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30年ほど前の私が教えてくれたこと:美大受験デッサンとの再会


1. はじめに:30年ぶりの再会

去年の秋、久しぶりの帰省で実家の物置を整理していた私は、タイムマシンに乗ったかのような体験をしました。埃をかぶった段ボールの中から、約30年前の美術大学受験時代のデッサンが出てきたのです。木炭の香りが微かに残る紙を手に取った瞬間、あの頃の情熱、不安、そして希望が鮮明によみがえってきました。

今回は、この思いがけない再会をきっかけに、美大受験から医学への転身、そして現在に至るまでの私の人生を振り返ってみたいと思います。30年の時を経て、若き日の自分が残してくれたメッセージを紐解いていきましょう。


【参考】先日、美術大学を卒業後、医学を志した理由をまとめた記事も併せて読んでいただけますと嬉しいです。


私の思い出が入った物置♪ 私の学生時代にタイムスリップ!
たくさんの油絵が保存されていました!

2. 美大を目指すきっかけ

2.1. 教育熱心な家庭環境

私は医師である父のもと、教育熱心な家庭で育ちました。小学校高学年から塾に通い、中学生になると家庭教師まで付けてもらう恵まれた環境にいました。しかし、当時の私はその環境に素直に応えることができず、勉強にはあまり熱心ではありませんでした。

2.2. 公立高校での転機

中学受験、高校受験と続けざまに失敗し、最終的に山奥にある公立高校に進学することになりました。この環境の変化が、私の人生の大きな転機となったのです。

これまでの受験勉強中心の生活から解放され、「青春」を謳歌したいと思った私は、ハンドボール部に入部。キーパーとして奮闘し、京都府下ベスト8という成績を残すことができました。この経験は、努力の先に達成感があることを教えてくれました。

2.3. 美術への目覚め

高校時代、学業には相変わらず熱心ではありませんでしたが、「絵を描くのが好きだ」という気持ちが徐々に芽生えてきました。そして、「東京の美大に行きたい」という漠然とした夢を抱くようになったのです。

3. 美大受験への道のり

3.1. 現実との衝突:代々木ゼミナールでの経験

美大受験の厳しさを知らなかった私は、同級生の勧めで大阪の代々木ゼミナールの公開模試を受けることにしました。結果は惨憺たるものでしたが、それ以上に辛かったのは、休憩時間ごとに後ろに集まってきた受験生たちからの心ない言葉でした。

「前の人の絵がひどいな、Nくん、才能を分けてあげたら」

この言葉は、30年以上経った今でも鮮明に覚えています。しかし、この屈辱的な経験が、私の中に「絶対に上手くなってやる」という強い決意を生み出したのです。

3.2. 受験勉強の始まり

その後、冬期講習で東京の立川美術学院に通うなど、懸命に勉強しました。しかし、現役では武蔵野美術大学の短期大学部にしか合格できませんでした。当時はそれでも大きな成果だと喜んでいましたが、入学後に待っていたのは厳しい現実でした。

3.3. 武蔵野美術大学短期大学部への入学

入学してすぐに、自分の実力不足を痛感しました。周りの学生の多くは美術系の高校出身で、デッサンの基礎が身についていました。一方、私はデッサンの基礎もなく、何をすべきかさえ分からない状態でした。

4. 挫折と再挑戦

4.1. 実力不足の自覚

同級生たちと交流する中で、自分の勉強不足を痛感しました。特に、美術系高校出身の友人たちとの実力差は歴然としていました。このままでは将来の夢を諦めなければならないという危機感が、私を次の行動へと駆り立てました。

4.2. 河合塾美術研究所での日々

1年目の後半から、河合塾美術研究所の夜間部に通い始めました。基礎からデッサンを学び直す日々が始まったのです。同時に、周りの仲間たちが東京藝術大学などの難関校に合格していく姿を見て、自分も再挑戦しようという決意を固めました。

4.3. 休学と全力投球

大学を休学し、河合塾美術研究所の本科生となりました。親の理解を得て学費を工面し、人生を賭けた挑戦が始まったのです。

この時期、私は人の何倍もの努力をしました。朝早くから画材の準備をし、夜遅くまでデッサンに打ち込む日々。その姿勢は、今振り返っても尋常ではありませんでした。

5. デッサンに込められた思い

5.1. 才能の壁との対峙

懸命に努力を重ねる中で、「才能の壁」という厳しい現実に直面しました。訓練によって技術は確実に向上しましたが、それ以上の創造性や独自性を生み出すことの難しさを感じたのです。

