読書メモ: アメリカ海軍に学ぶ「最強のチームの作り方」

アメリカ海軍に学ぶ「最強のチームの作り方」
マイケル・アブラショフ 著
吉越浩一郎 訳・解説
三笠書房 2015年
https://www.mikasashobo.co.jp/c/books/?id=100834100

概要

アメリカ海軍のミサイル駆逐艦ベンフォルドの艦長を務め、"米国艦隊最高の艦"に育て上げたアブラショフ氏が、ベンフォルドにて実践したマネジメント手法をまとめた本です。

部下の能力を高め「自分で考え判断できる」人材に育てていくための様々な取り組みが書かれています。
その根底にあるのは、部下の身になって、一人ひとりに尊敬をもって接するという、とてもシンプルな方針です。

チームについて

軍隊というと強い上意下達のイメージがありますが、実際はそうでもないのです。
すべてをリーダー一人で決定するチームは、そのリーダーのキャパシティを超えるととたんに非効率になるものです。
ビジネスと同じように役割分担をして、その役割の中においてはエキスパートとして振る舞うことが求められています。

 最先端のテクノロジーが搭載されたベンフォルドのシステムは、信じられないくらい複雑である。
(中略)
 したがって、一人の人間があらゆることを掌握し続けることはできない。部下からより多くの能力を引き出し、彼らに責任を持つように求めることが必要になる。これはビジネスでも同じだ。
p.20

チームが、そしてチームの集合体である組織が複雑であるということは、その中でお互いに競い合うのではなく、協力することこそが高い成果を成し遂げる道になります。

 各部門のリーダーたちが自分たちのいさかいをやめると、その部下たちもお互いをもっと信頼するようになり、つまらない疑いを抱くことをやめる。人々はお互いに意見を交換するようになり、一つの部門が問題を抱えたときに、助け合うようになるのだ。
 組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利である。誰も「負け組」になる必要はない。「負け組」が必要な組織など、偽物である。
p.86

リーダーの役割

では、チームの中でリーダーはどのように振る舞うべきでしょうか。
アブラショフ氏は部下の身になって、その可能性を最大限に発揮する環境を作ることが仕事だと書いています。

 組織の指揮をとるにあたり、私の立てた方針は、じつにシンプルだった。
「部下の身になって、何がいちばん大事かを考えてみる」ということだ。
 しかし、このシンプルな方針こそ、上司として成功するためには必要不可欠なものだと私は確信していた。
p.17
 私の仕事は、部下が自分の可能性を最大限に発揮できるような環境をつくり出すことだけだった。適切な環境さえつくれば、団結した組織が成し遂げられるものに限界などない。
p.26

部下が可能性を発揮するにあたり、前提としてチームや組織の目標を明確にし、それを部下に確実に伝えることもリーダーの役割です。
「確実に伝える」というのがとても難しいところで、「知っているはず」という思い込みと常に対峙することになります。

 トップから下りてくる伝達事項がよく途中で止まってしまって、現場の人間たちにそれが伝わらないのである。
 彼らは正しい情報を教えてもらえないために、自分たちに求められていると想像したことをし続けた結果、上司たちから叱り飛ばされていた。
p.72

「一人の人間」として扱うこと

部下の可能性を伸ばすことがリーダーの役割である以上、部下の可能性を信じることを欠かすことはできません。
一人ひとりが可能性を秘めた、尊敬すべき人間であることをリーダーが確信するからこそ、部下は「道具」としてではなく「人間」として自身を伸ばしていけるのです。(道具は成長しません。人間だけが成長できるのです。)

 部下たちの多くが、豊かさとはまったく無縁の環境に生まれていたが、全員が自分の人生を何か意義のあるものにしようと努めていた。みな善良で、正直で、勤勉な若者たちだ。彼らは尊敬と称賛を受けるに値するものたちなのだ。
 こうした面接の結果、私の中で何かが変わった。部下たちをとても尊敬するようになり、もはや彼らは、私が命令を怒鳴りつけるだけの「名もなき連中」ではなくなった。私と同じく希望や夢を愛する者たちであり、自分のしていることに誇りを持ちたがっていた。そして、敬意を持って接してもらいたいと願っていた。
 私は彼らの最強の"応援団長"になろうと思った。部下のことを知り、尊敬しているこの私が、どうして彼らに手ひどい扱いができるだろうか? どうして彼らを見捨てられるだろうか?
p.59-60

