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【 Unreceived ○ × ○ × 】

以下のテキストは2016年にR-9=サン(@epxstudio_nj )が主宰されたユンコアンソロ【PATCHWORK】に寄稿したものです。調子のよくないパソコンから、何とかしてサルベージできたので、記念に載せておきます。

【 Unreceived ○ × ○ × 】 

『とうさんえ おしごとがんばつてね いつかえつてきますか ゆんこ』
 
『とうさんへ にゅうがくしきはとうさんにもおいわいしてほしかったです。すてきなおようふくおみてほしかったです。 ゆんこ』

『とうさんクリスマスおめでとう。かあさんがなんかつつんでいます。きっとクリスマスプレゼントです。かあさんのぶん、ユンコのぶん、とうさんのぶんもあるよ。わたしもとうさんのプレゼントよういしました。かえってきてからあけてみてね ユンコ』

『あけましておめでとございます。とうさん、もうオショガツです。クリスマスのプレゼントもうおそいけど、あけてみてください。そしてとうさんとかあさんと3人でジンジャ・カテドラルにいきましょう。 ユンコ』

『父さんはオーボンいそがしいですか。おうちで理科や算数はおしえてくれませんか。学校の休みがおわるまではあたしはいつでもおうちにいます。母さんもまっています。 ユンコ』

『月よう日までに学校のかだいでさくぶんしないといけません。休みのあいだのおもいでをかかなきゃ。でも、どこにも行っていない。かくことがありません。父さんと母さんとでおかやまけんに行ったことにしていいよね。IRCでしらべたら、どんなところかわかるし。かけたら、かだいはぜんぶおわりです。 ユンコ』

『ごめんなさい。うそはかきません。わたしはうそつきじゃないです。父さんがあんなにおこるなんておもわなかった。ごめんなさい。ちゃんとあったことをかきます。ずっと電車をみていたので、電車のことをかきます。 ユンコ』

『今日は母さんがダイフク・クロカンブッシュを作ったの。私のたん生日だからね。ずっとほしかった新幹線の模型を買ってもらいました。レールもついてる。カワイイ。父さん、わすれてたでしょう? 今日がわたしのたん生日だってこと。今日中に帰ってこれますか。パーティーの写真もとったから、見てね。できたてのクロカンブッシュとか、オスシとか。ともだちの写真がなくてごめんね。父さんもわたしにおいわい言ってくれる? ユンコ』

『ねえ、父さん。ワガママ言っちゃってごめんね。プレゼントなんかいらない。おいわいなんてしなくていい。会わなくてもいいよ。IRCでいいから「やあ、ユンコ」って言ってほしい。だめかな? ユンコ』

 ♦ ♦ ♦

『うちは母さんと私だけで暮らしてるみたい。父さんがいないうちみたい。父さん、私、今日からミドルハイ学生だよ。よその家は家族でお祝いしたりするのに。施設の子だって、プリンシパル・センセイとパーティーするって、言っているのに。
母さんは、今日は帰りがおそいって。うちに居るのは、新幹線とレールとキハとホキだけです。このこたちとキツネ・アンド・ロール・コンボ・スシでお祝いします。 ユンコ』

『違う。違う! 施設でくらす子をバカになんかしてない! バカにしたのは父さんの方だ。私だって家族にお祝いしてほしかったのに。お祝いしてくれれば、オモチャといっしょにオスシ食べることもなかったのに。どうして「おめでとう」って言ってくれないの? 書いてくれないの? 父さん、私のこと嫌い? 身勝手なこどもだと思ってるの? ジャマなこどもだと思ってるの?』

 『この前は怒っちゃってごめんね。遅れてもお祝いされると嬉しいです。ありがとう。
今週、学校でレポートをほめられたの。それで連絡したかったの。学校で社会科見学に行って、そこはオムラの工場で、課題がレポートだった。モーター理論のくだりが素晴らしいって、センセイが「遥かに良い」のハンコを捺してくれました。父さんに見てもらいたかった。母さんにはナイショ。コッソリな。最近、母さんに父さんのことを話すと、なんだかアトモスフィアがこわい。父さんの悪口なんて言ってない。私も、母さんも。なのにナンデ? ねえ父さん、母さんのこと好き? ユンコ』

『全然会えない父さんへ
父さんと母さんが結婚したのは恋したから? それとも、オミアイ? 私、それすら知らない。母さんにもきけない。母さんは父さんのこと、好きみたいだけど。なんか。母さんいっつも、「ユンコ、父さんいなくて淋しくない?」って聞く。私の父さんはちゃんといるのに。きっと母さんが淋しいんだ。私は平気。学校もちゃんと行ってる。楽しいよ。理科とか。数学とか。この学校にはヨタモノもいないしね。だから、私は大丈夫。でも母さんのこと、嫌いじゃなかったら、会ってあげられない? 父さん。 ユンコ』

『ねえ、父さん、ひょっとして、ひょっとしてだよ、間違ってたら、ごめんね。父さんは、家族なんかいらないって、思ってる? もし思ってないなら、父さん自身で証明してほしい。私には証明できない。これは悪魔の証明だ。私、家族を大事にしない父さんなら、たくさん証明できる。けど、こんな証明したくない。
ねえお願い。母さんと話をして。昨日、泣いてたじゃない。電話でもわかるでしょ。大人が泣くの、初めて見た。ナキオトシ・タクティクス使う人のこと、ちょっと、いや、だいぶ涼しくないと、思うけど……。きっと大事な話だよ。お願い。私には会わなくてもいいから。 ユンコ』

