assezは「十分に」?【フランス語の方へ:2】

辞書を引くと、副詞assezについては「十分に」という訳語が載せられていることが多く、これはこれでよいのですが、基本語であるだけに、簡潔な訳語だけではやはりうまく理解できないという場面が多くあります。

「十分に」とは言っても、「十分」とはどういうことでしょうか。「めちゃくちゃ」「とても」ということでしょうか。そうではありません。同じく程度を修飾するtrès「とても」とはもちろん違うことがあります。

もちろん、assezを「とても」と訳して良いかもしれない場面もあり、そうした訳語も掲載されることが多いでしょう。

しかし便宜的には、そのように単純に程度を強める機能のほかに、もうひとつassezのおおまかな意味がありうるということを想定しておくと、読むときにあたふたせずに済むことがあるのではないかなと思われます。


たとえばある対象を評価するために形容詞を用いるときには、もちろんドンピシャリのひとつの事態・ひとつの程度のみが想定されうることもあれば、一定のふわっとした範囲が想定されることもあるわけです。

「良い(bon)」と言われたら、「ふつうくらいに良い」場合もあれば、「とても
良い」こともあり、また「予想を超えて良い」こともあります。そして、「ぎりぎり良いと言えるだけの基準を満たしている」と言えることもあります。

さて、日本語の「十分に良い」という表現は、このうちのどれを指すのでしょうか。

もちろん「とても良い」ことを指すこともあれば、「ぎりぎり良いと言えるだけの基準を満たしている」という場合もあります。

そして、assezという副詞は、このどちらでも用いられますが、特に後者のケースがある、ということを知っておくことが、解釈において決定的に重要になってくる、と考えられます。


たとえばフランスの大学の成績評価はふつう20段階で行われますが、その段階は概ね次のとおりです(ふつう10点以上で合格)。

0-9 : défaillant
10-11 : passable
12-13 : assez bien
14-15 : bien
16-20 : très bien

もちろん場所によっても差はあって、18以上をexceptionnelとしたり、(まあまず出ませんが)20をperfection, parfaitと言ったりもするようです。あるいは0-9をもっと分けるところもありますし、14-16をbien、17-19をtrès bienとするケースもあります。

とまれ、今提示したものに従うと、12-13のassez bienは、点数としてはbienとされる14-15より低いわけですが、assezがつくわけです。

assez bienは、もちろん「十分よくできました」などと訳してみることはできるにせよ、どういう意味で「十分」なのかをもっとくどく書いてみるなら、「最低限の基準を超える程度には『よくできました』と言ってもよい」ということになるわけですね。

言い換えれば、assezという語で意味されているのは、bienと言われるだけの最低限度には達している(がドンピシャでbienと言えるほど「良く」はない)、ということです。

別のかたちで説明すると、額面上の評価とは別に、bien(「よくできました」)と言いうる範囲は広くとれば12-20であり、そのなかで段階をつけようと思うとき、最も下に位置する12-13にはassezという副詞をつけて表現しうる、ということです。そして、ふつうのbienが置かれ、さらにそのには、trèsをつけた「たいへんよくできました」が置かれるというなりゆきです。

ふにゃっと説明するなら、assez bienは「ギリギリbien」だということです。満足行く、という意味での『十分」さは、少なくともここでは表していないということです。


私の体験として、かつてはじめて留学していたときのことですが、先生に質問しに行ったときにも、assezという副詞を聞く機会がありました。

そのときは哲学科にいたのですが、そのとき、まさにassezという表現でもって、「最低限度は満たしている」という意味での十分さを表現されたことがあります。

質問に答えてくれた先生から、

Votre français est assez bon, mais malheureusement n’échappe pas à un peu d’erreurs au niveau de la grammaire...Je vous conseille à prendre un cours de français destiné aux étudiants étrangers...

と言われたのですね(引用はママではありません。はっきりとは覚えていません)。

単にbonであれば褒め言葉になるところ、assez bonであれば、そもそもbonという語で説明される良さが最低限度のものでしかない、ということが暗に示されるわけで、後続のmais以下の内容、つまり「フランス語の授業もとったら?」という内容を無理なく導くことができるというわけですね。

要するに、「お前のフランス語は理解できるくらいには良い(bon)し、その意味では良いと言うだけの最低限の基準は満たしている。しかし手放しに良いと言えるほど良くはない。その程度だ。だからもっとフランス語を勉強したまえ」ということだったわけです。もちろん、assezつきではあってもbonと言っているぶん、社交辞令として褒めてくれてはいたのですが。

■【まとめ】
・assezは、最低限度を超えている、という意味での「十分」さを表しうる副詞である。