『算士秘伝』
表題作は面白くないが、残りの諸作がどれも面白いという、不思議な編集の短編集である。
特に『算士秘伝』が最高に面白い。
当時の西洋の水準に比しても引けをとらぬ高みに達しながら、幾流かの門閥にせっかくの知識を閉じ込めていた日本の数学、和算。
関孝和の関流、とその弟子筋から出た建部流が奥義を競う中、流浪の算術家・久留島義政はその閉鎖主義に抗して解した定理をどんどん公開する。
実在の人物である久留島義太がモデルと思われるが、この義政と道場の娘・あやの人物造形が素敵で、わずか三十数ページで終わる短編であることが惜しすぎる。
もっと長い作品にして欲しかった。
もっと長い作品にして欲しかった。
もっと長い作品にして欲しかった。
三回言うたった。
誰かこれを原案にして膨らませて、ドラマか漫画にしてくれないだろうか。
他に『二十一万石の数学者』、蘇我入鹿が作らせた漏刻(水時計)を扱った『時の日』など、新田次郎の「時代科学小説」全9編。
新田次郎の中で一番好きかな。
(シミルボン 2018.5.3)
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