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手紙

わたしの毎日は、手紙を書いているようなものなんだな、とふと思った。

「渋谷の東急プラザが開店したね。建て替える前は、数えきれないほど毎日待ち合わせをしたね」って、出さない手紙を胸のなかでテキストにしている。

「わたしの方が近かったから、いつも待っていたのはわたしだったけど、JRに電車が到着して駅からどっと人が降りてきてさ、あなたがこちら側に来るまで2回横断歩道を渡る必要があったでしょう。駅から人の波が押し寄せてくるたびに、横断歩道に姿を探しては “ずっと来なければいいのに” って思ってたんだよ。知らなかったでしょう?」と続く。

「待ち合わせが完了したらまたお別れする時間がくるから、それならずっとこの待っている時間のまま止まればいいのにって思ってたんだよ」。

横断歩道の信号機が青になった。青を知らせる音声が鳴る。ざっざっざ、と人が歩くのに遅れないようにわたしも歩く。涼しい顔して。いっぱしの大人の顔をつくれていますようにと祈りながら。

何を目にしても、あの人に報告したいことばかりなので、出さない手紙が胸の内にたまっていくばかりだ。

photo by loop_oh

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