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「議員立法」は機能しているの? #25歳からの国会

私があえて自らがん患者だと申し上げましたのも、がん対策基本法の与党案と民主党案を一本化し、今国会で成立させることが日本の本格的ながん対策の第一歩となると確信するからです。

(中略)

私は、大学生のときに交通遺児の進学支援と交通事故ゼロを目指してのボランティア活動にかかわって以来、命を守るのが政治家の仕事だと思ってきました。がんも自殺も、ともに救える命が一杯あるのに次々と失われているのは、政治や行政、社会の対応が遅れているからです。
年間三十万人のがん死亡者、三万人を超える自殺者の命が一人でも多く救われるように、がん対策基本法と自殺対策推進基本法の今国会での成立に向けて、何とぞ議場の皆様の御理解と御協力をお願いをいたします。 総理にも、国会議員のお一人として、この二つの法案の今国会での成立にお力添えをいただけないか御答弁をお願いして、私の質問を終わります。

山本孝史参院議員
平成18年5月22日 第164回国会 参議院 本会議

冒頭、がん対策基本法の審議の中で、自身ががん患者であることを公表した山本孝史参院議員の質問をご紹介しました。

がん対策基本法は、最初に野党・民主党議員から議員立法として提出され、与党・自由民主党から対案が出た後、一本化されて委員会提出法案として成立する、という複雑な過程を辿っています(*1)。

政治家というのは法律を作るもの、と思っていらっしゃる方も多いと思いますが、誰もが法律を作って、簡単に成立させられるわけではなく、議員立法はあくまでイレギュラーです。

議員立法とは一体何であり、どのように機能しているのか、見ていきましょう。

いかに法律は決まっていくか

法律は、提出のされ方により、2つに分けられます。

一つは「内閣提出法案」、通称「閣法」と呼ばれ、読んで字の如く内閣が提出する法案です。

もう一つが、「議員立法」、通称「議法」(提出された議会に合わせて衆法・参法とも呼ばれます)と呼ばれるもので、議員が提出する法案です。

議員立法というのは、下記のように内閣提出法案よりも遥かに成立率が低いのが現状です。

第201回 通常国会
内閣提出法案(59本提出 / 55本成立 / 成立率93%)
議員立法(57本提出 / 8本提出 / 成立率14%)
第198回 通常国会(提出数 / 成立数 / 成立率)
内閣提出法案(57本提出 / 54本提出 / 成立率95%)
議員立法(70本提出 / 14本提出 / 成立率20%)

議院内閣制において多数を占めるのは与党であり、与党が政府を構成します。そして、法案というのは多数に賛成されない限りは成立しません。

ということは、政府与党が一体となって法案を提出する場合のほうが成立率が高い、というのは考え方によっては当然の話ではあります。


議員立法には、提出の仕方によっては実質的に密室で行われる与党の事前審査よりも、国民から見える形で審議が行われるため、透明性に寄与しているという意見があります(*3)。

一方、委員長提出法案など全会一致で提出されるケースでは、委員会質疑が省略されてしまうため、一般質疑をセットで行うことで実質の審議時間を確保しようとするケースもあります(*4)。

議員立法の歴史と現在

議員立法に関する規定は、国会法にこう定められています。

国会法56条1項
議員が議案を発議するには、衆議院においては議員20人以上、参議院においては議員10人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員50人以上、参議院においては議員20人以上の賛成を要する。

20人以上、ということは、事実上「議員」立法ではなく、「政党」立法です。もちろん超党派の議員連盟などで出されることもありますが、個人が勝手に出せる、というものではありません。

これは、もともと「お土産法案」と呼ばれる、地元の有権者への露骨な利益誘導を行う法案提出などを避けるために、追加された条文と言われています。

諸外国と比較すると、イギリス、カナダ、フランス、イタリアなどは成立する法案の中での議員立法の割合が6-7割以上と中心になっているものの、これは議員個人が自由に立法が出来るという制度のためこのような比率になっているようです(*3)。

議員立法と種類

では、そもそも議員立法には、どのようなものがあるのでしょうか。いくつかの累計に分けてみます。(これに当てはまらないケースも無論あります)

(対案型)野党提出法案
通常、野党第一党、または野党第一党を中心したグループから、現在政府与党から提出する法案に対抗する形で出される対案型の法案。国会で審議される内容に合わせて提出されることが多い。

(理念型)野党提出法案
党や政治グループが重要とする論点に関して提出する法案。成立させることを目指すのではなく、あくまで党の方向性・マニフェストとして提出されることが多い。

超党派・議員グループ提出法案
超党派の議員グループが提出する法案。まれに与党系の議員グループで提出するケースも。
与野党合意の場合は議員個人が提出者にならず、委員会提出法案になることが多い(*5)。

(政府)依頼立法
政府から与党に依頼して成立させる法案。与党内の事前審査を回避するためや、災害対応など迅速に成立させたいケースなどで行われ、実質的には内閣提出法案となる。

55年体制以前には、参議院独自会派である緑風会を中心に活発に行われてきた議員立法も、保革の構造が明確になるにつれて下火となり、90年代以降再び使われるようになりました。

議員立法が成立するためには与党の賛成が必要であるため、成立するのはこの2つのケースです。

・政府依頼立法(与党提出)
・超党派(与党含む)提出法案

政府依頼立法は、政府から提出する際に必要な事前審査を回避することで、迅速に法案を成立させるために、政府から与党議員に依頼することが通例です。

ただ、これはある意味形を変えた内閣提出法案であり、「事前審査逃れ」という批判を受けることにもなります。


超党派提出法案に関しては様々なパターンがありますが、与野党一致で提出することで実質的な審議を全会一致で成立させたい法案や、野党議員の提案の中で与党議員が「乗れる」法案である場合、与党に花を持たせながら水面下の競技を行って全会一致で成立させるケースなどがあります。

また、ねじれ国会などでは野党提出法案を「丸呑み」するケースや、与野党で法案を出し合い一本化するケースなどもありますが、基本的に与党の賛成がなければ成立しない、というのは同じです。

議員立法のこれから

法案を出し合って議論する、というのは、多くの人の国会の理想のイメージとして語られることが多いものです。

しかし、振り返って考えてみると、日本は制度上、議員立法に多くの制約を課しており、議員個人が議員立法を出すことは出来ません。


また議院内閣制という仕組み、そして厳しい党議拘束を考えれば、結局は水面下の交渉により与野党が一致するほかないのが現状です。

日本の立法は制度的に内閣に依存しており、議員立法はあくまでイレギュラーです。このような現状が立法府として望ましいものかどうかは難しい点ですが、現状を踏まえた議論が必要です。

出典

*1 田村充代「『がん対策基本法』の立法過程 ―脳死・臓器移植問題とクローン人間作製禁止問題との比較を通じて―」2008
*2 国立国会図書館「議員立法はどのように行われてきたか」2016
*3 五ノ井健「日本の議員立法 ── 国際比較の視点から ──」2017
*4 https://twitter.com/yamanoikazunori/status/1323633136085868544
*5 議会雑感「委員会提出法案(委員長提出法案)-その2」2016

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