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【新入荷詩集】野口やよい『星月夜』~美しい詩のお手本

『天を吸って』で第30回日本詩人クラブ新人賞を受賞された、野口やよいさんの最新詩集『星月夜』を入荷しましたので、ご紹介します。

私は前作の『天を吸って』を初めて拝読した時、とにかく一撃で虜になってしまって、なんなんだこの天使のような詩は?!、と、それ以来凹んだ日、疲れた日には、『天を吸って』を開いてきました。表現の美しさ、最終行の跳躍感が素晴らしくて、本当に心が癒されるのです。

まずは前作『天を吸って』より、「呼吸」をご紹介しますね(ご本人の許可済み)。

「呼吸」野口やよい

天を吸って
天を吐く

天を吸って
天を吐く

呼吸は
天のひときれと
別のひときれとの
交換だ

生まれてから
ずっと
一度として
途切れることなく

雨もよいの夕暮れは
沈んだひときれを
春の朝は
泡立つひときれを

吸って
吐く

頂いて
お返しする

どうしてわたしを
見放さないのですか

野口やよい「呼吸」
詩集『天を吸って』より


その、野口やよいさんの、つい先日(11月11日)発行されたばかりの最新詩集が『星月夜』です。さて今作はどのような感じだろう…と、ドキドキわくわくで拝読しましたところ…、本当にこれは昼間に読めないですよ、泣けてしまって!「天使の癒し」から「女神の癒し」に、貫禄がパワーアップした感じです。

許可を頂いておりますので、冒頭の詩「星月夜」を全文掲載いたします。

「星月夜」野口やよい

こまかく削った
星屑のような氷を
一粒ずつ 口に含ませた

かき氷
アイス・キャンディ
むかし買ってもらえなかった人は
こあいすぅぅ
氷とアイスの溶けて固まった言葉で
駄々をこねて

もう水も飲めないのに
  もう みずも のめないから――
こあいすぅぅ
干上がった喉でせがんで

寝床を囲んで わたしらは
餞別のさじを回した
明日 旅立つ人へ

一粒 もう一粒 また一粒
一粒 もう一粒 また一粒……

さり さり と散った銀の音は
あれは ほんとうは
鳴っていたのかもしれない

満天から
降る


いつか時は止まって
部屋は消えて
眠るようになつかしい
どこか にいた

 *

あすこに帰ったのだと
知っている

野口やよい「星月夜」
詩集『星月夜』より

上記も含め、前半の12篇はお父様のお見送りをなさったことに関する作品群です。私は「あやとり」という作品が一番好き。お父様と、お父様のお姉様とのあやとりの記憶が、野口さん、野口さんのお子さんへと繋がっていく様子を美しく描写しています。お父様が7歳の時に結核で亡くなった、少し年の離れた姉「きみさん」。「まあちゃん(お父様)」は、その姉からあやとりを教わります。

――まあちゃん あやとりばせんね
――そぎゃんおなごんする遊び
もじもじしながら
手を差し出したのだろう

野口やよい「あやとり」より一部抜粋

「やま」や「たんぼ」といった、次々と形を変えては消えていくあやとりをしながら、“形のないもの”が継承されていく描写に胸を打たれます。

後半の11篇は、儚い一生を生きていくことへの愛に満ちた作品群。「愛はいつも/むだのなかにあるのです」という言葉が印象的な「どんぐり」、“わたし”の中に立つ巨大な楠の描写に勇気づけられる「楠」など、どれも素晴らしい作品なのですが、私は「みどりの海」という作品が一番好きです。

あなただ
あなただ
姿が変わっても
たましいは変わらないから
すぐにわかる

野口やよい「みどりの海」より一部抜粋

山のみどりの中で、もうこの世にはいない“あなた”をふと感じる瞬間。読み手としてだけでなく、書き手として、どうやったらこんなに美しい表現ができるのだろうと思います。こういう柔らかい詩を書きたい方にとっては、野口やよいさんの詩はとても良いお手本になるのではないでしょうか。

『星月夜』も『天を吸って』も、表紙の美しい写真は野口さんの撮影によるものです(野口さんは写真家でもあります)。サイズも、一般的なA5サイズより少し小ぶり。ぜひお手に取っていただきたい一冊です。

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