何がここまで僕を沼らせたのか? -FPVドローン概論-
久しぶりにFPVを始めた頃の友人と再会した。天気が良ければ早朝から車を走らせ、ろくに仕事もせず、ひたすらドローンを飛ばす毎日。大人になってからここまでのめり込んだ趣味は初めてで、毎日FPVでドローンを飛ばすことが楽しくて、文字通り寝る暇を惜しんでは外に出ていた。
その友人はドイツ生まれスペイン育ちで当時100人以上いたスペインのFPVコミュニティに所属しており常に最新のトレンドや新製品情報が入ってくる。(ちなみに、FPVがここまで世界的に知れ渡った一番の動画はスペインで行われた林間ドローンレースの映像である。)当時の日本国内にはFPVの情報は皆無で貴重な情報源からの最新情報にいつもワクワクしていたのを覚えてる。
まさに日進月歩な製品開発が進む中、興味の赴くままにあれもこれもと買っており、気づいたらクレジットカードの支払いが100万円を超える月が来た…。いよいよまずいぞ(仕事もろくにしていなかった)、と思った記憶が苦くも懐かしい。果たして、これまでFPVにいくら注ぎ込んできたのだろうか…。
だが、しかし。それは自分にとって重要な通過点だったと今は胸を張って言える。そして、今では純粋なFPVで飛ばすことの楽しさに加え、これまでとは全く異なる可能性を感じている。
僕はFPVドローンは「人間の身体機能を拡張させるツール」だと考えている。これを使うことは、操縦者はこれまでになかった視点や視野を得られ、そこには単にドローンを飛ばして映像を撮る以上の価値があるのだということを。
ここでは、自作のFPVドローンのいったい何がそこまで面白いと感じたのか、そもそも通常のドローンとどう違うのかを説明するために、少し遠回りになるが、僕がドローンと出会い、その後自作するようになった背景も交えながらお伝えする。
僕が初めてドローンに触れたのは、2015年のこと。ガジェット好きだったこともあって、話題になり始めていたドローンに興味を持ち、試しに1万円くらいのドローンをAmazonで購入しました。その名もSyma X4。 初期のドローンはおもちゃみたいなものでした。小さなカメラはついているものの画質は悪い。それでも、一応は空に飛ばすことができた。
その頃はまだドローン規制もなかったので、どこでも飛ばし放題。早速ドローンを購入し、江戸川の河川敷で飛ばしたが、最初はうまく操作できず、いきなり川に落とし、そのまま流されてしまった。(笑)悔しいので帰り道にAmazonで再購入し、飛ばして、また買って、というのをしばらく繰り返し、少しずつ操作できるようになっていった。
それから3ヶ月くらい経ったとき、DJIの「Phantom 3 Professional」という新機種が発売。当時20万円くらいしたもののすぐさま購入。それまでのドローンは今思えば映像の質が悪くて見れたものじゃなかったんですが、Phantom3はジンバルのクオリティが高く、4Kで綺麗な映像を撮れた。映像の良さを謳って出された最初のドローン製品だったと記憶している。
話題性が高かったこともあり、このドローンのレビューを自分のブログに書くと、当時は結構注目された。僕はそれまで会社でシステムエンジニアとして働いていたが、ちょうど退職して、しばらく休んでいた時期だったので時間がたっぷりあった。なのでブログメディアを作って、ドローン関連の情報発信をしていた。
Phantom 3を使うようになった頃から、一般のユーザーだけでなく業界の関係者も僕のブログを見てくれるようになり、ドローン関係のいろんなイベントや講演に誘われたり呼ばれるようになった。
そしてある参加したイベントで、運命の出会いが訪れる。
