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神影鎧装レツオウガ 第百三十三話

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Chapter15 死線 01


 破壊、破壊、破壊が渦巻く。
 轟音、轟音、轟音が連鎖する。
 大鎧装サイズまで拡大された上、両手となった事で規模と威力を拡大させたインペイル・バスター、改めツインペイル・バスターが、スレイプニルの内蔵を食い破る。
 更にはそれへ同期して、艦内に仕掛けられた爆発物――辰巳《たつみ》が道すがら仕掛けていた炸裂術式が、次々に爆発する。アリーナが遠隔起爆させたのだ。
 恐ろしく強引ではあるが、これである程度の空洞がスレイプニル内部に生じた。ツインペイル・バスターの噴流はその間隙へ流入、モンロー効果じみて、あるいは楔へ叩き込まれる槌のように、更に破砕が加速。遂には外壁を、格納庫の扉があった一帯を吹き飛ばした。
 素晴らしい爆音が、戦場に轟いた。

◆ ◆ ◆

 轟。
 凄まじい爆音がスレイプニルから轟いた。何の前触れもなく、格納庫の扉があった部分が、派手に吹き飛んだのだ。
「おぉっ!?」
 と、驚いたのはグレンである。まあ「どこだ! ファントム4はどこ行きやがったぁぁ!?」と叫んだ直後にこんな爆発が起きたのだ、むべなるかな。
「な、何だどうなってんだ!?」
「スレイプニルが爆発したみたいスね」
「見りゃ解るわンなコトは!」
 ペネロペにツッコむグレン。当然、その隙を冥は逃さぬ。
「愉快な漫才を、見せてくれるじゃあないか!」
 スラスター推力を合わせた踏み込み、その速度を乗せられた斬撃が、フォースカイザーを襲い――。

◆ ◆ ◆

「ふ、ぅ」
 残心し、オウガ・ヘビーアームドは拳を下ろす。手首部の追加ユニットが可変し、元の位置に戻る。次に辰巳は肩部に追加されたランチャーと、脚部に増設されたスラスターを同時起動……する前に、立体映像モニタへサブカメラの映像を呼び出す。
 足下の後ろ。この惨状を半笑いで見上げているザイード・ギャリガンの、更に後方。背をピンと伸ばし、つかつかとメイドが一人。無論ファネルである。
 ファネルが壁際で立ち止まると、足下の床が唐突に迫り上がる。巨大なその円筒の正体は、非常用シェルターに直通するエレベーターの入り口だ。
 まだ下があるのか、あるいは乗り継いで別の場所へ行くのか。辰巳がそう考えている間に、ファネルは開いたエレベーターの扉に入る。スカートの裾を摘まみ、オウガへ――辰巳へ向けて一礼する。辰巳も軽く手を上げる。
 直後にエレベータの扉は閉まり、急速下降を開始。金属円筒も下降し、元の平らな床へと戻る。
「よし」
 頷く辰巳。オウガの頭部もそれに連動する。だが逆にギャリガンは首を傾げた。
「一つ聞かせて欲しいんだが。なぜファネル君が退去するまで待ったんだい? その素敵な追加装備なら、ここら一帯へトドメを刺す事なぞ簡単だろうに」
「ああ、そりゃ当たり前だ」
 サブモニタに映るギャリガンを横目に、辰巳は機体を操作。オウガの両肩部に垂下された長方形のコンテナ状パーツ――シールド・スラスターが首をもたげる。
「あんな美味い紅茶やらマドレーヌやらを作れる人を、むざむざ巻き込むワケにはいかんさ」
「ふむ、違い無い」
 納得するギャリガン。同時に、オウガ脚部の増設装甲が展開。大型のスラスター四機が顔を出す。霊力光を、吹き上げる。
「じゃあな。先に外で待ってるぜ?」
「良かろう。埋め合わせは、きちんとして貰うぞ?」
 今までと変わらぬギャリガンの口調。だがその裏に凝った殺意は、冷ややかに辰巳の背を撫でた。
「上等」
 口元を歪めながら、辰巳は脚部と肩部の増設スラスターを起動。轟音を撒き散らしながら、オウガの巨体はふわりと浮き上がり――二秒後、一気に最大加速された推力が、オウガの巨体を砲弾じみて撃ち出した。
 ツインペイル・バスターがこじ開けた穴を潜り抜け、あたかも艦載機のように堂々と出撃するオウガ・ヘビーアームド。
 背部にスラスターが集中したその勇壮な後ろ姿を、しかし見送る者は居ない。ギャリガンすら見ていない。
 まあ、さもあらん。加速をかけたのと同じタイミングで、シールド・スラスターは装甲をスライド展開。裏側に格納されていた二連ロケットランチャーが、ほぼ残骸と化していた託宣の部屋を、ギャリガンごと吹き飛ばしたのである。
 崩れる鉄。迫る爆炎。それらを全て置き去りにして、オウガ・ヘビーアームドは遂にスレイプニル外部へと飛び出した。

