじいちゃんとおばあちゃんの家に来ました。
「きたよー」
「もっちゃん、やっと会えたねえ」
と、おばあちゃん。
その後ろで、おじいちゃんがにこにこしています。
夕ごはんの時、もっちゃんは、じぶんのお茶碗の柄が、お父さんとお母さんと、おんなじだと気づきました。
「あー、いっしょだー」
もっちゃんは、うれしくなっていいました。
それから、湯飲みの柄もおんなじ。
「これもだ」
箸置きも。
「これも」
お味噌汁のお椀もです。
「これもだー
なんでもみっついっしょ」
と、もっちゃん。
「でも、なんで?」
すると、お父さんが、
「お父さんも、もっちゃんとおんなじ、ひとりっ子だからだよ」
と、いいました。
「どういうこと?」
もっちゃんが、ふしぎに思っていると、
「これはね、もっちゃんのお父さんが小さいころ、おじいちゃんとおばあちゃんと三人でそろえて、使っていたんだよ。なんでもみっつ」
おばあちゃんがいいました。
「もっちゃんのお家にも、なんでもみっつ、あるんじゃないかい」
おじいちゃんが、にこにこしていいました。
「うちにもあるかなあ」
もっちゃんは、家に帰ったら確かめてみようと思いました。

父親になって初めて気づいたのですが、実家には、なんでもみっつありました。父も母も故郷を離れ、知らない土地で、幼い私も含めて三人で力を合わせて生きて来たんだなあと、その時しみじみと思いました。もちろん、子どもの頃はそんな心細さを感じたことはありませんが。
今は、なんでもふたつで、戻ってきてあげたいなあと、ふと、思います。

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