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死にたい夜に効く話【10冊目】『ミッキーマウスの憂鬱』松岡圭祐著

閉園後のディズニーランド。らしからぬ座り方でげっそり項垂れているミッキーの姿を思わず想像してしまった。
そりゃあ、ミッキーだって疲れるよね〜。
いや、そうじゃない。

タイトル的に大丈夫なんか

果たして、そんな夢も希望もないような話を堂々と書籍化してしまっていいのだろうかと、余計な心配と黒い好奇心が1:9で渦巻く中、手に取った思い出の一冊『ミッキーマウスの憂鬱』を10年以上ぶりに読み返した。


ディニーランドで準社員として働くことになった後藤くん(21歳)
やる気と期待で胸膨らませるも、配属された部署の仕事は期待外れ。やりがいを感じられない。

そして、正社員と準社員の間に横たわる、もはや差別的なまでの線引き。ディズニーランドの裏側は、ゴリゴリの階級社会だった。

そんな中、ディズニーランドの存続すらかかるトラブルが発生。彼はトラブルに巻き込まれていく。というか、自ら巻き込まれにいく。


とりあえず、自分的見所3点を紹介したい。

1.理想と現実とのギャップ

文庫本の裏表紙によくある、あらすじ。
本屋さんで買う時、そこを読んでから買う人も多いんじゃなかろうか。

以下抜粋。

東京ディズニーランドでアルバイトすることになった21歳の若者。友情、トラブル、恋愛……。様々な出来事を通じ、裏方の意義や誇りに目覚めていく。

パワハラ、トラブル、カースト制度の間違いじゃないか?
そう思ってしまうほどこの小説、パワハラの香りが強めである。

昔に比べて、パワハラやセクハラや、諸々のハラスメント問題に関して敏感になってるご時世だから、余計に目につくのか。

上の人が暴言吐きまくりのとこなんて、とりあえず、ぼーっと突っ立ってないで、誰か録音しておきなさいよ!と思ってしまう。

爽やかなお仕事小説!っていうよりは、働くってこういうことなんだよ、みたいなドライな感じが全体の雰囲気として漂っていた。

でも実際、理想と現実が違ったっていうのは、どこの業界でもあるよねぇと思ってしまう。

2.主人公が最強

主人公の後藤くんはとてもポジティブだ。

何があってもへこたれない。
へこたれないっていうか、むしろノーダメージ…?

強すぎる。何でそんなにポジティブなんだ。わたしがネガティブすぎるのか?と思ってしまう。ちょっとしたことで悩んでしまう自分がアホらしくなってくる。

彼のすごいところは、どれだけネガティブな状況になろうと、それを良い方へ解釈してすぐに切り替えられるところだ。
後藤くんほどまでとは言わないけれど、「良い方へ解釈する」技術を身につけられたら、大分生きやすくなる気がする。

やっぱりポジティブって最強。
でもわたしは久川さん推し。久川さん好きだ。


3.いろんな意味で好奇心が刺激される

この物語はフィクションです。
実在の団体名、個人名、事件とは全く関係ありません。

小説や漫画でよく見るこの文章に、こんなに安心感とがっかり感を覚えたことはない。

だが、ここにはさらに三行目が続く。

その為、実在しない名称、既に廃止された名称等が含まれています。

微妙に事実に基づいているじゃないか!
廃止された名称ってどれのことなんだろ。

設定が100%のフィクションじゃないからこそ、いろんな意味で好奇心をくすぐってくる。
ディズニーガチ勢ならどこまでが事実でどこまでがフィクションか、わかるんだろうか。


読んだのは10年以上前なのに、内容をやたらはっきり覚えていたのは、ディズニーランドの裏側という、意表を突くテーマと、こういう内容なの!?というインパクトの強さが残っていたんだろう。
数年前に出た続編『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』は、雰囲気変わって、女の子主人公の可愛らしい感じのお話になっていた。

わたしが読む前に想像したような、負のオーラを放つミッキーを見られるのかどうかは…
まぁ読んでからのお楽しみということで。


(2023年10月16日)

〈参考文献〉
松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱』新潮社、2008年