◆ ◆ ◆

「愉快な漫才を、見せてくれるじゃあないか!」
 スラスター推力を合わせた踏み込み、その速度を乗せられたグラディエーター・ジェネラルの斬撃が、フォースカイザーを襲い――。
「二人とも、油断しすぎですよ?」
 しかし、寸前で阻まれる。
 軋む刃金。完璧に弾き返されるグラディウス。その反動へ逆らわず、グラディエーター・ジェネラルは全力で飛び退る。
 びょう。
 直後、右前腕を恐るべき速度の斬撃が撫でた。ごくごく浅い、ミリ単位の傷が、塗装を削り飛ばす。
「これは、」
 まともにもらったらヤバイやつだな。盾なんぞまるで意味が無い。刹那の結論と同時に、フォースカイザーは間合いを詰めて来る。背部大型スラスターが唸りを上げている。
「なんと」
 目を見開くよりも先に振るわれる銀閃。正中線を両断せんとする一撃を、直前で半身となって回避。だがもはやフォースカイザーは驚く暇すら許さぬ。返す刀で跳ね上がる振り上げが、柄尻を用いた打突が、コマのように回転する薙ぎ払いが、何より恐るべき速度の突きが。悉く致命の威力を伴って冥を狙う。
「はッ」
 対する冥にも慢心はない。振り上げをグラディウスで弾き、打突を盾で受け、薙ぎ払いをしゃがんで潜り、突きを斜め後方へのバックステップで回避。同時にスラスターを全力駆動、大きく間合いを取って仕切り直しを計る。
「やれ、やれ。ちと驚いたな」
 油断無く着地しながら、冥は手早く自機の状態を確認。盾が少々へこんだくらいで、目立った損傷はない。回避は完璧だった。
 だが、それ故に。コンソール越しでもひしひしと伝わってくる技巧が、冥の表情を歪ませた。
 もっとも、それは恐怖ではない。
「……いつ以来だろうな? これ程の使い手に巡り会ったのは」
 歓喜だ。
 予想を超えた強敵。その逢瀬に感謝しながら、冥は注意深くフォースカイザーを見る。フォースカイザー側も、油断無く太刀を下段に構え直す。
 そう、太刀だ。数瞬前まで影も形も見当たらなかった得物。霊力武装だろう。
 強度、生成速度、どちらも素晴らしい。だが何より冥を驚かせたのは、パイロットの技量そのものだ。
 構え、攻め方、立ち振る舞い。何もかもが今までとまるで違う。操縦系統を切り替えたか。複数のパイロットが乗っている以上、十分にありえる話だ。
 そしてそれは、フォースカイザーが持つ機能の一つに過ぎまい。次はどう攻める? 何を繰り出して来る? 大いに楽しみではある、が。
「ま、そっちが先だよな」
 轟。
 片眉を吊り上げる冥の視線の先。
 ただでさえもうもうと煙を噴き上げていたスレイプニルの格納庫跡から、一際大きく吹き上がる黒煙と霊力光。
「むっ、あれは」
 なんスかね、とペネロペが言い終えるよりも先に、それは現われた。
 数は一。脚部と肩部の増設スラスターから霊力光を吐き出しながら、砲弾のように飛び出す機影。
 紺青色の機体の上に、アイスブルーの増加装甲を全身に纏った凪守の大鎧装。サブモニタへ映ったその機影に、グレンは目を見開く。
「な」
 シルエットは随分違うが、見間違う筈も無い。オウガだ。ファントム4だ。五辻辰巳が、ようやくこの場に現われたのだ――!
「な、ん、で」
 遂に現われた宿敵は、着地した後油断無く周囲を警戒している。正しい行為だ。
 だが、だからこそ。
「何で! そこから!! 出ていらっしゃるんですかねえェ!!!」
 その正しさに、グレンはキレた。
 激情が走る。フォースカイザーの合体システムが揺らぐ。膨大なエラーを吐き出す立体映像モニタに、サラは顔をしかめる。
「うッ、ちょっ、グレン!?」
 リンク切断、同時にフォースカイザーの胸部及び頭部ブロック、すなわち烈荒《レッコウ》が強制分離。ビークルモードのままスラスター噴射で空を飛び、偶然近くを飛んでいたタイプ・ホワイトを轢き潰し、更に加速。
 空中でヒューマノイド・モードに変形し、オウガ・ヘビーアームドへと襲いかかる。
「ファああああントム4ォォォォォォォッ!!」
 小型機特有の身軽さとスラスター推力、二つを乗算した鋭い回し蹴りがオウガを襲う。
「なに!?」
 対する辰巳は近くのタイプ・ブルーを両腕の増設ガトリングガンで蜂の巣にしながら半身になる。右肩部シールド・スラスターが、突き出される恰好となる。
 ビークルモードの烈荒と同じぐらいの大きさを誇る複合盾は、奇襲の一撃をやすやすと受け止める。
「へッ」
 グレンは笑った。霊力武装のハンドガンを生成し、盾へ向かって撃つ。撃ち続ける。オウガの動きを封じる為に。
 撃ち続けながら、叫んだ。
「ペネロペェッ!」

