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外面描写の鬼


解説に書いてあった「外面描写の鬼」という言葉がいい。
徹底的に「外から」描写される死のさまざま。
数ある吉村昭の著作でも『海も暮れきる』『戦艦武蔵』に並ぶ凄さだと思う。
摩文仁の崖から小石を撒いたように落下する住民たち、円陣の中央でちらっと白い火が見えたと思うとパタっと倒れる手榴弾による家族自決。兵士の腹からこぼれる桃色の腸。自軍に撃たれ波間に消える投降者。ことさら死を重量ないがごとくに描き続ける筆に戦慄。
この比重の喪失が戦争というものなのか

(シミルボン 2016.9)

『殉国』
吉村昭
文春文庫

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