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錦江町の歴史を追う−田代盤山入植

『広報きんこう』 2020年12月号を読む

活動柄、広報誌や町の歴史書をよく読む。資料を読んでいると錦江町には歴史的に移住者が多いことに気づいた。桜島の噴火、島津家の政策や落人…。事情は様々だが、錦江町(旧大根占町・田代町)は移住地としてよく選ばれる地だったようだ。

錦江町の文化のルーツを探ろうと田代町史に目を通していたら、鹿児島県の最南にある与論島から田代地区へ開墾・入植を経験した方が多数いることがわかった。
田代町は大原地区、盤山(ばんざん)自治会。

大原は平家の落人が移り住んだとされる場所で、昔から林業、木材運搬、炭焼きが盛んだった。原生林(現在の照葉樹の森)に近い盤山は鬱蒼とした場所だったので人が居住することなく、大根占までの木材運搬に通る程度の場所だった。そんなところに開墾、居住…。
 
ちょうど町民Tさんに勧められたこともあって昨年12月の『広報きんこう』・特集「後世に継ぐ開拓魂」を読んだ。そこにあったのは、75年前、与論を故郷とする人々が盤山でゼロから生活の立て直しを図った壮絶な記録である。Tさんはこの特集を読んで涙を流したと言う。


この記事では、『広報きんこう』での特集と調査資料をもとに、

・与論島から田代地区への入植
・現在の田代地区について

書こうと思う。

今回は入植の歴史を辿る。(長くなるので分割して投稿します。)


与論島から田代へ入植

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拓魂の碑。失った仲間を弔うために建てられた。


戦時下、与論島は少ない資源と農村地域の人口過密対策として移住を計画。
昭和15年、国から土地・渡航費保障の下、食糧増産のために第13次開拓団として与論から極寒・未墾の満洲盤山(ばんざん)へ渡る。多い時で計635人の移住者が生活していた。
しかし満洲の移民受け入れ体制はあまりにずさんなものだった。家、食料もなく、衣服や飲み水まで不自由な状況。病死人が相次ぐ。
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満洲移住から2年ほどで日本の敗戦を迎える。同時に、ソ連からの侵攻に備えて開拓団幹部が徴兵されていた状況下、現地住民から襲撃・略奪を受けるなどした。日本への引き揚げまでに自決や栄養失調などで多くの団員を失う。
故郷の与論はアメリカ統治下にあったこと、家族の反対を押し切って出てきた者も多かったことから帰島できず。
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昭和21年6月、満洲から鹿児島へ引き揚げ。市内にある引揚者用の収容所に入る。本土で開拓をやり直すため、鹿児島各地を視察。
水と薪が豊富な田代町に入植地を決定し、大原集落より開墾作業を始める。暮らしは最低限。軍用テントを仮寝の宿に、料理鍋の代わりは空き缶といった生活を送る。満洲の開拓地に由来し集落地名を「盤山」に決定。
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近くの小川を利用して自家発電を始め、農村工業の取り入れる。
過酷な開墾作業や2度の台風被害の影響が大きく、心を挫かれそうになるも、お茶栽培に踏み切ったところ全国で高い評価を受ける。町全体への茶栽培動機付けになるとともに、銘茶の生産地になった。お茶栽培と養豚を中心とした生活が安定し始める。
昭和46年、田代町と与論町の姉妹町盟約を結ぶ。



調査の感想


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盤山の茶畑。茶摘みの時期は夏で終わり、手入れされている。



戦争とは、武器を持って命を奪い合うことだけを指すのではないと思う。命の危険が目前に迫る日々が続く限り誰かの中で戦争は続いている。例えば、食糧不足が原因の栄養失調、家もないから安静にできず治らない病。
物質的な問題だけではない。家族や友人の死、敗戦の事実、略奪などから受ける心の傷は計り知れないほど大きい。その記憶はきっと永遠に残る。
それに加えて、疎開先から生き残り、どのように海を越え、どんな生活を始めるか、しかもゼロから。その間、国が生活の安全を保証してくれるわけでもない。開墾しても本当に安心して生活を送れるかわからない。今では考えられない苦境の中、たくさんの不安を抱えて、それでも明日を生きるため、家族を守るため、与論の人々は木を伐り根を掘り起こした。人々のひたむきな力強さに胸を打たれる。


悲しい過去も錦江町の昨日をつくる確かな一部です。入植者の方々が盤山で生活再建を諦めなかったから、私たちが暮らしてゆけるのです。
盤山の方々が持っている悲しくも力強い記録がいまの錦江町をつくっています。町民さんからいつも感じる助け合いの精神や優しさ。それらは想像を絶する辛い経験に由来することもあるのですね。
入植を経験した方々が残してくれた歴史感覚を忘れずに、大切にしてゆきたいです。



参考
・『広報きんこう』特集「与論町との姉妹盟約から半世紀 後世に継ぐ開拓魂」錦江町
・『与論島移住史 ユンヌの砂』福石忍・書、南日本新聞社・編、南方新社 
https://washimo-web.jp/Report/Mag-KinkouYoron.htm

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