◆ ◆ ◆

「は」
 突然飛び出したフォースカイザーの頭部ブロック、もとい烈荒に冥は面くらう。
 だがすぐさま刃を水平に構え、少しつまらなそうに鼻をならす。
「流石に僕を舐めすぎじゃあないか?」
 察するに、辰巳の姿を見て辛抱溜まらなくなったか。だがそれで無防備になった敵機を見逃す理由なぞ、冥にあるはずも無し。
 踏み込む。スラスター推力全開。斬撃圏内まであとコンマ数秒――といった矢先、刀を握るフォースカイザーの手が、ぴくと動いた。
「む」
 反射的に機体を傾ける冥。ねじ曲がるスラスター推力により、半ばスライディングするような恰好となるグラディエーター・ジェネラル。
 直後。その頭上を銀弧が薙いだ。頭のないフォースカイザーが、その太刀を振るったのだ。
「あ、やっぱりハズレですか」
 恐るべき剣筋を見せたパイロットことサラの声が響く。距離を取る冥の機体を、ツインアイがぎろりと追う。
 そう、ツインアイだ。いつのまにかフォースカイザーは、烈荒の離脱によって生じた胸部から上の欠損を、霊力装甲などによる疑似パーツで補っていたのだ。オウガからフィードバックした機構だろう。
「ふふ、道理で無茶な分離を晒すワケだ」
 更にあの疑似パーツ頭部は、今し方の斬撃を振るうまで出ていなかった。あのサラとかいうパイロットは、盲《めし》いたままであれだけの斬撃が放てるのだ。
「イイねえ、楽しませてくれる」
 笑みを深めながら、冥は思考する。果たして次はどう攻めるべきか――そんな矢先、それは聞こえた。
「ペネロペェッ!」
「ういうい、解ってるッスよ」
 グレンの叫びに応え、フォースカイザーの胸部装甲が消える。宙に浮く頭部のみを残した、どうにもシュールな光景に、しかし冥は笑わない。
 欠損した胸部中央。そこに、人影が一つあったからだ。オウガのコクピットへ立つ辰巳のように。
 それは分霊だ。本人は今も機体内部のコクピットに座っている。
 だがそこに現われた彼女は――ペネロペは、床から展開した台座上のライフルを、淀みなく構える。
 グレイブメイカー。装填されるはADP弾。ペネロペはその照星をオウガへ向ける。
 引金が、引き絞られた。

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【神影鎧装レツオウガ メカニック解説】
フォースカイザー(2)

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