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水曜の夜の熱狂
水曜日とは、言わずもがなの「週の真ん中」であり折り返し地点だ。だからこそ水曜日の終業時というのは尊い。悲喜こもごもの感情を濃い疲労ににじませて、わたしたちは家路をたどる。けれどその手前に、気の置けない友と腹いっぱいに食欲を満たそうではないか。喰らうことに没頭していると、悔しさも悲しみも陽のイオンに変化して、あたたかい蒸気にとけていく。
できれば横並びの、そう、カウンター席などがいい。正面に顔があると気遣ってしまうから、もうそのときばかりは自分の視界すら和らげていくものを。たとえばオープンキッチンの、勢いよくのぼる火柱やまな板をたたく小気味の良いリズムに目をやれば、おのず食欲にだけひたむきに興味を預けることができよう。
酒は自由に飲むがいい。日ごろは飲みたくなくてもつきあいとしてやむなく飲む者は、最後までウーロン茶でいたってかまわないし、ビールやハイボールもやればいい。ここでやるべきことはただひとつ、供された皿を喰い尽くすことのみ。熱いものは熱いうちに、軽く舌を焼くのは覚悟のうえだ。思わずと目の端ににじむ涙も、口福のうちに忘れよう。
「旨いな」
「いやあ、つかれたな」
「よくやったな」
ひとり言でいい。口にしたっていいし、無言でだっていい。頭のよいふりをした会話なんて責任ある立場なんて、この際忘れてしまおう。旨さを味わうということの前には、どんな崇高なものなどありやしないのだ、とせめて今だけは夢中になろう。2人だって3人だって、横並びの奴等と同じ皿の飯をかっこめば、言葉にしなくたってわかる。もうそれでいい。
満腹になって外へ出れば、そこにいつもどおりの日常が待ってはいるが、それでも「水曜日を乗り切った旨い飯」のパワーはつづく。木曜、金曜と腹の芯で確かに支柱となるべき何かが育っているから。
photoby Eva Rinaldi Celebrity and Live Music Photographer
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