見出し画像

スロー・リバー【ネビュラ賞受賞作】 ニコラ グリフィス ハヤカワ文庫SF

 半分読むのに4か月かかり、残り半分を三日で読み終えました。

 近未来のイギリス。怪我をした裸のローアは、激しい雨のなかで道端に倒れていた。微生物による汚水処理技術で富を築いた大富豪一家の末娘として生まれた彼女は、誘拐犯を殺して逃げてきたのだ。だが、身代金を払わなかった家族のもとにも、警察にも行けない。ローアは女性ハッカーのスパナーに助けられ、新たな生活をはじめるが…ローアの波瀾に満ちた人生を描いて、SFに新たな息吹きをもたらしたネビュラ賞受賞作。

 4カ月かかって最後まで読み終えて、ようやくこの本がネビュラ賞を受賞したという価値は分かりましたが、多くの人には読みにくい小説だろうと思いました。SFですが、SFである部分よりも社会派ドラマのようなミステリになっており、登場人物はそれほど多くないものの、物語の背景を理解するのは少し難しいかも知れません。

 主人公の家族はバイオ系の特許によって財を成した世界的な富裕層。下水から有毒な物質を分解する各種生物を作り出して市場を独占的に支配していたが、この家族の中に存在していた闇の部分によって、主人公ローアは誘拐され、半死半生の状態でアウトローな生活をする女性スパナーに助けられる。しかし正義感の強いローアは徐々にスパナーの反社会的な堕落した生活についていけなくなり、彼女の元を去って最下層の人間になる。
 身代金を払わなかった家族への不信感、また誘拐犯から逃げる時に殺人を犯したと思い、警察からも素性を隠す必要性を覚えたローアは偽造した身分証で新たな人生を始めた。自分の家族がその財を得ている下水処理場は、子供の頃から学んできた知識を生かせる唯一の場所だった。

 この小説で最大の問題点は、主人公が同性愛者であること。それに関するラブシーンが必要以上に多くて、最後まで結構煩わしかった。確かに世界観のリアリティには必要だったのかも知れませんが、そういうのに慣れないオッサンには変な刺激が強すぎました。ちょっとそのウンザリ感が評価で★1つ分くらいは下げる結果になっていると思います。同性愛じゃないとしても、そんなに必要かなと思うところはあった。
 途中までは★2つくらいの評価と考えていましたが、最後の最期で事件の全貌が明らかとなり、主人公ローアが真の自由を手に入れるラストは、ウンザリしていた自分さえも感動させました。最後まで諦めずに読了して良かったと思わせる作品でした。

 あと、もう一つこの小説の書き方で不満だったことは最初から最後までずっと現在と二つの過去のエピソードを順番に描いて行ったこと。少し進んではすぐに別の場面に切り替わるのが本当に面倒でした。同時に三つのシーンを追いかけて行くのはとても疲れる作業だった。なかなか読み進まない一番の理由はそこだったかも知れない。

 同性愛が描かれてはいますが、それでもこの物語は女性の方が共感できるものなのかも知れないと思いました。世界で最も恵まれた環境に生まれた女性がある日突然生死の堺を彷徨い、社会の底辺から自分自身を取り戻していくストーリーです。

この記事が参加している募集

読書感想文

<(ↀωↀ)> May the Force be with you.