わたししか知らない美しい闇がある
記憶が抜け落ちてしまったあの頃、夜に寝ることができなくなった。
なにがこわかったわけでも、
時間を忘れることがあったわけでもなく、
なぜか朝日を待ちわびている自分がいた。
ちょうどその頃、人生で最初で最後の家出をしていた。
遅めの反抗期だったけれど、ずっと閉じ込めていたものがついにはち切れたという感じだった。
本当はずっとはち切れる間際で収束していただけで、あの瞬間にはち切れたのはただの偶然だったように思う。
我慢がきかなくなって、逃げ込んだ場所の近くに24時間営業のスーパーがあった。
夜に眠れなくなるとふらっと出かけては、外の見える席に座って朝がやってくるのを今か今かと待ちわびていた。
落ち込んでいたとか、
悩んでいたとか、
そんな感じでもなかったような気がする。
ただただ、朝になってほしかった。
朝を迎える前の暗闇はいつだって温かくて優しかった。
ものすごく暗くて救えない言葉が並ぶ、
悲しい音楽がいつだってお守りだったあの頃。
暗闇の中で聴く、暗い音楽は決して病みではなかった。
明けない夜はない、そんな言葉をよく聞くけれど
あの頃は明けなくってもいいのになって思う夜もあった。
ずっと朝を待ち焦がれていたい。
あの時間がすごく好きだった。
あの頃の環境の、
あの年齢の、
あの精神状態で過ごした、
あの闇の中。
わたしは少しの希望を抱えて生きていた。
夜明けの絶妙な空気感を、
今でも思い出しては恋しくなることがある。
わたししか知らない美しい闇がある。
そんな人生って、悪くないでしょ。
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