全読書家が震える?話 ~『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』~
やすこさんへ
『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』、私も読みました。話に出てきた美術館の人じゃないけど、ちゃんと見ているつもりで実は見えてなかったってこと、結構あるよね。よく知っているはずのもの(例えばドラえもんとか)も、いざお手本を見ないで描こうとすると、細かいところがどうなってたかわからなくて「あれ?あれ?」って。案外、ぼやっとしか見てなかったんだなって気付くの。
それと同じで、私は本が「読める」って思ってたけど、案外ぼやっとしか読んでなかったわ、と、この本を読んで気付きました。
ライターのかまどさんが、「人生で一度も本を読んだことがない」という友人のみくのしんさんに本を読んでもらって、その読書の様子をリポートしたものがこの本。
一度も本を読んだことがないってどういうこと?って思うよね?少なくとも国語で何か読んだだろうと。でも彼に言わせると国語の文章は「お勉強」であって「読書」ではない。テストのために暗記したことはあっても読んではいないということらしい。
そんなみくのしんさんが初めて太宰の『走れメロス』に挑戦。黙読だと途中でワケがわからなくなるからと音読で、しかも数行ごとに相槌を打ったり突っ込みを入れたりしながら読んでいくの。時間かかる!
だけどその分、味わい方がすごい。『邪知暴虐』という言葉に「かっけー!」と反応したり、登場人物のセリフを声のトーンや表情までしっかり想像して演じてみたり、一文一文の読み方がものすごく丁寧。そして感情移入がすごい。
インドでは声を出して応援しながら映画を観るって聞いたことがあるけど、みくのしんさんは読書でそれをやってる感じ。
自分の事情を隠して妹の結婚を祝うメロスに「めっちゃいいお兄ちゃんだ…」と涙し、メロスが濁流の川を泳ぎ切れば思わず本を置いて拍手し、メロスが諦めかければ泣きながら励まし、日沈ギリギリに処刑場へ疾走するシーンでは夕日に「沈むな!」と叫ぶ。
読むとわかるんだけど、みくのしんさん、めっちゃいい奴なのよ。そして超絶ピュア。あまりに素直に感情表現しながら読んでくれるから、こっちもついその感情に引っ張られて、一緒に泣き笑いしてしまう。
そしてそんなみくのしん流、応援上映方式で読んだ『メロス』は、以前読んだ時より確実に面白かったのでした!終盤の疾走シーンなんて結末を知っているのに一緒にハラハラしてしまって、そんな自分にびっくり。
私、こんなにちゃんと「読んだ」ことあったかな?そもそも本を「読む」ってなんだっけ?と一瞬クラっとしたけど、でもそれ以上に、とっても痛快な読書体験でした。これは全読書家が震えるかも?やすこさんもぜひ一度読んでみて。
それでは、また。
2024年8月31日
かおりより
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