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古いコート考

このうえなくラフに、おおざっぱに取り急ぎひっつかんで羽織りました、という体の古いコートを好んでよく着用していることに気がついた。目を凝らせば袖元の傷んだ生地などハッキリしているので、本当ならこれはもう「ワンマイルウェア」としてご近所コンビニ用などに格下げしていいレベルだろう。

加えて、一昨年結構値段の張る一枚仕立てのコートを新調した。濃紺とチョコレートカラーによるダブルフェイスで、昨年いっぱい濃紺を着たおしたら、今年はチョコレート色の気分なので効率もよく気に入っている。何より仕立ての良さから、羽織るとすこぶる格上げしてくれる一着なので珍しく手入れなども丁寧に施したりして、長く愛用しようと思っている。

それにも関わらず、割とひんぱんに例の古いコートをひっかけているのだ。時折、バスに乗ったときなど、自分の手元ばかり視界を占めているようなときに、この手元の生地の傷みが気になってしまい「もうあんまり着ない方がいいのかも…」なんて思うのだが一向に出番は減らない。年を取ると洋服は、断然に生地の上質さや縫製の構築的なことが、デザイン以上に素敵に見せる条件になるのだが、そういう意味で不思議としかいいようがない。

そんなときふと思い出すのが、昔とても流行した某ドラマで若手刑事役の男性主人公が、何年も着古したコートを着ていてみんなにからかわれるのだが、彼は彼なりの理由というか美学でもってそれを好んでいる主張をしていた。わたしにはそんな主張はないというのに。

けれどたぶん、難しい話ではなくて、着心地がいいんですね、きっと。

というところに帰結するしかないのだけど、「いや、本当にそうかしら」と疑ってみたくなるわたしなのだ。

photo by payalnic

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