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参議院の存在意義とは? #25歳からの国会

憲法上、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関であるとされるこの国会において、行政監視機能は立法機能と並び議会としての権能の根幹を成すものです。また、我が国で採用される議院内閣制において、とりわけ参議院は任期が長く、長期的な視野で良識の府として行政監視機能を十全に発揮するものと解されています。
平成初頭、度重なる行政不祥事の発生に高まった国会の行政に対する監視・監督機能を強化すべきとの国民の声などを背景に、参議院に期待される行政監視機能を向上させるため、平成十年一月、行政監視委員会が創設されました。衆議院では決算行政監視委員会が一つの委員会とされた一方、本院では行政監視と決算が別の委員会とされたことは、行政監視機能を重視する参議院独自性の表れと言えます。

吉川沙織 参院議員
令和2年6月5日 第201回国会 参議院 本会議

「良識の府」「熟議の府」の現在地点

冒頭の吉川沙織参院議員の発言にもあるように、参院は慣例的に「良識の府」、あるいは「熟議の府」と呼ばれてきました。

「良識の府」という言葉は、第13回国会(昭和27年)からすでに呼ばれていたようです。

昨日提案されました緑風会の修正案なるものは、その本質において自由党の原案と何ら異なるところなく、我々の期待と去ること極めて遠く、(「その通り」と呼ぶものあり)かくて国民大衆が良識の府といたしまして参議院に繋いだ微かな唯一つの希望すら今や失われんといたしまして、議会政治全体に対する不信と危機を招くに至りましたことは、緑風会のためにも誠に惜しみても余りあることと言わなくてはなりません。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)

戦前に「貴族院」として、爵位を持つ人間のみが在籍していたことにより、様々な形で衆議院とは違う冷静な議論を行った来たのが日本の上院です。その気風を受け継いでか、戦後の参議院においても、かつては「緑風会」という会派が存在し、衆議院の政党政治とは違う、参議院の独自性を保とうとしていました。

緑風会とは
「既成政党にあきたらぬ清新な人たちばかりを集め、無所属クラブを作ってはどうか」という後藤隆之助の意見から山本有三らによって結成された参議院独自の会派。

貴族院出身など、気位の高い議員が多かった参議院の気風を象徴していたと言われ、最盛期は92人の参院議員を擁して最大会派となった。
保守合同後の自由民主党の結成後は衰退し、衆議院と同じく政党政治が主軸となった。

参議院は、衆議院と比べて以下のような特徴があります。

・任期が長い
・解散がない
・基本的には衆院を通過した法案を審議する
・予算に関しては衆議院の優越がある

このような特徴から、参議院は「主戦場」とならず、日程闘争など衆議院の対立的な気風から一定の距離をおいて慎重にチェックアンドバランスを果たすことが求められる……とされます。

衆議院の優越とは

日本に関わらず、ほとんどの議院内閣制の国においては下院、または上院に優越権を定め、両院が対立した場合に政府がレームダック状態になることを防ぐ措置が取られています。

現在の日本国憲法においては、下記のような項目について、衆議院の優越が認められています。そのため、例えば総理大臣が決められなかったり、予算が通らなかったりするケースは想定しづらく、国としての最低限の機能は維持できるようにされています。

・予算の議決
・条約の承認
・内閣総理大臣の指名

他方、通常の法律案は参院で否決された場合、衆院で多数政党が3分の2を持っていないと廃案になってしまいます。

つまり、いわゆる「ねじれ国会」において野党のプレゼンスは高まります。法律案において与党が野党側に譲歩し、一種の大連立的な状態になることや、参院多数政党の強硬な反対により国家が空転するケースもあります。

参院不要論

このような参院の特徴から、参議院はそもそも、国会質疑の目玉になることはありません。常に不要論もつきまといます。衆院の「カーボンコピー」と呼ばれることも少なくありません。

衆参で同じ政党が多数を占めている場合や、衆院で与党が3分の2以上を占めている場合(つまり殆どの場合)、参院の審議は実質的に影響を与えず、日程が決まれば儀礼的に行われてしまうことがあるのも事実です。

このような現状から、参院改革は度々議論されてきました。特に、参院をなくしてしまう「一院制」はその最もわかり易い例です。一院制の導入をマニフェストにしている政党すらある ように、一院制、すなわち立法府の縮小こそが構造改革だ、という議論は度々なされています。