しかし、この壁に直面したからこそ、自分の限界を知り、新たな可能性を模索するきっかけとなりました。

5.2. 努力の軌跡:デッサンの変遷

以下のデッサンは、私の成長の軌跡そのものです。1枚目の現役時代のデッサンでは、形の把握や立体感の表現が不十分でした。

一方、2枚目以降の美術研究所時代のデッサンでは、陰影の付け方や空間の表現に明らかな進歩が見られます。

特に、石膏像の描写や静物の質感表現には、当時の私の全神経を注いだ跡が窺えます。

デッサンの基礎などを学んでいなかった、現役時代に描いた自画像
デッサンの基礎を学んだ後に描いた自画像。若き日の自画像! かなり痛んでいたけど、これは捨てられない。


当時、ボールを絵に投げたら、ボールが絵の空間の中に吸い込まれるように描かないと言われていました。手前がイマイチ空間関係がかけていない。
石膏像。白い石膏像ですが、立体感を出すためにしっかりと影をつけます。背景をつけない場合は、石膏像を正確に描けているかが問われます。
背景をつける場合は、空間をしっかりと描かなくてはだめで、石膏像は白めにしっかりと書きます。手前の三角錐と石膏像(パジャントだっけ?)との空間がかけていないし、石膏像の首からかけているのが、黒い何かの質感まで表現できていない。


手前の瓶の形が狂っていて甘いし、瓶の中身、もう少しかりっと描かないと! 白っぽいものの空間が描けない人💦
手前の瓶が形、狂っているし、空間が描けていない。牛骨の形も描けていないし。。。。瓶と牛骨の立体感がない。。。。


頑張って描いてるけど、形狂ってますね・・・って思った。


石膏像の台座の部分、ひどいな💦 黒い半透明の布はかなり頑張って描いたなと少しだけ評価♪


懐かしい。石膏の形をきちんととらえるのが苦手だったので、正面など石膏が入る場所は避けて、空間を狙って逆光を狙って描いているのですが、石膏と白い毛糸玉の空間が描けていないし、、、イマイチだなぁ。
三角フラスコの形が左右対称でないかも(;^ω^) でも根性で描き込みをしていますね!
絵をかけるイーゼルに、白い布がかけてあるのだけど、それぞれの空間、質感の違いが描き切れていない💦
これ、私にしては結構描けていると思う。石膏の顔が見えないし、形が正確に描けないのを避けた絶妙の構図なので。
頑張っているのだけど、手間の筒の中に入っているのは何? って感じで質感が描けていない。
丸い石膏像、、、形が描けてない💦
【クロッキー:木炭紙】これ、15分ポーズを数回という、短時間で描いているもの。この集中力はすごいな。
【模写】デューラーの模写。顔がいがんでる💦 見て正確に描く力が欠けていたのだなぁと。


【模写】レオナルド・ダビンチの白い布の模写。暗いトーンの中から、光を読み取って、しわのハイライトの部分を描くことによって、立体感がでてくる。
自画像:スーチンに傾倒していたころに描いたものです。

5.3. 美術への真摯な取り組み

美術研究所時代、私は画材選びから手入れまで、細部にこだわりました。「うまくなりたい」という一心で、人の何倍も時間をかけて制作に取り組みました。今回、物置から出てきたデッサン群を見て、当時の情熱と真摯な姿勢を改めて思い出すことができました。

6. 新たな道へ:東京造形大学と医学への転身

努力の末、東京造形大学に合格しました。新天地での学びは、私に新たな視点と可能性を与えてくれました。しかし同時に、美術の世界で生きていくことへの不安も芽生えてきました。

そんな中、医学の道を選んだ友人の姿に触発され、私も医学への転身を決意しました。美術で培った観察力と集中力は、医学の勉強にも大いに役立ちました。

7. 30年後の気づき

7.1. 過去の自分との対話

30年ぶりにデッサンと向き合い、当時の自分と対話するような不思議な体験をしました。若き日の情熱、挫折、そして再起の軌跡が、一枚一枚のデッサンに刻まれていました。

7.2. デッサンが教えてくれたこと

美大受験時代のデッサンは、単なる過去の作品ではありません。それは、困難に立ち向かう勇気、諦めない心、そして自己を見つめ直す大切さを教えてくれる、かけがえのない人生の教科書なのです。

8. おわりに:芸術と医学をつなぐ私の人生

美術から医学へ。一見かけ離れた二つの分野ですが、私の中では深くつながっています。デッサンで培った観察力と集中力は、医学の勉強にも大いに役立ちました。

美術と医学、それぞれが私の人生において重要な役割を果たしており、この二つの分野の間で見つけたつながりは、今後の人生においても大きな意味を持っています。

若き日の情熱をデッサンに見出し、医療へと生かすことで、芸術と医療の世界の橋渡しをしていきたいと考えています。過去に描いたデッサンが今の私に大切な教訓を与えてくれたように、これからも過去の経験を生かして、未来へと歩んでいきます。


追伸
小学生のときに描いた水彩画にもパワーをもらえました。

【小学5年生の時の水彩画】左足の関節がおかしくて、どこも同じ密度で描いてはいるけど、小5でここまで描いたのは素直にすごいな~って思います。(自分で、誉める)


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