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「議院内閣制」と「大統領制」は、どう違うの? #25歳からの国会

議院内閣制は、議会の多数派に多くの権限を集中し、立法府と行政府との融合によって内閣総理大臣という明確な権力中枢をつくって、権力と責任を一体化する仕組みであり、本来、内閣総理大臣のリーダーシップが発揮できるようなシステムのはずであります。

このように、議院内閣制に本来的に内在している内閣総理大臣のリーダーシップを健全に発揮するためには、次に述べるような幾つかの改革が必要であると考えております。

まず第一には、やや反省も込めてでありますが、政府・与党の意思決定システムを一元化すべきであるということであります。
第二に、内閣総理大臣のリーダーシップが十分に発揮されるためには、国民の広範な支持が不可欠であります。
さらに、第三番目に、内閣総理大臣のリーダーシップを阻害する要因としての参議院の権限のあり方を見直す必要があります。

永岡洋治衆院議員(一部抜粋)
平成17年2月10日 第162回国会 衆議院憲法調査会

大統領制のほうが強い?

冒頭、当時自由民主党の衆院議員だった永岡洋治氏の憲法調査会での発言を紹介しました。

非常に多い誤解に「日本も大統領制にすればより迅速に物事が決まるようになる」というようなものがあります。しかし、冒頭発言を見れば、議院内閣制の方が、基本的には強い権限を持っていることがわかるはずです。


議院内閣制においては、立法府の多数が首相を選ぶことができます。立法府と行政府が一体化することで、政府は自らに都合の良い法律を通しやすくなります。

他方、アメリカのように厳格に立法と行政が分かれているケースでは、行政府が民主党の大統領でも立法府の多数が共和党、というケースも珍しくなく、行政府の権力はそれだけ制限されています。

つまり、イギリスの首相とアメリカの大統領でいえば、制度上はイギリスの首相のほうが、はるかに迅速に意思決定出来る権能を持っているのです。

特に、イギリスは歴史的経緯、公選でないことなどからも上院の権能が弱く、慣習的にも下院を尊重するため、下院の多数政党の権能は大きいものになります。

なぜ大統領制が「強く」見えるのか

大統領制が強力なリーダーシップを担保する、と言われるのは、個人としての国家元首が選挙によって個人として選ばれることで、世論からの後押しを受けることも理由の一つです。

例えば、フランスでは戦後、議会中心での統治形態が取られていましたが、シャルル・ド・ゴールは憲法改正を行うことで、公選の大統領に権限を集約し、議会の力を抑制しました(*1)。


他方、ドイツやイタリアなど、議会中心であり行政の長が首相、大統領はあくまで儀礼的な役割にとどまる国もあります。

ただし、議会中心であると言っても、ドイツのアンゲラ・メルケル首相など、極めて長期の政権を築き、強いリーダーシップを発揮するケースも少なくありません。

また、安倍晋三首相も与党の強い基盤を背景に7年8ヶ月の長期政権を築くなど、党内が一致していれば充分に強いリーダーシップを発揮することは可能です。

政党の強さ

議院内閣制において首相が強大な権限を持つのは、単に立法府と行政府が、政府与党として一体化しているからではありません。むしろ、その権力の源泉は「党」にあります。

政府与党のトップも総理大臣であり、内閣のトップも総理大臣です。これが、議院内閣制における政党の強さです。


朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)における朝鮮労働党、ソビエト社会主義共和国連邦におけるソビエト連邦共産党など、基本法において明確に支配政党が定義されているケースも有ります。

これらの社会主義国家においては、政府よりも党のほうが上位にあります(例えば、北朝鮮には政務院総理という行政の長たる役職が置かれていますが、権限は明確に党の主席のほうが上です)。

日本国憲法において、国会議員は、政党ではなく国民全体の代表者であることを求められます。

第四十三条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

女王陛下の野党

ただし、議院内閣制は、本質的に行政府と立法府の分権が不十分な仕組みです。立法府の多数が首相を指名するため、行政府と立法府を同一の政党がリードすることになるからです。
ですので、議院内閣制の祖であるイギリスでは、野党第一党には「女王陛下の野党(her majesty's loyal opposition)」として、議会の監視機能を果たすために特別な権限が与えられています。

 野党第一党が政権交代を前提にして組む擬似的内閣は、影の内閣(シャドーキャビネット)、つまり「政権交代の際にはこのようなメンバーで内閣を形成します」という意思表示として、下院の公式サイトにも掲載されています 。
日本でも「ネクスト・キャビネット」として、野党が擬似的な内閣を組むことはありますが、イギリスの「影の内閣」は公職として予算が計上され、公費で助成されます。

一方、日本では、野党に対する質問時間などの優遇は、法的なものではなく慣習的に決められることが多いのが実情です。2018年には与党が質問時間を「5対5」にするよう求めた、という報道もありました が、これは議院内閣制の趣旨を履き違えたものです。
議院内閣制において、立法府の監視機能を果たせるのは野党です。議院内閣制を長く続けている国家は、制度的に分立していない立法府と行政府を、慣習的に分権する仕組みを持っています。日本の国会もそのような監修を持っている、ということを心に留めておいてください。

脚注

*1 https://business.nikkei.com/atcl/report/15/120100058/102400008/?P=2&mds

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