人は「扱われたように振る舞う」ものです。
チームにとってあなたが重要である、というメッセージを受け続けることで、結果として重要な成果を出せるのであり、その逆ではないのです。
指示通りに動かすため、聞き分けのない子どものように扱えば、その成果もまた子どもがやったようなものになるでしょう。

 上司がつねに部下に送り続けなければならない唯一の信号は、一人ひとりの存在と力が自分にとっていかに大事であるかということである。じつのところ、それ以上に大切なものなど存在しない。
p.45-46
組織の複雑な事柄を処理してその任務を果たせるのは、有能で自信にあふれた部下だけだ。恐怖によって支配したり、子供を叱るときのように罰したりしても、部下がやる気をだすことはない。
p.182

一人ひとりの能力を引き出すこと

可能性を伸ばし、能力を引き出すためには、部下を信頼し裁量を与えることが必要です。
やり方をいちいち口出ししていては、部下のやる気を削いでしまうことは言うまでもありませんし、自分で考えるというもっとも大切なことができなくなってしまいます。
アブラショフ氏は「きみが艦長だ」(原題の"IT'S YOUR SHIP")と伝えることで、部下が自分で考える環境を作っていきました。

 初めのうち、部下たちは物事を行う際に必ず私の許可を求めてきたが、私は部下にこう言い続けた。
「きみたち一人ひとりが艦長だ。自分の担当する仕事においては、きみたちが艦長の責任を負っているのだ。自分で決断をくだしてみろ」
 こうして、私の職場のモットーは「きみが艦長だ」になった。
p.21
 私は、部下たちがさまざまな訓練を通して自分で決断を下せる人間にしたかった。
「自分自身で判断し、行動できる」―彼らの人生がどのようなものになっても、それほど重要で、彼ら自身や彼らの属する組織の役に立つスキルはないと思う。
p.115

ただし、だからといって「丸投げ」をしてはいけません。
指示が完遂される見込みがあるか、それを判断することなく指示を出すことがあってはいけないと、アブラショフ氏は自身の失敗(状況を把握せずに指示を出し、徹夜作業が発生した結果、水夫が見張り中に居眠りをした事故)から語っています。

 これ以降、私は目標を明確にし、それを行なうだけの時間と設備を与え、部下がそれを正しく行うための適切な訓練を受けていることを確認しないかぎり、もう二度と命令を口にすることはしないようにと、心に誓った。
 それが、指示を出す際の最低限の条件なのである。
p.45

感想

この本の中では、部下のやる気を引き出し、改善に挑戦することを後押しすることで、ベンフォルドが素晴らしい成果を上げるようになったことが書かれています。

気になったのは、各持ち場での作業については、ある程度できるレベルを整える仕掛けがあったのではないかな、という点です。
そのため、これを職場で実践しようとなると、やる気の前に必要最低限のスキルが備わっているか、あるいは育成の仕組みがあるかを確認した方がいいのかなと感じました。

相手を一人の人間として扱う、競争ではなく協力、という点で、アドラー心理学とも通じるところを感じました。
いずれも言葉にしたらとても単純なことなのに、実践はなかなか難しいというのが辛いところですね。
もしかしたら、「人間として扱ってもらう」ためのテクニックを考えた方がいいのかもしれないという気がしました。
その人の背景を知って初めて感情を移入できる「人間」になるわけですから、自分の背景を少しずつでも、意図的に開示していくことが身を守ることになるかもしれません。

自分で考え、判断し行動する。
そんなふうに人を育てられるチームになるよう、まずは目の前のメンバーを信頼するところから、なのかなと思います。

 最後にもう一度言っておこう。われわれは一人ひとりが「艦長」なのだ。
p.239

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