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セルペンティが絡みつく

待ち合わせに指定された銀座の風月堂は、かつて好んでよく一人で訪れたところだった。あるいは、仕事の打ち合わせにも最適だったのでひところはしばしば利用していたが、職場が銀座と無関係なエリアになるとやはり自然と足が遠のいた。銀座にしげく通った頃、仕事上で極めてつらい時期であったのだが街自体の存在感と陽の気は、そんなことを思い出させる隙も与えないほど華やぎにあふれている。

丸の内にも青山にも、かようなハイブランドが軒を連ねたショッピングエリアはあるのだが、銀座には銀座だけにしかない空気感がある。ビルとビルの合間からのぞく空が実にうまく採光を考えられていて、どの時間帯でもどの季節でも不思議なさわやかさに満ちている。

銀座の風月堂を好んで利用するのは概ねかなり大人の世代なのだが、わたしは若い頃からそうした少し等身大以上の世代が好むものを愛した。窓際の席に偶然案内されると胸が高鳴るのがわかる。なぜなら銀座の街の空気感を一望にできるからだ。

この不思議な色。さまざまな「欲」を刺激する街でありながらも、抜群の透明感を保てる秘訣がいつかわかるのだろうか。

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