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クイックドロウずきん

 むかしむかし、あるところにとてもかわいらしい、えがおのすてきな女の子がおりました。女の子はいつも赤いビロードのぬのでできたずきんを被っております。クイックドロウのマスタリーをえたあかしとして、おばあさんが作ってくれたのです。

 ある日、クイックドロウずきんはて紙をもらいおばあさんのくらす森へでかけました。いり口で拳銃のていれをしている狩うどのおじさんにあいさつし、クイックドロウずきんはげん気よく森をすすみます。

 クイックドロウずきんはほどなくおばあさんの家にたどりつき、とびらをひらきます。ちいさな部屋のなか、おばあさんはなぜかベッドのうえで毛布にくるまっていました。

「こんにちは、おばあさん」

 クイックドロウずきんが大きなこえで挨さつしましたが、なんのへん事もありません。それどころか、いつもとはあきらかに違うにおいが部屋にただよっています。

 クイックドロウずきんははだにちりちりとした冷きをかんじましたが、あえておばあさんのベッドへちかづいていきました。

「おばあさん、おばあさんの耳は、どうしてそんなに大きいの?」
「それはね、お前のいる位置を、音で割り出すためだよ」

「おばあさん、おばあさんの目は、どうしてそんなに光っているの?」
「それはね、ついにこの日が来たかと、待ちきれなかったからだよ」

「おばあさん、おばあさんの毛布は、どうしてケブラー素材で出来ているの?」
「それはね」

 銃声じゅうせい銃声じゅうせい。

 おまえのクイックドロウを無効化するためだよ。みを起こしながらそうさけぼうとしたおばあさん、もといおばあさんになりすましていたオオカミは、しかしくちをぱくぱくさせるのみでした。

 みおろせば、ケブラーごしにおのれの心ぞうをうちぬくあながひとつ、どくどくとあかいえき体を噴しゅつしているではありませんか。

 ピンホールショット。寸ぶんのくるいなくまったくおなじ位置へうちこまれたなまり弾、そのがっ算が生みだす大きな運どうエネルギーは、ケブラーのぼう御をやすやすとつらぬいたのです。

 きょう愕を顔めんにはりつけたまま、うごかなくなるオオカミ。しょせん小ざいくをろうすることしかできない駄けんごときが、ほん物のクイックドロウに勝てるはずはなかったのですね。

「ヒヒ! やるもんだねえクイックドロウずきん」
 入りぐちからこえ。こん度こそま違いなく本もののおばあさんです。ですがクイックドロウずきんはふり返りません。

「おばあさん、おばあさんは、どうしてこんな事を?」
「ヒヒ! 決まってるだろう。おまえに挑戦するためだよ」

 じりじりと、おばあさんはこしのホルスターへ手をのばしました。木もれびを反しゃするリボルバーが、にぶくどう猛にかがやきます。

「風の噂で嫌でも聞こえて来るのさ、クイックドロウずきん、オマエの活躍ぶりがね。それをずっと聞いてるうちに、年甲斐もなくアツくなっちまってねえ」
「そうなんですか。あのかませ犬とも共謀してたんですね。まあそんな事だろうと思いましだけど。でも、おばあさん」

 クイックドロウずきんはふり返りません。ややき妙におもったおばあさんは、へやの鏡ごしにクイックドロウずきんの顔をみました。

「貴女が、勝てるとでも?」

 その、ひょうじょうは。

◆ ◆ ◆

 銃声。

 とおく聞こえたそのおとをあい図に、狩うどのおじさんは立ちあがりました。ホルスターにはぴかぴかのリボルバー。おじさんの闘しをあらわしているかのよう。

 そう、おじさんもまた最きょうという誘が灯にすい寄せられる、おろかなむしケラのいっ匹だったのです。

 あのおくの小屋に、最きょうのクイックドロウがいる。ですがおじさんはたかぶる闘しをあえておさえながら、森のいり口へふり返ります。そこにはひとりの男がいました。

「ここに最強のクイックドロウがいるって聞いてきたんだけどよ。アンタがそうなのかい?」
「どうだろうな。試してみるか?」
「ハ! いいね。そう来なくちゃよ」

 銃声。

 かくしてちとか薬と刹那の火ばなにすべてをかけてしまったむしケラどものたのしいきょう宴は、いつはてるともなく続くのでした。

めでたし めでたし

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