公表されている会社の平均年収って信用できるの?

就職活動や転職活動をするとき、「年収」が気になる人も少なくありません。
そんな人たち向けに、企業ごとの平均年収が、一覧やランキング形式でまとめられています。
しかし、この情報は信用してもよいのでしょうか? 実際に各企業が公表している情報などをもとに考えてみましょう。


ネット上の平均年収情報の元データはどこにある?


企業の平均年収情報は、大手企業であれば「有価証券報告書」を見ればわかります。実際、ネットやSNSでまとめられている情報にも、「各社の有価証券報告書を参考に作成」などと書かれていて、信憑性の高い情報のようにも思えます。

しかし、「有価証券報告書に書かれているから、この会社に入ればこれくらいの年収になる」と考えるのはよくありません。



実際に有価証券報告書を見てみよう


では、どうしてネット上の平均年収を鵜呑みにしてはいけないのか、実際に公表されている有価証券報告書を使ってお話しします。

平均年収が高い企業として有名な「キーエンス」、大手商社と食品で平均年収が高いといわれる「三菱商事」「アサヒグループホールディングス(以下、アサヒHD)」、平均年収ランキングの上位には来ませんが日本最大の企業である「トヨタ自動車」を比較してみましょう。


キーエンス:1,839万円
アサヒHD:1,250万円
三菱商事:1,631万円
トヨタ自動車:865万円

※各社の2020年8月時点で直近期末の有価証券報告書より


この数字だけを見ると、キーエンス・三菱商事・アサヒHDは高給で、トヨタはそれほどでもないようにも見えます(それでも日本の平均年収よりずっと高収入です)。

ところが、この数字が実態とは言い切れません。
有価証券報告書の記載ルールや企業の詳細を考慮すれば、多少は実態に近づくことができるでしょう。

有価証券報告書には、企業グループ全体の内容が書かれている部分と、一番の親会社の情報だけが書かれている部分があります。これは、金融商品取引法に定められている内容です。

従業員の年収に関する情報は、一番の親会社の情報だけが書かれます。グループ全体での平均年収を推測するには、財務諸表を見るしかありません。そして、財務諸表を見ても、従業員の給与に関するデータがない企業も多いのが事実です。

次に、例に挙げた4社について、有価証券報告書から推測できる範囲で、給与について考えてみました。



ホールディングス企業の場合


平均年収アサヒ

ホールディングス企業(持株会社)の場合、グループ全体に占める人数が非常に少なく、公表されている平均年収になるような給与体系で働いている人はほとんどいません

アサヒHDの場合(2019年12月31日現在)、「平均年間給与12,504,083円」は、たったの155人のデータです。グループ全体では29,327人いるため、ほんの一握りの従業員の平均年収となります。

グループ全体の平均年収は公表されておらず、財務諸表を見て推測することしかできません。

グループ全体での「従業員給付費用」は、約1,595億円。これをグループ全体の人数で割ると、約540万円。
もちろん、ここには工場などで働く多くの人たちも含まれますが、グループ会社の総合職の給与が含まれている点にも注意が必要です。



平均年齢が低い企業の場合


平均年収キーエンス

キーエンスのような企業は、平均年収が高い一方で、従業員の平均年齢が低い特徴があります。

最新のデータ(2020年3月20日現在)で、「平均年間給与18,392,309円」となっていますが、平均年齢は35.6歳で、平均勤続年数は12.0年です。

平均年齢が40歳ちょっとで平均勤続年数が20年程度であれば、「多くの従業員が定年まで働いているかもしれない」と考えられます。
若手社員の採用を強化した結果として従業員数が増えていれば、平均年齢と平均勤続年数が下がります。しかし、キーエンスは5年前(2015年3月20日現在)でも、従業員の平均年齢が35.6歳で、平均勤続年数が11.8年です。

ここから「定年まで働き続ける人がそんなに多くない」と想定できます
つまり、定年まで40年働いたと仮定して、生涯年収が平均年収の40倍程度(約7億円)になると単純計算はできないことを意味します。
有能な人が独立したりヘッドハンティングを受けたりするだけでなく、成果をあげられない人が退職していくケースも多いのかもしれません。



多くのグループ会社がある企業の場合


三菱商事やトヨタ自動車は、グループ全体の人件費が公表されていないため、グループ会社の平均年収を推測することができません。

平均年収三菱トヨタ

子会社・孫会社を抱えている企業グループの場合、「出向・転籍」もあります。
出向や転籍には2種類あり、極端に言ってしまえば、「いずれはグループ本体の重要なポジションについてもらうための武者修行」と「本体では必要ないが全員解雇するわけにはいかないので、グループ会社へ」というパターンです。

すばらしい好業績をあげ続けられていれば、必要ない人材に高い給与を支払いながら飼い殺しにすることもできますが、それにも限界はあります。
実際、業績悪化をきっかけに、まだ仕事のある子会社へ転籍させたりする企業もあります。その際、数百万円も年収が減ってしまうケースもあるようです。



結局は自分の市場価値を高めないと意味はない


以上のように、有価証券報告書で公表されている平均年収を鵜呑みにすることができないことがわかりました。
実際に平均年収が高い企業に入社できても、高い給与が支払われる人として評価され続けなければ意味がありません

それに、今、高給が望める企業であっても、10年後・20年後にも同じような給与体系が続いているかもわかりません
あなた自身が、本当にやりたいことを見つけて、他社に転職を考えるようになるかもしれません。

結局、将来の年収はその時になってみないとわからないのだから、将来のために高い給与を支払うに値する人を目指すことが不可欠だと言えるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?