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ブックレビュー(21)

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読書感想文。
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#シミルボン

美しい自転車

『旧型自転車主義』 平野勝之 山と渓谷社 僕は車に乗らない。 免許は一応持っているが、なん…

ジェットコースター悪党伝

新釈雨月物語 新釈春雨物語 石川淳 ちくま文庫 恥ずかしながら、『雨月物語』も『春雨物語』…

蘭化じゃない。もう、ただの化け物。

『冬の鷹』 吉村 昭 新潮社 僕は語学の才能がない。努力が足りないだけだと言われるだろうが…

想像よりさらに一段高い空中を飛べる人

溺レる 川上 弘美 出版社:文藝春秋 狡猾に先を行く。常に何歩か逃げている。絶妙な距離感で…

蛹化の女!

『冬虫夏草の謎 復刻』 盛口 満 丸善出版 戸川純の超名曲『蛹化の女』(むしのおんな)、大…

金井くんの作文

『神様のすること』 平安寿子 幻冬舎 老母の介護にまつわるエッセイだが、中途、脇道にそれた…

あるとかないとか、そういうことじゃないんだ、多分。

『不思議旅行』 水木しげる 中央公論社 最終章の「死について」で、やたらしんみりしてしまった。 しんみり、というと語弊があるか。 結局、異界が見える人と見えない人の差、というのはないのであって、結局同じことを、ある人はこう感受し、ある人はこう感受する、という、それだけのことにすぎない。 たとえば僕の友人の一人は「見える人」なのだが、沖縄の南部の激戦地跡などに行くと、もうやたらと何かを感受する。ただ事じゃない土地だ、というのである。 僕なんかは人間は自分の死も知覚できないし

墨書太書きの脳

『唯脳論』 養老孟司 ちくま文庫 かなり前の著作で(25年前)、「養老孟司『唯脳論』批判」で…

何がご不満なのですか風太郎先生!

『修羅維新牢』 山田風太郎 ちくま文庫 どうしても見たかった写真展の開催最終日、仕事が延び…

「膝カックン」的カタルシス

『室町小説集』 花田清輝 講談社 なんだろうこれは。 読みながら呻いていたことは覚えている…

ex-centricite(中心離脱)の力学

『行人』 夏目漱石 新潮文庫 大正初年の小説とは到底思えないなぁ。 読んで、僕はなぜか大き…

酷いことだ

本はいつでも何度でも自由に読めるのがいいよね、っていうのは嘘だ。 川上弘美『神様』(中公…

奥歯

本当にあたらしいことというのは、古いこととのつながりが切れているので、あたらしいのかどう…

外面描写の鬼

解説に書いてあった「外面描写の鬼」という言葉がいい。 徹底的に「外から」描写される死のさまざま。 数ある吉村昭の著作でも『海も暮れきる』『戦艦武蔵』に並ぶ凄さだと思う。 摩文仁の崖から小石を撒いたように落下する住民たち、円陣の中央でちらっと白い火が見えたと思うとパタっと倒れる手榴弾による家族自決。兵士の腹からこぼれる桃色の腸。自軍に撃たれ波間に消える投降者。ことさら死を重量ないがごとくに描き続ける筆に戦慄。 この比重の喪失が戦争というものなのか (シミルボン 2016.9)