読書メモ: ダイアローグ 対話する組織

ダイアローグ 対話する組織
中原 淳、長岡 健 著
ダイヤモンド社 2009年

概要

コミュニケーションにおいては「情報を効率良く伝えること」が重要視されます。
一方で、コミュニケーションによって期待されているのは「行動や思考が変わること」です。
後者を実現するためには、一方的な情報伝達ではなく、「対話」(ダイアローグ)が重要となります。

対話とは何か、背景となる理論的基盤から、企業での実践例までをカバーする内容となっています。

「対話」の要素

「私」を前面に出した一人称的発話のやりとりの中で、今まで気づかなかった新たな意味が生み出され、物事の理解が深まったり、新たな視点や気づきが生まれたりする。このような状態を「対話」(ダイアローグ)と呼ぶのです。

p.94

本書の中では、対話は以下のものとして定義されています。

①共有可能なゆるやかなテーマのもとで
②聞き手と話し手で担われる
③創造的なコミュニケーション行為

p.89

共有可能なゆるやかなテーマ

まず「①共有可能なゆるやかなテーマ」ということですが、対話に参加する各人が、自分の言葉で語ることのできるテーマである必要があります。
言い換えれば、「私は~と思う」という一人称の形で語ることができる必要があります。

「我々は」とか「一般的には」となってしまうと、どれが正しいかを比較し決めることになり、これは「議論」の範疇になります。
対して、対話では優劣をつけること、どれか一つを決めることが目的ではありません。
むしろ差異を見つけ、既存の選択肢にないものを見つけ出すことに重きが置かれます。

聞き手と話し手

次に「②聞き手と話し手で担われる」という点については、特に「聞く(聴く)」ことに注意を払う必要があります。

対話の本質は「話すこと」ではなく、「聴くこと」からはじまるのです。
 なぜなら、誰かが「話し手」として口火を切り、話を継続するためには、誰かが「聴き手」という役割を引き受ける必要があるからです。加えて、「聴き手」としての役割を引き受けていることを、話し手に意図的かつ非明示的に「呈示」する必要があるからです。会話分析などで多くの社会科学者がこれまで明らかにしてきたように、「聴くこと」は積極的かつ意図的な行為なのです。

p.92

相手の話を聞きながら、自分の頭の中で話の内容を評論したり、次に言うことを考えていたりしては、「聴いている」ことにはならないのです。
自分の考えをいったん保留し、聴ききることは、意図をもってやらなければできないことです。

また、聞き手と話し手は固定(=モノローグ)ではなく、入れ替わりながら対話(=ダイアローグ)をしていきます。

創造的なコミュニケーション行為

最後に「③創造的なコミュニケーション行為」という点については、社会構成主義の観点が取り入れられています。

社会構成主義(social constructionismの訳。社会構築主義とも)では、人々は客観的事実に対し、「意味づけ」を行って理解し行動すると考えます。
例えば、「中身が半分のワインボトル」を二人が目にし、一人は「まだ半分ある」と思って飲もうとし、もう一人は「もう半分しかない」と思ってとっておこうとする。すると同じ客観的事実であるにもかかわらず、「意味づけ」に差異が生じた二人の行動は、相反するものになります。

対話はこの「意味づけ」に着目します。
「私は~と思う」というやり取りを繰り返す中で、お互いの差異を探し出し、新たな視点や気づきを生み出していくことが対話なのです。

組織における対話の効用

協調的な問題解決

組織が問題解決に取り組む際に、「その問題設定は適切か」という点は非常に重要です。
そのために、それぞれのメンバーの観点から見えるそれぞれの景色を対話によって掘り起こし、現れてくる意見の違いから、多角的に問題設定の検証をしていくことができます。

問題設定を誤った場合でも、現場の人々の優秀さにより事無きを得ることもあります。
しかし、誤った方向性を正すことができなければ、いずれは組織に大きな損失が発生します。
自分自身が埋め込まれた状況から一歩離れるために、対話は大きな意味を持ちます。

知識の共有

本書の中で、ゼロックスのコピー機修理工の話が記載されています。
彼らの学びは、マニュアルや研修よりも、同僚一人ひとりが語る「こんなスゴイ修理をしたという武勇伝」により行われていました。
しかも、一つひとつの武勇伝の詳細を覚えているわけではありませんでした。

つまり、自分が直面しているトラブルの状況を、おぼろげに覚えている武勇伝と照らし合わせながら推論を行い、打開策を知っていそうな同僚に電話して、解決策を対話的に作り上げていたのです。
そして、その経験もまた武勇伝として皆へとフィードバックされていきます。

ビジネス現場で必要とされる知識は、知識そのものだけでなく、どういう状況でどういう判断をするかという部分まで含む複雑なものです。
そのため、皆で知識を共有し、解決策を対話的に作り上げるというアプローチが必要となってくるのです。

組織の変革

対話は個人の「行動や思考を変える」ものであるため、企業文化や理念の浸透を考える際に大きな意味を持ちます。
理念を「知っている」だけではなく、きちんと腹落ちしてして行動につなげるために、対話は有効です。

そして、個人が変わるだけではなく、同時に組織が変わる必要があります。
環境は常に変わり続け、成功体験が旧くなり組織の足を引っ張るという事態も考えられます。
新しいものを取り入れ、旧いものを捨てる。そのきっかけとなるのは、個人の感じる違和感であり、それを拾い上げることのできる対話の活動です。

感想

仕事ももう長くなってきたので、人に何かを教えるということもたまにあります。
その中で感じるのは、教えることで自分の理解が深まるな、と。
知識を一方的に伝えるのではなく、お互いに影響しあって変わっている、この感覚が対話につながるのかもしれない気がしました。
そういうふうに考えることで、教わる人のプレッシャーを和らげることができないか、ということを考えています。
知識は特定の誰かの中にあるものではない、というのは一つのヒントになりました。

社会構成主義については、プロジェクトマネジメント研究の理論的枠組みとして採用されることがあるということを、以下の記事で知りました。
なので、この本でまた出会うことになり、やはりプロジェクトは人と人との関わりが肝要なのだな、と感じました。

学ぶことは変わること。自分ひとりではなく、周囲の人とともに変わること。
謙虚に、好奇心をもって、世界を見ることができるようになれるといいな、と。

あなたは、大人に学べという
あなたは、大人に成長せよという
あなたは、大人に変容せよという
あなたは、大人にダイアローグせよ、という

で、そういう「あなた」はどうなのだ?

あなたは学んでいるのか?
あなた自身は成長しようとしているのか?
あなた自身は変わろうとしているのか?
そして、あなたはダイアローグの中にいるのか?

p.220

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?