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【読書感想】人造記 東郷 隆 文春文庫

 読むのに1カ月以上かかりましたが、面白かった。
 最近すっかり本を読まなくなっていますが、読書は相変わらず好きです。この本はタイトルとあらすじに惹かれて買い、結構長いこと放置していましたが、ようやく読み始めたら思いのほか良くできた短編集でした。万人向けとは言い難いので★3つですが、全体的に秀作です。
 著者は戦車や大砲など兵器関連に精通した人で、かつては『ホビージャパン』『モデルアート』といったプラモデル雑誌で記事を書いていた人らしいです。小説家になってから何度も直木賞候補になっています。つまり玄人受けする面白い小説を書く人。
 発行が1993年と31年も前の本ですが、まだまだ現役の作家です。

 幻想小説なので、選出されるなら直木賞というより泉鏡花賞ではなかろうかとも思いましたが、世界観の不思議さ以上に読ませる面白い小説ということなのでしょう。実際全作わくわくして読みました。
 時代背景は色々ですが、とくに南方熊楠や西行法師など、歴史的に有名な人物を主役に据えた物語はamazonレビューでも好評です。

 印象を分かりやすく言えば「まんが日本昔ばなし」。このアニメシリーズでもシリアスな作品や怪談に近いエピソードが結構存在すると思いますが、歴史的に伝わる昔話をネタに小説化しているようです。
 何年か前に古典作品であるメアリー・シェリー「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」を読みましたが、本書「人造記」というタイトルに惹かれたのは同じ理由だと思います。こちらは反魂という言葉が出て来るので、むしろ山田風太郎の「魔界転生」を連想しますが、東洋における死者の蘇りは仏教絡みで、西洋とは違った不気味さと怪しい雰囲気があって、なんとも気持ち悪いのに魅せられてしまう。日本のホラー映画が海外で流行ったのもそのためですが…

「水阿弥陀仏」
文明から延徳(1469~1492年)の頃にいたとされる幻術使いの話。

「上海魚水石」
戦時中、中国にいた老人が体験したという不思議な昔話。

「放屁権介」
江戸時代、オナラで芸をする人々がいたそうな…

「蟻通し」
南方熊楠が主役。これも漫画になりそうな幻術使いの話。催眠術の一種ですが、科学的な解説としては人間が聴こえない高周波で人の意識を操ると書いてあります。僧侶の読経の声が奇妙な音に聴こえることがありますが、それが高周波となり無意識下に働くらしいです。知らんけど。

「人造記」
西行法師の弟子が出会った高僧が亡くなり、彼へ残された遺書には反魂の秘法がしたためられていた。反魂とは人の魂を呼び戻す呪法…

 好きな人には堪らない魅力のある短編集かと思います。

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