マガジンのカバー画像

ブックレビュー(21)

21
読書感想文。
運営しているクリエイター

記事一覧

美しい自転車

『旧型自転車主義』 平野勝之 山と渓谷社 僕は車に乗らない。 免許は一応持っているが、なん…

『算士秘伝』

『梅雨将軍信長』 新田次郎 新潮文庫 表題作は面白くないが、残りの諸作がどれも面白いという…

ジェットコースター悪党伝

新釈雨月物語 新釈春雨物語 石川淳 ちくま文庫 恥ずかしながら、『雨月物語』も『春雨物語』…

蘭化じゃない。もう、ただの化け物。

『冬の鷹』 吉村 昭 新潮社 僕は語学の才能がない。努力が足りないだけだと言われるだろうが…

想像よりさらに一段高い空中を飛べる人

溺レる 川上 弘美 出版社:文藝春秋 狡猾に先を行く。常に何歩か逃げている。絶妙な距離感で…

蛹化の女!

『冬虫夏草の謎 復刻』 盛口 満 丸善出版 戸川純の超名曲『蛹化の女』(むしのおんな)、大…

金井くんの作文

『神様のすること』 平安寿子 幻冬舎 老母の介護にまつわるエッセイだが、中途、脇道にそれた「金井くんの作文」の話が一番良かった。 小さい頃から読書家で(というより人付き合いが大嫌いで本に篭っていた)、本を読む=作文が書ける、学級内で作文を書かせたらいつも一等賞だった小学生の頃の平安寿子が、クラスの劣等生「金井くん」のまっすぐな作文に完敗するくだり。 いやぁ、名文であった。 これをまっすぐな日本語というのだ。 ネタバレしたら面白くないので書かないけれど。 いや、引用したくてう

あるとかないとか、そういうことじゃないんだ、多分。

『不思議旅行』 水木しげる 中央公論社 最終章の「死について」で、やたらしんみりしてしまっ…

墨書太書きの脳

『唯脳論』 養老孟司 ちくま文庫 かなり前の著作で(25年前)、「養老孟司『唯脳論』批判」で…

何がご不満なのですか風太郎先生!

『修羅維新牢』 山田風太郎 ちくま文庫 どうしても見たかった写真展の開催最終日、仕事が延び…

「膝カックン」的カタルシス

『室町小説集』 花田清輝 講談社 なんだろうこれは。 読みながら呻いていたことは覚えている…

ex-centricite(中心離脱)の力学

『行人』 夏目漱石 新潮文庫 大正初年の小説とは到底思えないなぁ。 読んで、僕はなぜか大き…

酷いことだ

本はいつでも何度でも自由に読めるのがいいよね、っていうのは嘘だ。 川上弘美『神様』(中公…

奥歯

本当にあたらしいことというのは、古いこととのつながりが切れているので、あたらしいのかどうかさえわからない。なのでどんなあたらしいことも、古いことのなかの、なにか、を多少は継承しなければならない。 それをこの小説のキーワードに従って、奥歯、と名づけてもよい。 古い道から進む、ざくざく進んでいく、その鍬の先端のきしみを感じながら一気読みした。読んでいる身も鍬を振るっている気になる。奥歯の一点に何かを継承しながら、何かを封じ込めながら、鍬は進む。しびれるほどかっこよく、みじめなほど