映画レビュー 『7月4日に生まれて』
2020年度「サギタリウス・レビュー 現代社会学部書評大賞」(京都産業大学)
自由部門 特別賞作品
「『7月4日に生まれて』を観て」
守山修平(現代社会学科3年)
作品情報:『7月4日に生まれて』(オリバー・ストーン監督作品、1989年)
今私はベトナムをテーマにして活動に取り組んでいるゼミに所属しており、春学期に学習の一つとしてこの映画を観ました。この映画は、ベトナム戦争を舞台にしています。主人公のロンがアメリカ軍に入隊しベトナム戦争に参加しますが、ベトナム戦争での様々な体験をきっかけに最終的には反戦運動をするようになるという話です。
私が考えるこの映画の一番の魅力は、主人公であるロンの心情の変化によって、戦争の必要性が語られている部分です。戦争に行く前のロンは、「戦争賛成、アメリカ国民ならば自国のために自分を犠牲にする精神を持っていないとだめだ」といった思いを持っていました。また、子どもの頃に見たアメリカ独立記念日のパレードで歩く兵士たちの姿や、高校に勧誘をしに来た海兵隊の凛とした姿にあこがれを抱いていました。そのためロンは、友人たちに反対されながらも自ら志願してアメリカ軍に入隊します。自国のために戦えると希望に満ちていたロンですが、戦場での体験や帰還してからの光景は自分が想像していたものではありませんでした。戦場では何の罪もない民間人を殺してしまったり、飛び交う銃声でパニックになり仲間を誤射して死なせてしまったりしました。敵に撃たれ病院送りになったときには、けが人にも関わらずその病院で人間らしからぬ扱いを受けました。戦争を終え自国に帰還したロンは、子どもの頃に見たアメリカ独立記念日パレードの兵士のようなたくさんの人々から称賛される光景を想像していましたが、実際に待っていたのは非難の言葉や嘲笑の嵐でした(ベトナム戦争はアメリカが初めて負けたとされる戦争であったため)。また、友人の誘いで反戦デモに参加することになり、そこで多くの人が弾圧される姿を目の当たりにしました。このような多くの悲惨な体験からロンは、戦争は間違っていると思うようになりました。戦争賛成だった人間が、実際に戦争を体験することで戦争反対の考えに変わる。このことから戦争はあるべきものではないということがわかります。私は戦争はこの世に存在するべきではないと考えています。戦争は間違っていると強く伝えることができるのがこの映画の一番の魅力であり、オリバー・ストーン監督が伝えたかったことだと思いました。
もう一つ良いと思った点がありました。それは、戦争映画でありながら戦闘シーンではなく、戦争が起こった後の話をメインにしていたということです。戦闘シーンが少ないと、戦場でのつらさが伝わりづらいという風に考え、悪い部分ととらえる人もいるかもしれません。しかし、戦場のつらさよりも、戦争を終えた後も苦しい思いをしている人たちがいるということを伝えたほうがよいと私は考えています。なぜなら、戦場がつらい場所だということは大勢の人がわかっているけど、戦争が終わったあとのことは知らない人が多いと思うからです。戦争が終わると安心してすべてが解決したと思われがちですが、本当はそうではないということをこの映画を観ることで理解することができます。その点は他の戦争映画にはない良い部分なのではないかと思いました。
この映画の悪い点を挙げるとすると、最後の結末までの流れが少しわかりにくかったということです。最終的にロンは大勢の人々の前で、ベトナム戦争の真実・戦争は間違っているということを演説する機会を得るのですが、その前の場面では反戦運動をしていても弾圧されていました。どのようなことがあってロンは世間に認められ支持されるようになったのかが1回観ただけではわかりませんでした。ロンが支持されるようになったきっかけの一つとして『7月4日に生まれて』という著書を出したことがあるのですが、それがどのような流れで出版することになったのかも描かれていませんでした。きっとロンがたくさんの努力をした結果なのでしょうが、どのような努力をしたのかもワンシーンとして組み込んだ方がわかりやすく、きれいに物語が完結できたのではないかと思いました。
全体を通してこの映画は、一度観て損はない良い映画だと思いました。特にこの映画は戦争は間違っているのだという思いが強く伝わってくるので、現在も戦争を当たり前にしている国の人々や、戦争は物事を解決する良い手段なのだと考えている人たちにはぜひ観てもらいたいです。きっとその人たちの考え方も改められ、世界が平和になる一歩になるでしょう。
©現代社会学部書評コンテスト実行委員会