イベント会場にいると、まずものすごい音が聞こえた。そして眼の前を高速で飛び交う異次元なドローンを飛ばしてる人がいたのだ。僕はそのとき既に50種類くらいのドローンを持っていたが、眼の前を高速で飛ぶドローンは見たことがない形・音・速さだ。これまで見てきた市販の製品とは動きや音が明らかに異なっていた。通常の既製品ではせいぜい時速50キロくらいしか出なかったのに、その機体は時速100キロくらいでピューっと飛び回っているのだ。しかも、直線的に飛ぶだけではなく、機体をくるくる回転させて、自由自在に会場を駆け巡っていた。
「うわ、なんだこれ!」って大きな衝撃を受けた。これが自作ドローンでした。「ドローンを作る世界がこんな身近にあるのか…」と思うと同時に、FPVドローンレースの存在も知って、「自分もドローンを自作して、レースに参加してみたい!」と思ったのだ。それが自作ドローンやドローンレースとの出会いとなる。
いざ自分でドローンを自作しようとすると、まあこれが難しい。まずモーターの配線がよくわからない。赤と白と黒の線を、どういう順番でどこに繋げばいいのか。そしてそれぞれにどういう意味があるのか。素人にはお手上げだった。
また、法律面でもいろんなハードルがあることが徐々にわかってきた。まず、レースに使われるドローンの使用には、国家資格である「4級アマチュア無線技士」の免許が必要。だからまずそれを取るために勉強しないといけない。
だけど、その免許を取得しただけでも、まだ合法的にドローンを飛ばせない。次に、どんな無線機を所有し、管理しているのか総務省に届け出を行い、無線局免許状を発行してもらう必要があるのだ。
個々のパーツからきちんとドローンを組み立てるだけでなく、こうした面倒な手続きを経て、ようやくスタートラインに立てる。
ここまでの話を読むと、「ドローンを飛ばすのに無線の免許や総務省の申請が必要なの?」と思った方もいるだろう。これは、あくまで自作ドローンの場合の話であり、無線資格が必要かどうかは、使用する電波の周波数や出力などによって決まることに留意したい。
国内の家電量販店で販売されているドローンであれば、周波数「2.4GHz帯」のものが使われているため、免許も申請も不要だ。市販の製品は、メーカーが認証をしてくれるので誰でも使えるよう機能を汎用化させて、動作が安定しやすい機体にはなっているし、その分、アクロバティックな動きや高スピードの動きはできなくなってしまう。
一方、ドローンレース用の機体は、映像を送受信するために「5.8GHz」の周波数を用いる機器が使われていて、これを扱うには無線国家資格や総務省への申請が必要になる、ということです。
さて話を戻して、僕は2015年8月頃から自作ドローンの製作にチャレンジしてきましたが、苦難続きでして、実際にレースに出場する準備が整ったのは半年がたった2016年3月のことでした。
いざ自作のFPVドローンを飛ばしてみると、これが本当に楽しく、また操作性の面では、「意外とうまく飛ばせるな」という感触を持った。実は、自作ドローンを完成させるまでの半年間、僕はPC版のFPVシミュレーターを使って練習していたのだ。いろんなコースがあって、オンライン上でタイムを競える仕組みになっているのだが、ゲーマーのようにプレイしまくっていたら、いろんなコースがあるうちのひとつで、ランキング世界1位になった(笑) その過程で得たスキルが、リアルでもそのまま応用できたのだと思う。
初めて出場したドローンレースでは4位となり、その後国内のレースでは何度か優勝もした。おかげで半年で日本代表として国際大会に出場し、準決勝まで進んだり、国内外の大会に参加するようになる。こういう経緯で、僕はドローンレースの道に進んだのだ。
ドローンには、目視で機体を確認しながら操縦するタイプのほかに、僕が普段使っている「FPVドローン」と呼ばれるものがある。FPVとは「First Person View」の略で、「一人称視点」という意味だ。操縦者は専用ゴーグルをつけて操るのだが、ここにはドローンに搭載されているカメラからの映像が映る。つまり、空を飛ぶドローンからの視点で移動するので、鳥になったような感覚が味わえるのだ。同じ「ドローン」でも、市販のドローンと自作したFPVドローンでは、体験がまったく異なる。
