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死にたい夜に効く話【5冊目】『氷菓』米澤穂信著
不思議な縁で出会う作品っていうのも、たまにある。
実家に住んでいた頃、ある日突然、深夜のアニメが勝手に録画されているようになった。
予約した覚えもない。家族に聞いても誰も知らない。
どうもテレビの設定で勝手に毎週録画されるようになってしまったらしいが、どこをどういじっても、直らない。
毎週たまっていく、見知らぬアニメ。
まぁせっかくだし?消す前に1話だけ見てみるか?
そうして結局、最終回までしっかり見た。
そんなわけで、今回は米澤穂信先生の『氷菓』です。
米澤先生のデビュー作にして、アニメ化もした古典部シリーズの一作目。
岐阜県高山市の高校を舞台に、古典部4人の男女による、学園青春ミステリー。
わたしは好きだ。
人が死なないミステリー。
ミステリー系の映画とか、ドラマとか、子どもの頃から見てた。見てたけど、めっちゃハマるとかそういうことはなかった。
なぜだろう。大人になって、ようやく気づいた。
だって…人、死ぬじゃん?
当たり前だろ、とか、まぁそういうこと言わないで。
ミステリー系の作品って基本、誰かが犠牲にならないと成り立たないわけじゃない?話の展開上。
いや、わかってるよ。わかってるよ。そういうもんだってことは。
ただ、謎解きとか、トリックの面白さよりも、どうしても、
ああ、無念な…
って感情が先立ってしまうのだ。
故に、自分はミステリーを楽しめない人間なのだろうと思っていた。
その点、古典部シリーズは安心安全!エログロシーンもなし!
なにより、読みやすい。
普段、あんまり本読まない、読み慣れてないっていう人に、
それがまさに、中高生だったのなら、待ってましたとばかりに、『氷菓』を差し出したい。
そして、京アニの美しいアニメーションを脳裏に刻みつけた上で、小説を読むと、これまたすっっごくいいのだ。
高校生の頃、ミステリー系に苦手意識があった自分としては、初めて面白いと思えたミステリー作品だった気がする。
新刊を待って、ワクワクしていたあのトキメキが、今では懐かしい。
アニメでも、漫画でも、小説でも、なんでもいいけど、未来に続きが楽しみなものが、一つでもあるっていうのは、すごく大事だと、自身の感受性が鈍り出している昨今、しみじみ感じる。
そして件のテレビだが、深夜に勝手に録画される設定はいつの間にか、勝手に直った。
謎は謎のままである。
(2023年9月19日)
〈参考文献〉
米澤穂信『氷菓』角川書店、2001年