二院制の意味とは

二院制の意味とはなんでしょうか。IPU(Inter-Parliamentary Union | 列国議会同盟)によると、世界193カ国のうち59.07(114カ国)が一院制で、40.93%(79カ国)が二院制を取っています(*1)。

先進民主主義国家の多くは二院制を取っている、と言われます。実際、G7諸国では中国以外のすべての国が二院制を採用しています。しかし、韓国や、北欧諸国など二院制から一院制に移行した国も少なくありません。

また、イギリスやカナダなどイギリス連邦諸国では、上院が公選ではないため、極端に下院の優越が認められているケースもあります。


さて、それでは二院制にはどのような意味があるのでしょうか。

例えば、衆議院は解散されるものですが、衆議院解散の際に大規模な災害などがあり、立法が必要なとき、内閣は参議院を招集することが出来ます。これが国会法に定められた「緊急招集」です。

国会法第九十九条
内閣が参議院の緊急集会を求めるには、内閣総理大臣から、集会の期日を定め、案件を示して、参議院議長にこれを請求しなければならない。

また、議会が複数に分かれていることで、多元的な意見を確保し、様々な有権者の民意を反映できるという主張もあります。

実際に、参議院の憲法調査会ではこのような意見がありました(*2)。

三年ごとに国民の意思を問うことが強制される参議院と、時々の政治的状況の中で解散をし、その時々の民意を確認する機能を持つ衆議院という二つの性格の違う院を持つことは、重要な意味を持つ
簗瀬進参議院議員
国会には(1) スピード感のある民意の集約・合意の形成と(2) 多様な民意の反映が求められるが、一院制では両者の充足は不可能であり、二院制により二つの機能を分担し、補完し合うことが必要
山口那津男参議院議員

二院制のデメリット

他方、2つの院を通すことで、時間はかかりますし、直近の選挙による民意が反映されなくなる、という危険性があります。

この点について、1953年に二院制から一院制に移行したデンマークの日本大使館は、このように語っています。(*3)

二院制には、「多角的な民意の反映」や「議会の多数派による専制の阻止」といった意義があるとされますが、他方で、「法律の改革の迅速性」を犠牲にするデメリットもあります。
この点、デンマークでは、一院制への移行に際し、選挙に比例代表制を採用することによって「多角的な民意の反映」を、議会運営における少数派の保護・配慮によって「議会の多数派による専制の阻止」をそれぞれ担保することにしました。つまり比例代表制によって、死票が生じることがなく、「多角的な民意の反映」が実現されていることや、少数政党にも議案の審議を慎重に行うように求める権限が憲法上認められていることで、「議会の多数派による専制の阻止」につながっていることが、デンマークの国会の特徴であるといえます。

確かに、多元的な意見を確保するのであれば、議会が多元的である必要があるのであって、別に2つの院が分かれている必要はありません。

このような観点から見れば、自国にとってベストな選挙制度を一つ確保することが重要であり、それが複数であるかどうかが民意の反映に関係するわけではない、という意見にも頷けるものがあります。

参議院のこれから

参議院の選挙制度に課題がないわけではありませんが、「多様な民意を反映する」という意味で、衆議院の小選挙区比例代表並立制にはない独自の機能を発揮してきたことも事実です。

例えば、

・初めて同性愛者を公表した国会議員(尾辻かな子議員)
・車椅子の国会議員(八代英太議員)
・筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の国会議員(船後康彦議員)
・アイヌの国会議員(萱野茂議員)
・ヨーロッパ出身で帰化した国会議員(ツルネン・マルテイ議員)

などは参議院で初当選しました。

また、戦後の殆どの時期で参議院の女性比率は、衆議院の女性比率よりも高く、これは、広い選挙区と比例区(全国区)の存在から、よりトップダウンの人選がしやすいという点が挙げられるでしょう。


一院制、二院制それぞれにメリットはありますが、これらの利点と欠点を充分に把握した上での議論が必要です。

脚注

*1 http://archive.ipu.org/parline-e/ParliamentsStructure.asp?REGION=All&LANG=ENG

*2 https://www.kenpoushinsa.sangiin.go.jp/kenpou/houkokusyo/hatugen/01_08_01_01.html

*3 https://www.facebook.com/EmbassyDenmark/photos/947781041925086/



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