実在OL日記

架空OL日記が大好きだ。
Huluで繰り返し観ていたけれど、最近Netflixでも映画版とドラマ版が同時公開され、さらに黒い十人の女と殺意の道程も同時に公開され、Netflixは空前のバカリズム祭りになっている。嬉しい。

バカリズムが誇張せず淡々と普通のOLを演じているところに最初は目が行きがちだけれど、1話の途中から女性だと脳が勝手に認識し始める。男性がOLを演じている面白さじゃなくて、わかる~あるある~そうだよね~の共感の連続で、男性社会で生きる、日の目を浴びない女性達の職場での振る舞い、先輩後輩との人間関係、日常の些細な苛立ち、女性同士のお喋りがどれだけ楽しいかを、細かな脚本設定と個性際立つ登場人物で伝えてくれる。

 私が好きなシーンは、紗英ちゃんがチーズハンバーグを食べれずに揚げ出し豆腐が弱いと言いながらご飯をかきこむシーンとか、酒木さんがマツモトキヨシをついに略してマツキヨデビューを果たせたシーンとか、お昼休憩に歯磨きしながらお喋りして何言っているかわかんないシーンだ。ありふれたシーンが可笑しくて仕方ない。


私は先輩後輩から「紗英ちゃんっぽい」と言われた。けれど先輩に天こな跡をつけるほど漫画を会社に持って行ったことはないし、半身浴を全身浴と間違えたこともないので、自分では認めたくないものの、これまで散々いじられながら色々なことを教わってきたので、このドラマを見ると先輩とのどうでもいいお喋りが本当に楽しくて、かけがえのない時間だったと懐かしい気持ちで一杯になる。
今どんなお喋りをしたか思い出そうとしたけれど、何も思い出せなかった。それくらいどうでもいい会話だった。月曜日やる気でないとか、今日からダイエットするとか、ドラマで出てきたような本当どうでも良いことで、でもものすごく楽しかった。


職場の先輩や後輩、そして同期とは、大学時代までに出会った友人とは異なる種類の絆が結ばれる気がする。それは仕事という緊張感のある環境で、お互いに助け、助け合い、そしてほぼ毎日、家族よりも長い時間を過ごす中で、少しづつ強く、固くなっていく絆だ。

女性同士の仲を深めるのに一番最適なのは、「共通の敵」だと思う。このドラマでも「羽田」や「セカシ」、「一基」などの男性上司をネタにしている。男社会で生きる女性の共通の敵が「権力をもったおじさん」であることは、結構多いと思う。

私も例外なく先輩と、権力をもったパワハラ気質な上司の悪口を飽きもせずしていた。うざいと口臭いは確実に言っていた。流石に言いすぎだとも少し思っていたけれど、積もり積もったものがあったので仕方ない。

その先輩とは今でもたまにオンライン飲み会をして、その時の上司の悪口になる。私たちにとっての羽田だ。でも、きっと羽田がこんなにも憎いやつじゃなかったら、私と先輩はここまで仲良くなれなかったとも思うから、最近は控えめにしてあげている。


我ら羽田の一番の事件と言えば、「木綿のハンカチーフ事件」である。私たちのチームでは週に1時間、羽田が主催となりチームのMTGが開かれていた。

そのチームMTGは、業務と直接関係のある打ち合わせではなく、いわば研修のような時間であった。羽田作成のPower Pointでみっちり1時間、説明を受けるのだが、時々質問が飛んできたり、前回までのスライドの内容を覚えてこないと途端に不機嫌になるなどの、いわば無惨のパワハラ会議に近い緊張感があり、嫌な時間だった。

羽田は知的好奇心が旺盛で、自身の趣味をただ発表する回もあった。ハマっているドラマの脚本設定に切り込みを入れたり、言葉の成り立ちについて研究したり。興味がなくても最後に感想を述べさせられるので、「凄いですね~、さすがですね~」と褒め称えて気持ち良くさせるのが毎回恒例となっていた。


ある時、羽田はチームMTGが始まるや否や自分のPCでYoutubeを立ち上げ始め、そして
「これ聴いて」
と言ってある曲を流し始めた。

そう、木綿のハンカチーフである。
私たちは全員、心の中で同じことを思った。 

なにこの時間…

 曲の始めの方で先輩と数秒目が合ってしまい、吹いてしまうのを俯いてひたすらに耐えた。

 約4分間の”絶対に笑ってはいけない時間”が終わり、羽田は一言。

「この曲の凄いところはどこでしょう。」

と一人一人に質問していく。

先輩:「キャッチーなリズムですかね。」
私:「歌詞が繰り返しになっていて耳馴染みが良いですね。」

なんとか絞り出し答えるものの、羽田は

「違う。」

といつものドヤ顔で放ち、羽田特製のPower Pointで解説を始めた。

後にこの出来事は、この後に入った新入社員にまで語りづかれる事件となった。

思い出してみればキリがないけど、今振り返れば本当にくだらなくて楽しい日々だった。私も羽田や先輩、後輩とのどうでもいい出来事を、架空OL日記ならぬ実在OL日記として後世に遺したいものだ。

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