『バカ! バーカ! バカハドッチダー! もういい。よくわかった。父さんは、母さんのことを全然大事に思ってないってことが、よぉくわかりました。今までみたいに、私が泣いても、助けてくれないってことも。もうどうでもいいよ。助けが必要なほど子供じゃないし。私はこれから、このオムラの社宅で独りで生きてくから。じゃあね。 ユンコ』

『もうずっと返事をしてなかったけど、ゴメンナサイはしません。これはただの近況報告でしかないから。試験勉強は順調にやってます。センセイも私の成績なら大丈夫だって。塾もちゃんと行ってる。模試の結果を添付しておくね。だから父さんは安心してソクシンブツ・オフィスで働いてればいい。父さんはそこにいるんでしょう。IRCで見た。私はちゃんと生きています。確認できたから、もういいよね。じゃあね。 ユンコ』

 ♦ ♦ ♦

『父さんへ 父さんから進んでお祝いされるなんて、なんだか久しぶり。もしかして、初めてかも。貰ったペンダント、大事にするね。父さん、あの時、私になんて言ってほしかった? 想定外なんて心外。私が父さんのことをあんまり知らないみたいに、父さんも私のことをよく知らないよね。しょうがないか。またいつもみたいに、仕事ガンバッテ。じゃあね。 ユンコ』

『父さんへ 私は元気。学校で友達もできたし。毎日楽しく暮らしてる。ちょっと、見た目が変わったかもしれないけど。もし会ってもわかんないかも。そうなっちゃったら、困るから、今の私の画像も一緒に送るよ。髪の毛がカワイイな色になってるから、次に会った時はすぐにわかると思う。 ユンコ』

『一生のお願い! 父さん! もし叶えてくれたら何でもする。私に出来る事なら。眼をサイバネにしたいんだけど、いいかな? いいよね。父さんのために説明すると、私は今、サイバーゴスっていうスタイルなんだけど(父さんも見たよね?)、サイバネ・アイでオッド・アイになったら、ファッキン・クールだと思うでしょ? LAN端子は仕送りで開けられたけど、サイバネ手術となると、お金がないの。ハイスクールに入った時に貰ったヤツ、使ってもいいでしょ。ね。お願い。 ユンコ』

『あの、汚い言葉、使っちゃってごめんね。友達が悪いんじゃないから。もう父さんには使わないから。あと、生体LAN端子のことも、黙っててごめんね。連絡しなきゃいけないなんて思わなかった。今度から、ちゃんとする。ごめんね。
 手術を許してくれてありがとう! ちゃんとオムラ・ケイレツ・ホスピタルで手術するから! サイバネ・アイはカタログ・パーツじゃなくてオーダーメイドにするの! ほら! ちゃんと連絡できた! オムラ・インダストリのは、フ、ファンタスティック・クールだけど、そんなにカワイイじゃないし。私、ネコネコカワイイ、キライだから、オムラ・メディテックのは、つけたくないし。
 大丈夫! ちゃんと学校に行って、手術は長期休みの時にするから。ああ、今からとても楽しみ! ユンコ』

『父さんへ 今年の誕生日は父さんに祝ってもらえなくても大丈夫。友達がパーティー開いてくれるから、私、家にいないし。これは私のサイバネ・オヒロメ・パーティーも兼ねてる。父さん、友達に祝ってもらえるって、すごく嬉しいんだね。私、今まで知らなかった。 ユンコ』

『ネオサイタマが大変なことになっちゃったけど、私は無事。サイバーゴスクラブに居たから平気。きちんと塾が終わってから行った。サボタージュしてない。クリスマスだよ? マルノウチ・スゴイタカイ・ビルなんか、子供が大人に連れて行ってもらうものでしょう? 私、もう子供じゃないし、あんなところ趣味じゃないし、近寄ったことも無いよ。父さんから連絡してきたんだから、父さんだって無事でしょ? じゃあ何の問題もないね。 ユンコ』

『センタ試験会場で、親からオマモリ・タリスマンを貰ってる子を見てたら、ちょっと機能停止しかけてたけど、私にはそんなものいらなかった。ちゃんと合格できたよ。卒業式も入学式も父さんが忙しいなら来なくていい。お祝いなら自分でできるし、サイバーゴスの友達もきっとなんかしてくれる。それに、これはただのメンテナンス。私が、父さんのこと、ちゃんとデコードできてるかっていう。だから、気にしないで。 ユンコ』

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『僕の愛する娘、ユンコへ
  僕はこんなに居心地の悪そうなカンオケは見たことがない。ユンコの部屋にあるのとは大違いだ。どうしてこんなところにユンコを納めなきゃいけないんだろう。どうしてこんなソマツなカンオケで君は眠らなきゃいけないんだろう。こんなにカワイイな服を着ているのに。こんなにカワイイなサイバネ・アイなのに。とてもステキなヘアスタイルなのに。あの日、ロウドウ駅で僕の話を聞いてくれたのに。
こんなに、こんなに、僕にメッセージを残してくれたのに。ああ、オリガミ・メールがある。本物の手紙がある。IRCメッセージがこんなにある。どうして気づかなかったんだろう。どうして気づけなかったんだろう。

 ユンコ、僕の最愛の娘。君を死なせてなるものか。ユンコ、もう一度会おう。ユンコ、もう一度話そう。君が一度死ぬまでにはできなかったけれど、一緒に勉強したり、クリスマスを祝ったり、しよう。
また会える日を、楽しみにしているよ。 駄目な父親だったトコロ・スズキより』

【アンレシーブド・キス・アンド・ハグ おしまい】