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猫日記 No.1 [命のこと]

小説も書けそうになく、仕事もろくに来なくなり、もうただただ毎日が猫猫猫なので。このまま、ここで猫日記のようなものを始めることにしようかと思う。


猫と暮らし始めてから、シンプルに命というものを身近に感じるようになった。

眠る猫のすぴんすぴんと鳴る鼻息、眠たい子どもの掌そっくりな熱い肉球に安心しきった寝顔。あたたかく信じられないほど柔らかな体。彼には、犬や人にはない、とろんとした甘い柔らかさがある。俊敏に跳んだかと思ったら、走っている途中でおもちゃにつまづいて、すてんと転ぶおドジ具合。窓辺に来た虫を追う、澄み切った泉に似た美しい瞳。

彼を見ていると、今を生きているなあ、ひとつの命が生きていてきらきらと輝いていると思う。

不幸や痛いこと、悲しいことなど、彼には一瞬も感じて欲しくない。家の外を一歩出たら怖いものや危険なものがたくさんあって。さらに日本という国を出たら、人が武器を手に殺し合っている世界があるなんてことを知らずにいて欲しい。

彼には、ひたすらにお腹も心も満ち、常に幸福でいて欲しいと思っている。

彼が来てしばらく、そんなことを思うようになったのだけど。さらに日々が過ぎて、最近では他の猫の命のこと、そこらの他人以上に興味が薄かった自分自身の命のことまで、考えるようになった。

何度もここでも書いているように、私は血の繋がった家族から愛情をもらえなかった人間で。夫と出会ってから、そういう足りなかった部分を一から教えられ、本来、親が子にあげるようなものをなにもかも与えてもらった。

それでも、そこまでしてもらった後でも、どうしても埋められない部分が心の中にあって。そこはもう、どす黒い闇になったまま、光など差さないもの、救いようがない場所と思って生きていた。

けれど、猫が来てから、そんな暗い場所に、一筋、糸一本ほどのほんの細い細いものながら、白い光が差すような感覚がある。もしくは、固く冷たかったその場所そのものが、少しだけ軟化したような感じがすることがある。

私は、こんなにも彼を幸せにしてあげたいと思うのに、ふと気づくと私の方が、あたたかいなにかを受け取っている。そして、私は多分、そうして彼にもらったもののお陰で、毎日少しずつ良い方向へ変わっているのだと思う。


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