通常のドローンとFPVの自作ドローンの違いを説明するうえで重要な背景を説明できたので、改めて本題に戻る。
通常のドローンは、一般的には安定した飛行を重視して設計され、機体の安全性や耐久性を確保している。近年では自動化も促進され、マニュアル操縦の割合はどんどん減っている。具体的には、GPSのセンサー、気圧センサー、カメラセンサー、超音波センサーなど、高機能のセンサーがいくつも備えられている。例えば、ドローンが壁の近くに行ったら、「あと1メートル」というのをちゃんと検知して、1メートルのところに行ったらぴたりと止まるか、もしくはそれを回避するプログラムになっている。これを実現するためにはカメラセンサーや赤外線センサーが必要だ。このような理由から、市販のドローンは基本的には様々なセンサーを搭載して、飛行を安定させたいわけです。
しかしその結果、センサーを積めば積むほど、ドローンの動きはカクカクとロボットのような動きになる。プログラムが複雑になり、システムの計算に負荷がかかり遅延が発生することにも関係する。いずれにせよ、僕たちの本能的なこう動きたいという想いがすぐに反映されないから、リアルタイム性に欠けてしまうのだ。
それに対して、自作のFPVドローンは、飛行速度や機動性が高く、軽量化をすることでニーズに応じて最適化された機体を作ることができる。そしてその動きは、非常に「動物的」だ。操縦とドローンの動きの間にタイムラグがなく、操縦者の意志がダイレクトに伝わる。もちろん、センサーをつけない分、操縦をミスれば壁にぶつかってしまう可能性はある。しかし、だからこそ「ロボット的」ではない人間が歩くのと同じような自然な動きが可能になるのだ。
このリアルタイム性が、とても重要なポイントである。
僕が普段使うFPVドローンは、ホバリングするためのセンサーもないので、空中で静止することもできない。動き続けていないと、落ちてしまうのだ。一般的には、ホバリングできた方が便利だが、不自由で不便ではあるけれど、それにより生まれる緊張感が、むしろ魅力のひとつとなる。実際にFPVドローンを飛ばしている間は他のことを考える余裕がなく、現在の状態や見ている視点に集中せざるを得ない。そして、そのとき僕には「より本源的なものを見たい」という欲求が生じてくるのだ。
僕たちは普段、歩く際には1.5mほどの高さでものを見る。飛行機にでも乗らない限り、生活のほとんどが高さ2m以内の視点だ。ここで渋谷のスクランブルスクエア展望台に登るすると、高さ230mの視点で東京を一望することができる。その時に皆さんは何を感じるか?
歩いているときには高く囲まれていたビル群が、上空からはちっぽけにみえる。視界からたくさんのノイズが消える。明らかにこれまでと異なる視点が生まれ、頭で考える内容に変化が訪れる。僕は、FPVドローンの本質的な価値はここにあると考えているのだ。
高さ1mから100m、半径500mを自由自在に移動し、視点をリアルタイムに変えることができるFPVドローン。ここまで話したように、FPVの自作ドローンは、始めるまでにハードルが高く面倒な点も多々あるが、新たな視点移動がもたらす未知の可能性、動物的に飛ぶことの本能的な楽しさ、通常のドローンですら成し得ない発見ががたくさんあるのだ。
これを撮影と組み合わせたのが現在多くの映画やTVCMなどの広告現場でも使われるようになったFPVドローン撮影・マイクロドローン撮影である。マイクロドローン撮影は画角を決めて行う通常の撮影とは、そもそもの特性が大きく異なります。しかし、その特性こそがハリウッド映画にも活用されまくっている重要なポイントです。次回は、このFPVドローン撮影をもう少し理論的に言語化して、どう映像表現に落とし込むのが良いのかを解説していく。